トマトケチャップというものがある。トマトを使った万能調味料で、脂肪の多い料理などで特に相性が良く、ケチャップをかけるとより美味しく食べることができる。ポテトフライにケチャップ、ハンバーグにケチャップ、ホットドッグにケチャップなど、ケチャップは便利だ。
そんなケチャップは、赤色をしている。トマトで作るので赤色になるのだ。しかし、トマトは別に赤色だけではない。黄色トマトもあれば、緑色のトマトも存在する。ということで、赤くないケチャップを作ってみようと思う。
ケチャップのいろいろ
トマトケチャップの原材料はトマトだ。そのトマトはナス科の植物で園芸学的には果菜類に分類される。2018年のデータでは、熊本県が収穫量トップで、2位の北海道に倍以上の差をつけている。本来は夏野菜ではあるが、ハウスでの栽培などもあり、年間を通してスーパーなどにトマトは並んでいる。
日本にトマトが入ってきたのは17世紀、江戸時代のことだ。ポルトガル人により持ち込まれた。しかし、当時は観賞用のため、野菜として栽培が始まるのは明治になってからだ。当時のトマトは赤色でとても小さかったようだ。
トマトの原産地は南米と考えられている。そして、ケチャップが生まれたのはアメリカだ。南米とアメリカは近いけれど、ヨーロッパ経由でトマトはアメリカにもたらされ、1876年にハインツによりトマトケチャップが量産化されるようになる。
日本では西洋料理の普及に伴い、明治時代に日本に伝わり、1884年の「百科全書」に「ケッチヨップ」の名で記されている。1907年にトマトケチャップの試作に成功し、翌1908年に国産化が始まる。今では誰もが知る調味料となっている。
そんなトマトケチャップは、スーパーのケチャップ売り場に行けばわかるけれど、全部赤い。とても赤い。トマトを原材料としているし、トマトと言われれば、赤色を思い浮かべるので、ケチャップが赤色なのは自然のことと思われる。
しかし、トマトは赤色だけではないのだ。いろいろな色がある。ということで、赤色ではないケチャップを作ってみようと思う。さぞ美しい色のケチャップになるのではないだろうか。
ケチャップを作る
緑、黄、赤の3つのトマトを準備した。レゲエを彷彿とさせる配色だ。本来のケチャップは加工用のトマトを使うけれど、一般には手に入りにくいので、一般に流通しているミニトマトを選んだ。ミニトマトでもケチャップは作れちゃうのだ。
そのまま食べるとどれも美味しかった。最近のトマトなので酸味を抑えたフルーツのような感じだ。昔はトマトの香りを異臭と感じる人も多く「トマト臭」と言われたそうだ。最近は基本的にどの野菜も青味を抑えた甘いものが好まれる傾向にある。
今回はそれぞれの色のトマトでそれぞれケチャップを作るけれど、材料などの量は全て同じ。800グラムのトマトに対して、ニンニク1欠片、玉ねぎ1/4、塩6グラム、砂糖12グラム、酢40mlとなる。他の胡椒などは好みだ。
一般にケチャップを作る時は、トマトの皮を剥くところから始まるが、今回はミニトマトで数もあるので1個1個皮を剥くのは果てしない作業になる。そのため上記の方法を採用した。裏ごしすると、ふわふわとしたペーストが誕生する。
裏ごししたものは、緑も黄も赤も夢の国の食べ物かと思う見た目だった。フワフワでパステルカラー、メルヘンチックなのだ。ただ匂いはニンニクと玉ねぎが入っているので、そこまでメルヘンチックではない。とても現実的な匂いだ。ただ嫌な匂いではなく、食欲をそそる匂いと言える。
ペーストを鍋に入れて火にかけ、水気を飛ばして行く。基準としては半分になるまでという感じ。20分から30分ほどでそうなる。ただこの時点で嫌な予感はしていた。ペーストの状態ではあんなに鮮やかだった緑が、火にかけると鮮やかさが失われつつある気がするのだ。
ペーストが半分になったら、お茶のパックに「ブラックペパー」「ローリエ」「シナモン」「グローブ」を少量ずつ入れて鍋に投入する。そして、さらに15分ほど火にかける。
砂糖、塩、酢を投入して3分くらいかき混ぜれば完成となる。ケチャップ作りは道具さえあれば簡単なのだ。あとは、これを冷やして容器にいれればいい。これを3回やって、3色のケチャップを完成させた。
赤が一番鮮やか!
3つの色のケチャップが完成した。生の状態のトマトは緑や黄色が鮮やかだったけれど、ケチャップになると、どこかくすんだ色になった。あの日の思い出みたいな色だ。逆に赤は鮮やか。とても鮮やか。ケチャップが赤の理由がわかった気がする。赤色だけ、鮮やかさが増したまである。
フライしたものを並べたお皿に、それぞれを小さな器に入れて置くと、カラフルでオシャレだった。赤色だけでは実現できないオシャレがそこにはある。ポイントは、どれもケチャップであること。マスタードなどではない。全部ケチャップなのだ。
色は違えど「味」は全て一緒なのだ。トマトの品種がそれぞれ違うので、味の異なるケチャップになるかと思いきや、そんなことはない。3つとも色は違うけれど、キチンとケチャップ味で、ほぼ同じ味。色違いの同じサイズのパーカーみたいな感じなのだ。
それぞれの料理
色が3色あるので、ケチャップを使った料理に今までにない彩を与えることができるのが、このケチャップの良い点だ。今までは赤色になりがちだったケチャップ料理が新たなる色で誕生するのだ。
ファッションには一色コーデというものがある。あえていろいろな色を使わない、逆に難しいファッションだ。それがオムライスで再現された。本来は赤と黄と赤で構成されるオムライスが、全て黄色で誕生したのだ。
とにかく黄色い。オムライスの常識を打ち破った一品と言える。味は変わらない。いつも通りのオムライスだ。秋の実った田んぼを連想させる。見た目も美味しそうなのだ。逆にオシャレなのだ。
緑色のケチャップをソースとしてハンバーグにかけた。ハンバーグは付け合わせにインゲンを使ったりなど、緑を求める傾向にあるが、ケチャップが緑だからそんなものは必要ない。ハンバーグだけで見た目も美しい一品となる。
ナポリタンと言えば赤色を思い浮かべるけれど、このケチャップを使えば、緑色のナポリタン、黄色いナポリタンを作ることもできる。赤いナポリタンも作れば3色ナポリタン。3色パンはあるが、ナポリタンにも3色が誕生したのだ。
赤色ほどはっきりはしないけれど、比べれば緑色も黄色もわかると思う。3色ナポリタンとは言わずに、信号ナポリタン、レゲエナポリタンと命名し売り出してもいいかもしれない。驚くことは何度も書くが味はどれも全く一緒ということだ。色は3色あるが、味に3色はない。ただ食卓が輝きだすじゃない、そういうことなのだ。
色とりどり
ケチャップが赤色の理由がよくわかった。赤だけが火を通しても鮮やかなまま。しかし、黄色も緑色も変わり種としては「あり」と自分に甘い判定をしたい。あとケチャップ作りは楽しい。裏ごしした時のフワフワなペーストが夢見たいな感じですごくいいのだ。
【参考文献】
『たべもの起源事典』岡田哲 東京堂出版 2003
『たべもの起源事典 世界編』岡田哲 筑摩書房 2014
『まるごとわかるトマト: 基礎知識、栽培技術、国内品種から野生種まで完全網羅』田淵俊人 誠文堂新光社 2017
著者プロフィール
地主恵亮
1985年福岡生まれ。基本的には運だけで生きているが取材日はだいたい雨になる。2014年より東京農業大学非常勤講師。著書に「妄想彼女」(鉄人社)、「インスタントリア充」(扶桑社)がある。
Twitter:@hitorimono
Source: ぐるなび みんなのごはん
いろんな色のトマトでケチャップを作ったら、ケチャップが赤い理由がよくわかった