胃袋だけでなく魂までもが歓喜する、他には代え難いオンリーワンの大好物。
そんな個人的ソウルフードを教えてもらう企画の第一弾は、茨城県龍ケ崎市在住の成斗さんが熱く推す、「ラーメンスタンドとん平食堂(以下とん平食堂)」の辛口ホルモンメンだ。
食べたことのないタイプのラーメンが龍ケ崎に存在した!
ラーメンと地元を愛する成斗さんに連れられて、昨年はじめてとん平食堂を訪れた。そこで食べた辛口ホルモンメンは、圧倒的なボリューム、インパクト溢れる個性的な味、驚きの低値段と、びっくり要素が満載の一杯だった。
これはかなりのパワーフードだ。普通盛りでもパンチ力(≒カロリー)がハンパじゃない!
県道48号線(おなばけ通り)沿い、大昭ホール龍ケ崎(龍ケ崎市文化会館)の向かいに店を構えるラーメンスタンドとん平食堂。写真の男性が成斗さん。
メニューはいろいろあるけれど、成斗さんのおすすめは辛口ホルモンメン。ちょっと想像ができない名前である。
俺の魂(ソウル)も沸き立つ強烈なヴィジュアル。これで600円は安い。携帯で撮った写真ですみません。
背脂の浮いたコッテリスープに、ザックリした歯ごたえのちょっと他にない平打ち太麺がベストマッチ。
ホロホロと崩れる柔らかい辛口ホルモンは、豚の腸を予想していたらパイカという謎の部位とのこと。
結婚相手の父親がとん平食堂の社長だったという運命から生まれた店
辛口ホルモンメンもいいけれど、他のメニューもすごく気になる。きっとどれを食べてもおいしい店だ。
これは改めてしっかり取材させていただかねばと、ふたたび龍ケ崎のとん平食堂へとやってきた。
ということで、また来ました!取材前にも1回きているので都合3回目。
私の知っている限り「日本一目が優しい」ラーメン屋店主、塙貴大(はなわたかひろ)さん。
紹介者である成斗さんにも同席いただいた。1人だと1種類しか食べられないしね。
取材して初めて理解したのだが、成斗さんは龍ケ崎のソウルフードだと言っていたが、子供の頃から食べ慣れた味ではない。
なぜならこの店ができて、まだ2年しか経っていないからだ。
――改めてメニューを拝見したのですが、この店はラーメンと豚肉料理の食堂ですか。
塙:「もともと社長は30年以上『とんこつ屋台らーめん貴生(たかお)』というラーメン店をやっていて、養豚の経験もあったことから新鮮な生もつを使った煮込みを看板メニューにした『もつ煮とん平食堂』を牛久市にオープンしました。それが2013年で、本店になります。
もつ煮以外にも、レバニラ炒めやガツ刺し、ハンバーグにとんかつといった豚肉料理、それに加えてラーメンを出しています」
成斗:「とん平食堂のもつ煮は臭みがまったくなくてメチャクチャうまいっすよ。俺にとっての日本三大モツ煮は、群馬の永井食堂、茨城のとん平食堂、うちのカミさん手作り!」
塙:「この『ラーメンスタンドとん平食堂』は2号店として2年前にオープンしました。本店とはメニュー構成がちょっと違い、本店で人気のもつ煮などは当然ありますが、ラーメンスタンドという名前の通り、あくまでラーメンを中心に据えています」
成斗:「前から牛久の本店に通っていたんだけど、地元の龍ケ崎にこの店ができてすごくラッキーでした」
ラーメンは税込み500円からとリーズナブル。
注文は食券にて。壁に書かれている以上にメニューがある。
――牛久の本店は豚料理がメインで、この2号店はラーメンが主役なんですね。塙さんはずいぶんお若く見えますけど、本店から2号店立ち上げのために移動してきたんですか?
塙:「今年で30歳です。そもそも私は木材屋で、飲食店の経験はまったくなし。今一緒に店をやっている奥さんの父親が、たまたまここの社長だったんです。社長がせっかちなこともあって付き合って半年で結婚し、自分もラーメン屋になる決心をしました。それが結婚の条件でもあったので」
――娘と結婚するなら跡を継げと。一人娘だったんですか?
塙:「いえ、4人兄弟です。本店の店長が社長の長男で、次男はとんこつ屋台らーめん貴生の松戸店の店長をやっています。妻の妹はまだ高校生」
成斗:「へー。うちの次男坊も高校生なんですよ。どうですか!」
――うまくいけば親戚価格でラーメンが食べられますね。いやいや。
塙:「結婚してから2年間は修業の嵐。大変でした。何度怒られたことか。でも未経験だったし、それくらい厳しくしてもらわないとダメですよね。今も毎日が勉強です」
成斗さんが注文したのは辛口ホルモンメンに辛ネギのトッピング、そして小ライス。
細麺がお好みだそうです。
ライスに辛ネギと辛口ホルモンを乗せた食べ方を大仏丼と呼んでいる。
パイカは豚バラの軟骨部分
――辛口ホルモンメンのホルモンは、パイカという部位だと聞きました。
塙:「パイカは豚バラの先にある軟骨部分。安いけど手間がかかるので、使っているラーメン屋はかなり珍しいと思います。パイカラーメンのパイカと辛口ホルモンメンのホルモンは同じ部位です」
――スペアリブから切り落とされる端の部分ですね。沖縄そば屋で「軟骨ソーキ」として使っている店はありますが、ラーメン屋では聞いたことがないです。
「パイカとは軟骨肉を柔らかく煮込んだコラーゲンたっぷりのチャーシューです」とのこと。
これは以前に私が沖縄そばを作ったときに肉屋で買ったもので、豚バラ先軟骨という名前で売られていた。この左側部分を使っているのかな。
塙:「寸胴鍋でほぼ毎日、12時間じっくり煮込んで軟骨まで食べられるようにしています。
パイカは社長がラーメン屋と並行して養豚場をやっていた時代には捨てることもあった部位。それじゃもったいないからと賄いで食べていたら、お客さんから『それうまそうじゃん』といわれて、店でも出すようになったと聞いています」
私は500円のパイカラーメンを太麺で注文。安い!
肉の量がすごい。シーチキンのようにホロリと崩れる柔らかさ。
この日は自社農園で育てたコマツナが肉の下にたっぷり隠れていた。
――パイカラーメンがこのボリュームで500円という理由は、そのあたりに秘密があるんですね。仕込む手間は大変そうですけど。
塙:「安い材料を使っているのもあるし、地味にコツコツやっていこうという姿勢の表れでもあります。できるだけ安くて量が多くておいしい料理をお出ししたい。普通のチャーシューをのせたラーメンもありますが、やっぱり人気メニューはパイカラーメン、辛口ホルモンメンですね。
スープは豚骨をメインに背脂、香味野菜などを加えてじっくりと煮たもの。パイカは別の鍋で煮込むので、店には寸胴が4つも並んでいます。
麺は本店にある製麺機で打っている自家製麺を送ってもらっています。麺作りの修業もしっかりしました。低加水で打った麺を乾かすことで、小麦の味や香りを引き出しているのがこだわりです。本店は細麺、こっちは太麺が標準で、もちろん変更も可能です」
――自家製麺のラーメン屋で乾麺にしている店は初めて聞きました。それで独特のざっくりした歯ごたえに仕上がっているんですね。
他にない歯ごたえの平打ち麺。
お土産用に麺を購入。この完全な乾麺ではなくセミドライの麺が、独特の噛み心地を生んでいるようだ。
あっさりラーメンを頼むと、脂控えめのスープに普通のチャーシューとなる。これはこれでうまそうだ。
低温の油で揚げてから炒めるレバーとハラミの丼
――今日はしっかりお腹を空かせてきたので、ラーメン以外に丼も頼ませてください。
塙:「本店にあるハンバーグやとんかつはやっていませんが、丼のミニサイズがあるのはこっちだけ。メニューの数が少ない分をサイズのバリエーションでカバーしています。
レバーやハラミ(横隔膜)は低温の油でじっくりと揚げてから高温で炒めるので、中が柔らかくジューシーに仕上がります。このあたりは社長が培ってきた大切なノウハウですね。麺類以外の丼やおつまみは、持ち帰りも対応しています」
成斗:「純レバーとハラミがヤバイっすよ。せっかくだから両方食べちゃってください。俺は小食なんで無理ですけど」
純レバー丼の小。小といいつつかなりのボリューム。低温で揚げてから調理することで柔らかく仕上がっている。
ハラミ丼の小もいただいた。ハラミの持つ硬いイメージを覆すジューシーな仕上がり。
この柔らかさ、写真で伝わるでしょうか。
塙:「料理の基本的なレシピは本店と同じですが、やっぱり人が作るもなので味は多少変わってきます。それに人を見て料理を作れというのが社長の教え。麺の茹で具合や脂の量など、バランスを微妙に変えています」
――奥が深い!
塙:「この店のコンセプトやメニューを決めたのは社長ですが、あとはお前ら夫婦に任せる、ここからは自分の腕次第だぞと。まだまだ勉強中だけど、本店には負けないぞ!くらいの強い気持ちでやっています」
社長との付き合いも長いベテラン店員さんのサポートを受けつつ、夫婦で店を盛り立てる塙店長。
「今度は本店の製麺機を取材しにおいで」とベテラン店員さん。いかなきゃ!
とん平食堂自慢のもつ煮は、お土産用にパックされた状態で販売されている。小が500円、大が1,500円。
麺ともつ煮をお土産に購入。ありがとうございました!
つけ麺という選択肢もいいな。次に来たら何を頼むか、最近ずっと迷っている。
丼もやっぱり食べたいなー。
お土産の麺ともつ煮でもつ煮ラーメンを作ってみた
とん平食堂のもつ煮は前に行ったときにも買ってきたのだが、まったく臭みがなくて最高にうまかった。さすが日本三大もつ煮(成斗さん基準)である。
湯煎するだけで食べられるが、具がモツだけなので好みでニンジンやダイコンを足してもよさそうだ。カレーにしてもきっとバッチリ。
今回は麺も買ってきたので、あえて店には存在しない「もつ煮ラーメン」を作ってみた。作り方は醤油ラーメンをスープ少なめで作って、もつ煮を汁ごと全部掛けるだけ。成斗さんからいただいたネギとパクチーをトッピングしたら完成だ。
麺の茹で時間は3分くらい。
味が濃すぎることもなく、いくらでも食べられるもつ煮。これもまたソウルフードだ。
醤油ラーメンに掛けたら、もつ煮ラーメンの完成!
もつ煮と太麺が合うね。でも白いご飯の方が合うかな(といいながらご飯も用意する)。
やっぱりとん平食堂のもつ煮はうまい。次は大きい方のパックを買おう。
ちなみにオフィシャルサイトを確認したら、牛久の本店には、ネギともつを辛味噌で炒めたピリ辛のもつラーメンが存在するらしい。今度はそれを作ってみようかな。
というか次は本店もいってみなければ!
紹介したお店
※本記事に掲載された情報は、取材日時点のものです
※電話番号、営業時間、定休日、メニュー、価格など店舗情報については変更する場合がございますので、店舗にご確認ください
※お酒の提供については、現在、国や自治体の要請に準じています
著者プロフィール
Source: ぐるなび みんなのごはん
個人的ソウルフード探訪記:「ラーメンスタンドとん平食堂」の辛口ホルモンメン(茨城県龍ケ崎市)