もち麦というものがある。近年よく聞く名前で、食物繊維が豊富で健康によく、ダイエット食品としての効果も期待され注目を浴びている麦だ。スーパーの棚を見ても、多くのもち麦が売られていることがわかる。
ただ、我々はもち麦について詳しく知っているだろうか。お米と一緒に混ぜて炊くだけという手軽さもあり、よく食べているけれど、品種も知らないし、そもそももち麦が何麦なのかも知らない。せっかくなので、もち麦について知ろうではないか。
もち麦とはなんぞや
最近よく聞くもち麦。水溶性食物繊維の「β-グルカン」が豊富で、食後の血糖値上昇の抑制、コレステロール値の安定、免疫力アップや、ダイエットにも効果が期待できることもあり、多くのもち麦製品を見かけるようになった。機能性表示食品制度により、科学的根拠を届け出た上で、機能性を明記することも可能だ(後述)。
徳川家康は贅沢を嫌い麦飯を食べたと聞く。時代によっては白米だけを食べたいけれど、麦を入れてかさ増ししたという話も聞く。米を優と考え、麦を劣とする価値観があるわけだ。しかし、お米に混ぜるだけというもち麦が現在は大人気。時代の変化である。
我々はもち麦についてどれくらい知っているだろうか。お米売り場を見ると、コシヒカリ、ひとめぼれ、つや姫など、パッケージに必ず品種が書いてあるけれど、もち麦は「もち麦」としか書かれていないことが多い。特に深く考えず食べているのだ。
お米の品種は割とこだわる傾向があるように思える。その証拠にお米のパッケージには大きく品種名が書かれている。となると、お米と一緒に炊くもち麦だから、少しこだわってみてもいいのではないだろうか。もち麦にもキチンと品種が存在するのだ。
もち麦とはなにか?
そもそももち麦とはなんなのか、というところから始めたい。もち麦は最近よく聞くようになった気がするけれど、急に発明されたものではない。昔からあるものだ。大麦を分類していくと、もち麦は必ず登場する。
もち麦は大麦である。その大麦には二条大麦と六条大麦が存在する。二条大麦はビールやウィスキーに主に使われ、六条大麦は麦茶や麦飯などに使われる。さらにそこから裸麦と皮麦にわかれ、さらにさらに、もち性、うるち性となるわけだ。
お米には、日常的によく食べるコシヒカリなどの「うるち米」と、お餅やお赤飯を作る「もち米」の2つが存在する。それと同じように麦にも「うるち性」と「もち性」があり、もち性がもち麦となるわけだ。
つまり二条大麦のもち麦もあれば、六条大麦のもち麦もあるわけだ。もちろん味は異なるものになる。ちなみにうるち性より、もち性の方が、β-グルカンが豊富なので、注目されている。
日本に最初に入って来たのは六条大麦で1800年ほど前に中国大陸から伝わった。二条大麦が日本に入ってくるのは明治時代に入ってからなので、随分と日本での歴史に違いがある。
しかし、2016年の生産量を見ると、六条大麦が約5万トンに対して、二条大麦は約10万トン。二条大麦の方が需要が高いことがわかる。ちなみに小麦の生産量は約80万トンなので、世界的に見てもだけど、小麦の方が需要は高い。
全国的にもち麦は生産されている。品種によって気温等の向き不向きがあるが、逆を言えば育てる品種を変えることで、全国各地もち麦の生産が可能となるわけだ。
ちなみに皮麦は殻皮が癒着しており、脱穀に時間がかかるけれど、裸麦と比べると寒さや雨に強いという特性がある。逆に裸麦は搗精の時間も短く、歩留まりも高いけれど、寒さや雨に弱い。
今回は「ダイシモチ」「キラリモチ」「フクミファイバー」「はねうまもち」という4つのもち麦を準備した。どれも似ているようにも見えるし、違うようにも見える。カマイルカとハラジロカマイルカくらいの違いだ。比べれば違うけれど、どれか1つを出されたら、ダイシモチ以外は区別がつかないと思う。
茹でてみる
もち麦にはいろいろな食べ方があるが、まずは純粋に味が知りたいので茹でる。15分ほど茹でれば完成だ。味付けをしてもいいとは思うが、今回は味が知りたいので、お湯で茹でただけだ。
ダイシモチは他と比べれば甘みが控えめでプチプチとした食感が強くサラサラしている。弘法大師にあやかって命名されたそうだ。美味しい。
今回の4つの中では一番甘みがあり、ツルツルした食感がある。ツルツルはニュルニュルと言い換えてもいいが、それは私の茹で方の問題かもしれない。ダイシモチ、キラリモチに比べれば2倍のβ-グルカンが含まれているそうだ。美味しい。
さっぱりした味わいだ。甘さは控えめだけれど、甘さを感じないわけではない。穀物を食べているという感じがする風味が好きだ。北陸から東北でよく栽培されている品種。美味しい。
甘みがあり、穀物感が薄い味わい。甘みが穀物感を減らしているのかもしれない。フクミファイバーの次にツルツルしている感じで、スープなどに入れても美味しいそうだ。美味しい。
炊いてみる!
もち麦のよさは調理のしやすさ。お米と一緒に炊飯器に入れるだけでいい。それぞれのもち麦のパッケージに、お米ともち麦の割合が書かれているけれど、私の経験としては、どれもお米2合、もち麦1合という感じがいい気がする。
1988年に農文協から出版された「霞ヶ浦の風土と食」という本に、1940年の舟島村の麦と白米の割合の調査結果が載っている。麦10や米10はほぼなく、一番多いのが米7、麦3というものだった。次が米8、麦2という結果になっている。
私の米2合、麦1合は昭和15年の人気の割合にかなり近い。麦飯の美味しい割合は昔も今も変わらないのだ。黄金比ということなのだろう。ちなみに米2合、麦1合の場合の水の量は、炊飯器の3.5合の目盛りくらいになる。
4つのもち麦を炊いた。お米はゆめぴりかを使った。私は品種名にこだわる男なのだ。これからの時代はそういう男がモテると思う。そうであって欲しい。
炊き上がったものは、それぞれ色が違う。白い中に黄色っぽかったり、紫っぽかったりの色があって、食卓をカラフルにしてくれる感じもある。
味は先の茹でた時のものと近い。つまりそれぞれ味が違うということ。ただどれも美味しいので、食レポの記事で書くのはあれだけど、好みということになる。あとカレーをかけたら全部カレー味になるからね。
モチモチ具合はただ茹でた時よりも増している。ご飯とも相性がよく、邪魔していない。お米ともち麦のよいところが出ている。つまり美味しいのだ。作る手間もかからないので、普通のお米だけより、もち麦入りがいいかもしれないと思うほどに、美味しい。
ホットケーキも作る
ホットケーキは基本的には小麦粉で作る。そこに砂糖やベーキングパウダーを入れたものが、ホットケーキミックスということになる。これをもち麦で作ってみようと思う。作り方は簡単。もち麦を粉砕して振るいにかけるだけだ。
この状態でも粉ではあるが、民生機なので、やはり売り物の小麦粉のような粉にはなっていない。少し粒が大きいものが残るのだ。それだと口触りが悪くなるので、振るいにかける。
もちろん4種類のもち麦でそれぞれ粉を作るわけだけど、フクミファイバーは硬いようで、粉になる率が悪かった。他の3つのもち麦と同じ量を、同じように粉砕して、振るいにかけるが、粒が小さくならず、最終的な粉になるのは、他より20%ほど少なかった。
それぞれの粉の量は100グラム。そこに砂糖30グラム、ペーキングパウダー4グラム、サラダ油大さじ1杯、卵1個、牛乳100ミリリットルを加える。そして、焼けば、ホットケーキの完成だ。
焼き加減は私の腕もあるので、あまり気にしないで欲しい。問題は味。小麦粉ともち麦のホットケーキでは、あきらかにもち麦のホットケーキがしっとりというか、もっちりしていた。私はそこに感動した。いいぞ、これは美味しいぞ、と。もっちりが好きなのだ。私がグルメ警察なら、間違いなく牢屋に入れておくレベルで美味しい。罪な味だ。
もち麦の品種による違いはあまりわからなかった。ただ全体としてもっちりで美味しいということ。メイプルシロップとバターを乗せたら、そこまで味の違いはわからないのだ。問題は、美味しいということは間違いないが、粉を自力で作るのは大変だったということ。100グラム作るのに40分かかったから。
もち麦を理解した!
2015年に消費者庁が「機能性表示食品制度」を始めたことにより、もち麦にこの記事で書いたようなことが表示され始め人気が出たのではないだろうか。新品種も出て来ているそうなので、もち麦の今後は面白いと思う。
参考文献
『現代農業2021年2月』 農山漁村文化協会 2021
『雑穀・精麦入門』井上直人 倉内 伸幸 日本食糧新聞社 2017
『ムギの大百科』吉田久 農山漁村文化協会 2018
『霞ケ浦の風土と食』森田美比 農山漁村文化協会 1988
『日本の食文化 3: 麦・雑穀と芋』小川直之 吉川弘文館 2019
著者プロフィール
地主恵亮
1985年福岡生まれ。基本的には運だけで生きているが取材日はだいたい雨になる。2014年より東京農業大学非常勤講師。著書に「妄想彼女」(鉄人社)、「インスタントリア充」(扶桑社)がある。
Twitter:@hitorimono
Source: ぐるなび みんなのごはん
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