エミューという鳥がいる。オーストラリア原産の鳥で、いま生きている鳥ではダチョウの次に体高が大きい鳥だ。その起源は8000万年前にさかのぼると言われ、オーストラリアの先住民であるアボリジニは太古の昔から神の鳥として大切にしてきた。
そんなエミューが北海道の網走では1,000羽以上飼育されている。日本最大のエミュー牧場があるのだ。エミューは「エミューオイル」となり抗炎症や美白などの効果があるとされており、また肉はヘルシーと言われている。ぜひ食べてみたいと思う。
日本最大のエミュー牧場
鳥は我々の身近な動物と言える。庭やベランダに出れば、スズメやカラスが飛んでいるのを見るし、公園に行けばハトがだいたい歩いている。山の方に行けばキジが闊歩していることもある。
スーパーに行けば鶏肉は必ず売っているし、鶏卵やウズラの卵もあるだろう。しかし、鳥類というのは数多くいるわけで、スーパーには並ばないけれど、実は食用として流通している鳥もいる。それが今回取り上げる「エミュー」である。
世界で一番大きな鳥「ダチョウ」は、卵の大きさや、肉もヘルシーなどと話題になり、知っている気がするが、エミューとなると我々はほとんど知らない。エミューは肉を食べるだけではなく、オイルという使われ方もしている、素晴らしき鳥なのだ。
エミューについて
北海道の網走に日本最大のエミュー牧場が存在する。1,000羽を超えるエミューが飼育され、繁殖にも取り組んでいる。動物園にもエミューはいるけれど、数羽程度なので、1,000羽という数のエミューを見るのはなかなかない機会だ。
エミューは先にも書いたようにオーストラリア原産で、体高は1mほどで体重は重くて50キロほど。寿命は5年から20年とされている。ちなみにダチョウの寿命は80年ほどだ。食性は雑食で草、花、果物、昆虫などを食べる。
1995年にオーストラリアからエミューが導入され、1998年に8羽のエミューが網走に移入された。東京農業大学北海道オホーツクキャンパスで飼育方法や繁殖方法が研究され、今ではエミューを使ったいろいろなものが作られている。
エミュー産業は1970年にオーストラリアで始まり、1980年代までは商業的な関心が低いものだった。2015年に書かれた資料によると現在は1,330戸の飼育農家があり、約8万羽が飼育されているそうだ。それはオーストラリアだけではなく、世界的に市場を確立したことにある。
肉は鉄分が多く高タンパクでヘルシー。脂肪は化粧品の素材となり、皮は革製品となり、羽はアクセサリーや毛鉤の素材となる。ポイントは脂肪を化粧品の素材として使うということだ。
1羽のエミューからおよそ9kgの皮下脂肪を採取できる。この皮下脂肪からエミューオイルを精製する。9kgの皮下脂肪から約6リットルのエミューオイルが精製できるそうだ。エミューオイルの特性は常温では液体で保湿性、浸透性が高く、抗炎症作用や毛穴のつまり防止などの機能に期待ができること。
アボリジニはエミューの脂肪を傷や火傷、打撲傷などの治療薬として使っていた。他の植物油や動物油に比べ、人の皮脂成分に近いため、角質層に素早く浸透し、吸収され、人に不足している成分を自然に補うことができる。エミューオイルはなかなかにすごいのだ。
私もエミューオイルを使ったハンドクリームを使ったことがあるが、少量で十分に伸び、べたつきはないのに潤う。知り合いは虫に刺された時にも塗ると言っていた。たぶんいいのだろう、私は虫刺されに塗ったことはないけど。
エミューの鳴き声は低音でドラムのようだ。言われなければ、元気な車からベース音が漏れているのかなと思ってしまう。羽は1つの羽軸から2本生えている。これは優れた体温調節機構で、羽軸を直立させれば通気性がよく、横にすれば2倍防寒性が高まる。つまりいろんな環境に適応できるわけだ。
エミューの飼育は簡単とは言われている。オーストラリアでは1,000羽を2人で飼育しているという実績もある。また強いらしく、彼らが持つ皮下脂肪と関係あるのか私にはわからないが、怪我してもすぐ治る、と言っていた。エミューではなく、飼育している人が言っていた。
もちろんエミューはオイルだけではなく、肉を食べることもできる。1羽から骨を除くと約14kgの肉を生産できる。高タンパク質、高鉄分、低脂肪、低コレステロールであるため、ヘルシーな食材と言える。
もちろん普通の肉のように焼いて食べるのもいいけれど、他の食肉と比べて比較的低濃度でゲル化、流動性を失い固化するためソーセージやハムなどの加工に向いている。また卵は泡立ちがよく、ふわっとした食感が大切な料理に向いている。
エミューの卵を利用した「生どら焼き」が売られている。北海道産の小豆、オホーツク海の海洋深層水を使った生クリーム餡がエミューの卵を使った生地の中に入っている。これ、ふわふわで超美味しい。めっちゃふわふわ。東京であれば、農大のアンテナショップ「農の蔵」などで買うことができる。
エミューの加工品を買う
網走のエミュー牧場のエミューを使ったハムやソーセージはネットで買うこともできるが、東京農大発株式会社バイオインダストリーが運営する網走市内にある「ショップ笑友」で買うこともできる。「笑友」と書いて「エミュー」と読む。
もともとエミューはオイルとしての利用が主で、肉としては売っていいなかったそうだけれど、今は加工され売られている。こういうのすごく食べたい派なのだ。だって、スーパーでは売っていないのだ。興味しかないじゃない。
エミューのサンドイッチを作る
今回はエミューの加工品を全部入れたサンドイッチを作ろうと思う。ハムなどはやっぱりサンドイッチに合うのだ。そう考え、セイコーマートで食パンを買って、フライパンでトーストした。
見るからに美味しそうだ。海外にこういうサンドイッチがありそうな気がする。ちなみにどれも塩気は適度でそのまま食べても美味しい。それが一堂に介してサンドイッチになるのだ。贅沢だ。
食べてみる。期待に胸を躍らせ食べてみる。エミューについて知り、実際にエミューを見て、加工品に適していると知ってから食べるエミューのサンドイッチ。美味しい。とても美味しい。ワイルドさを残しているように感じる。臭みという表現をしてもいいが、それは好みの問題。私はその度合いが実に絶妙で美味しいと感じだ。
よくこの手のものだと、鶏と比べて、などと聞かれるが、そう答えるのは難しい。エミュー味と言うしかない。比べれば癖があり、好みも出るだろう。ジンギスカンなどと同じだ。ただ癖が私は好きで、食パンがその癖を上手く手懐けている印象を受けた。つまり美味しいのだ。硬くもなく柔らかい。
肉を食べている感じがするのだ。それが嬉しい。まごうことなき肉を食べている感じ。噛むごとに味わいが増す。エミュー肉、もっと流行ってもいい気がする。最近は九州にも規模の大きなエミュー牧場ができたそうだし、来るんじゃないか、流行りが。
エミューが来る
今までエミューについて知らないことが多過ぎた。ダチョウは世界で一番大きいからなんとなく動物園でも注意深く観察していたけれど、エミューはそうではなかった。皮下脂肪からエミューオイルが作られ、肉は美味しい。最高ではないか。エミューが来る。
取材協力
〈農の蔵〉
〈東京農大発株式会社バイオインダストリー〉
〈オホーツクエミューらんど〉
著者プロフィール
地主恵亮
1985年福岡生まれ。基本的には運だけで生きているが取材日はだいたい雨になる。2014年より東京農業大学非常勤講師。著書に「妄想彼女」(鉄人社)、「インスタントリア充」(扶桑社)がある。
Twitter:@hitorimono
Source: ぐるなび みんなのごはん
その数1,000羽以上! 網走にある“日本最大のエミュー牧場”に行ってエミューについて詳しくなりたい