これはラーメン餃子のセットではない…完全無欠の「餃子ラーメン」でスタミナを注入してきた話【フミコフミオのサラリーマン御祝膳問答第9回】

1990年代末、駆け出し営業マンの頃、鬼軍曹のような先輩社員に「外回り営業中、絶対に食べてはいけないもの」を厳しく叩きこまれた。厳しくというのは、軽度の暴力を交えてという意味である。だから20数年たった今でも、カレーうどんのようなワイシャツにシミの付きやすいもの、餃子やステーキのようなニンニク臭がキツイもの、腹を下す可能性のある冷たいものは、外回り中に食べることはない。その他にも、食事後に唇や歯にノリがついてしまいそうな料理はできるだけ避けるようにしている。

それでも「営業部門は最低でも目標数値の200％を達成しなければ未達成と同じである」という上司から理不尽な説教を受けたあとは、反骨心そして上司とのバトルを戦い抜くスタミナを注入するために、ニンニクガッツリ系のごはんを食べてしまいたくなる。ラーメンに餃子をつけた餃子セットなら完璧だ。

だが、いざ餃子セットを頼もうとすると、かつての鬼軍曹パイセンが恐ろしい顔で「営業マンがニンニク食べてはダメだ！」と恐喝してくる思い出したくない記憶が蘇ってしまう。トラウマである。35度超のクソ暑い灼熱地獄を外回り営業しているときも、餃子セットを希求する気持ちと鬼軍曹パイセンに植え付けられた「仕事中にニンニクを食べるのは営業マン失格」という教えのあいだで、僕の意志は蜃気楼のように揺れていた。そして、真夏の蜃気楼の向こう側にたまたま見つけたのが今回ご紹介する「丸嶋」さんである。

▲町に溶け込みつつ存在感を放つお店の外観

神奈川県の西、足柄上郡松田町のJR松田駅近くにある「丸嶋」さんは昭和を感じさせる中華料理のお店だ。幹線道路沿いではなく、駅前の商店街にあるところがとてもいい。

▲レトロなお店だ。

名物ラーメンがなんと餃子ラーメン。餃子セットではない。ラーメンに餃子の具をぶちこんだありそうでないスタイルのラーメンである。これなら餃子を食べたことにはならないのでパイセンのトラウマも回避できるし、「ラーメンにライスや餃子を付けてはいけないよ」というドクターからのメタボ忠告を破ったことにもならない。完全無欠のラーメンである。

▲餃子ラーメンと双璧をなすカレーラーメンが尊い

餃子ラーメンには通常麺を手打ち麺の2種を選べるようになっている。中間管理職のプライドが通常麺を選ぶことを許さなかった。上位グレードの手打ち麺を注文した。レトロな店内を眺めているうちに餃子ラーメンどーん。

▲餃子ラーメン。圧倒的餃子感にひれ伏すしかない！

なんだろう初対面で、会ったことがないのに、昔からよく知っているような、そんなたたずまいのラーメンである。豚ミンチ肉と細かく切ったネギとニンニクは餃子そのもの。炒めたニラとモヤシがアクセントになっている。それでいてスープは昔ながらの鶏ガラのしょう油。

▲どこまでも餃子です…

ひとことでいってしまえば餃子の具をトッピングしたラーメンである。だが、食べてみるとそれだけではすまないスゴイラーメンであった。スープで溶けてドロドロになった豚ミンチとネギとニンニクが少し太めの手打ち麺によーく絡んで、餃子だけれども餃子ではないプラスアルファのラーメンになっていた。

▲少し縮れた麺がスープとよく絡むぜ

餃子を超えた超餃子の新ラーメンである。ニラともやしで食感チェンジするのも楽しい。いつものアイテムを工夫して違うものに見せるのは提案営業に通じるものがある…食べながら仕事をつなげて考えてしまう社畜思考が哀しかった。

▲ニラともやしで変化をつけて食べよう。

スープにはコクがあるけれどお薄味なので、時間が経って、ニラ、豚肉、ネギが溶けていっても不思議とあっさりと食べられてしまった。ごく普通の餃子セットだとラーメンと餃子を交互に食べることによって食が進むけれども、餃子ラーメンは器のなかでダイレクトに味が絡み合うので食が進む進む。滅茶苦茶暑いなかで完食。汗を拭くためのハンドタオルは必須だ。