ファストフードの代表格といえばハンバーガー。「マクドナルド」「モスバーガー」「ロッテリア」などのハンバーガーチェーンが覇権争いを繰り広げられるなかで、とりわけ異彩を放つのが「ドムドムハンバーガー」である。創業51年を迎える“日本最古のハンバーガーチェーン”で、業界の重要文化財といっても差し支えないだろう。
1990年代の最盛期には全国に約400店舗を構えたが、2000年頃から徐々に失速。結局、2017年に事業譲渡が行われ、レンブラントホールディングスの傘下に。それにともない設立されたドムドムフードサービスによって、現在27店舗が運営されている(2021年10月現在)。
その成り立ちは、玉置標本氏が書いた「『ドムドムってまだあるの?』とか言わない!新しく生まれ変わったドムドムハンバーガーはなんだかすごいよ!」に詳しい。ドムドムの不器用な立ち回りに「応援してあげたい!」と思ったのは、筆者だけではないはずだ。
世間を騒がせた、丸ごと系魚介バーガーを喰らう
記事の公開からおよそ4年、ドムドムはブレることなく我が道を進む。「お好み焼きバーガー」や「手づくり厚焼きたまごバーガー」に代表される珍バーガーも相変わらず。むしろ以前にも増してパワーアップしている。
最近の大ヒットは、2019年10月に販売された「丸ごと!! カニバーガー」(990円)。その名のとおり、カニを丸ごとフライにしてバンズに挟んだ一品である。脱皮したばかりのソフトシェルクラブを使っているので、殻ごと食べても大丈夫。
「ほんとうに美味しいのかに?」。いぶかるなかれ、見た目のインパクト以上に味の完成度は高い。噛みしめるとカニのうま味と香ばしさがふわり。ねっとり濃厚なカニみそがスイートチリソースと見事に調和する。
いよいよ19日から「丸ごと!!カニバーガー」販売開始です。
柔らかいカニを一つずつ優しく衣づけして揚げています。カニなのにふんわり柔らか旨味たっぷりー☺️ pic.twitter.com/moGz7EGhup— ドムドムハンバーガー (@domdom_pr) 2020年9月17日
前代未聞のカニバーガーは、SNSで熱狂を生んだ。ドムドムが公式Twitterアカウントで販売をリリースしたところ、1,000名以上のユーザーがリツイート。2020年9月に再販を予告すると、リツイートが約2万3,000件を越えるお祭り騒ぎになった。
2021年9月に「丸ごと!! カレイバーガー」がバズったのは、まだ記憶に新しいところ。バンズに挟まれているのは、カレイを一枚丸ごと使った唐揚げ。さながら“フィッシュバーガー2.0”といった趣きである。
唐揚げのサイズは、約20センチ! 白身はふっくらとした上品な味わいで、ヒレは骨せんべいのような香ばしさ。タルタルソース&甘辛醤油ダレの組み合わせも絶妙で、むさぼるように平らげた。
\ 9/10販売スタート /
丸ごと‼️カレイバーガー🍔
見た目はけっこうアレですが、丁寧に下処理した大きなカレイのから揚げは肉厚でふっくらふわふわ✨
カレイの白身、ひれを丸ごと美味しくいただけます😋※一部販売しない店舗がございます
詳細は公式HPへ🐟https://t.co/iVv3i6uYcd#ドムドム🐘 pic.twitter.com/uhwDfaToED
— ドムドムハンバーガー (@domdom_pr) 2021年9月2日
公式ツイッターアカウントが「見た目はけっこうアレですが」と開き直るように、破壊力抜群の存在感で約6,000件のリツイートを叩きだした。こうした反響を受けて、今年12月までの販売延長が決まっている。
新業態にも進出! ドムドムよ、どこへ行く!?
珍バーガー以外にも話題に事欠かない。カレイバーガー販売に先駆けること1ヶ月、新ブランドのハンバーガーショップ「TREE&TREE’s」(ツリー&ツリーズ)を東京・新橋にオープンした。
最大の売りは、和牛100%パティと米粉のバンズを使った「和牛バーガー」(1,350円~)だ。フレーバーは「醤油」「山葵」「紫蘇」など。素材の持ち味を活かしたアプローチは、この頃ブームになっている“グルメバーガー”を彷彿とさせる。
猛攻は、まだまだとまらない。TREE&TREE’sに続いて、なんとカレーライス専門店「カレー屋ドムドム」を期間限定出店したのである(11月29日まで)。場所は東京・銀座の一等地。数寄屋通りにある和食居酒屋の居抜き物件を利用して「和牛すじ肉カレー」(並盛 680円)を提供する。
筆者がオープン初日に訪問したところ、開店直後にも関わらず店頭には長蛇の列が。テレビ局の取材陣も多く駆けつけ、食後のお客さんにインタビューを実施。慌ただしい雰囲気のなか、吹き荒れる“ドムドム旋風”をしかと実感する思いだった。
新体制後にグランドメニューを刷新!
この数年間で見せたドムドムの勢いを誰が予見できただろう。まるで人が変わったようである。なんて思っていたら、本当に人が変わっていた。レンブラントホールディングス傘下になって間もなく、藤﨑忍氏が新社長に就任していたのだ。
藤﨑社長は異色の経歴の持ち主で、これまでに専業主婦、アパレルショップ店長、居酒屋経営者を経験。ドムドムフードサービス設立直後に入社し、それからわずか9ヶ月間で社長の座に上りつめた。
今回は、藤﨑社長と同社取締役部長の浅田裕介さんにインタビューを実施。世間をにぎわせた一連のメニューと取り組みについて聞いてみた。
――2017年に新体制となって4年が経ちました。その間、ドムドムにどのような変化がありましたか?
藤﨑社長 お客さまから見た大きな変化は、メニューではないでしょうか。私が入社した時期にグランドメニューが見直されています。
浅田さん 見直したのは、商品のカテゴリーであったり、価格であったり。商品の取捨選択もしています。例えば、5種類ほどあったポテト系メニューは、フライドポテト、チーズポテト、シャカリポに絞り込みました。
藤﨑社長 商品の開発頻度も変わっています。これまでは、1シーズンごとに新商品を提供していたのですが、現在は月一ペースに。いいアイデア、おもしろい食材があればまずは試作してみるのがお決まりです。
――驚異の開発ペースですね! そんななかで「丸ごと! カニバーガー」が開発されたんですね。
浅田さん 前々から、ソフトシェルクラブを使った商品をつくりたかったんです。社内プレゼンの評判も上々で、販売に踏み切りました。
藤﨑社長 再販告知のツイートがバズった9月17日は、ちょうど浅草花やしき店のプレオープンの日でした。私もオープニングに立ち会ってたんですが、Twitterからの通知でずっとスマホが鳴りやみませんでしたよ。
ドムドムだからできた、丸ごと!! カレイバーガー
――ところで、ドムドムではフィッシュバーガーを取り扱っていませんよね? なにか理由があるんでしょうか。
藤﨑社長 フィッシュバーガーというと、いわゆる四角い白身魚フライを挟んだバーガーのことですよね? 以前はうちでも取り扱っていたんですが、じつはあまり売れ行きがよくなくて……。結局、グランドメニューから消えてしまいました。
浅田さん そのかわり、期間限定で魚介バーガーを出すようにしています。その一環で開発されたのが「丸ごと! カレイバーガー」。カレイは内臓と中骨を処理していますが、尾ひれの付け根だけ小骨を残しています。そうしないと、身がバラバラになってしまうんです。
――フライヤーにも「骨にご注意ください」と但し書きがありますし、商品を受け取る際にもスタッフの方から付け根の骨は食べないよう念を押されました。注意喚起を徹底しているとはいえ、リスクを考えたら大手チェーンではマネしにくいですよね。各店に目が行き届く経営規模のドムドムだからこそ、実現したメニューなのでは?
浅田さん そうですね、少なからず関係していると思います。
藤﨑社長 現場のスタッフを信頼していないと、こうしたメニューを提供することは難しいでしょう。本当にスタッフの皆さんには感謝しかありません。とくに期間限定メニューは、調理にひと手間かかることも多いので、いつも「面倒なレシピでごめんなさい!」という思いです。
――そのほか、印象に残っているメニューはありますか?
浅田さん 「とろ~りもっちり アリゴチーズバーガー」は、思い入れがありますね。マッシュポテトとチーズを練ったフランス料理「アリゴ」を挟んだバーガーです。
藤﨑社長 味は申し分なかったんですが、品名がずっと気になっていたんです。「アリゴ」って日本人にはあまりピンとこないじゃないですか? それでも新しい感覚をと決定したら、告知する直前にTwitterで「じゃがアリゴ」(じゃがりことチーズを混ぜるアイデアレシピ)が話題になって(笑)。その勢いに便乗することができました。
浅田さん 「ドムドムはトレンドに乗るのが上手い」という声も聞こえてきましたが、まったくの偶然です。さすがに、そこまでフットワークは軽くありません(笑)
主催イベントで出品した和牛を新しい武器に
――TREE&TREE’sはどのような経緯でオープンしたんですか?
藤﨑社長 きっかけは、2019年9月に開催した「DOMDOM in 六本木」です。ドムドムならではの高級バーガーが楽しめるイベントで、私たちはこの日のために和牛肉を使った「肉味バーガー」や「醤油バーガー」などを開発しました。どれも好評で、これはドムドムの新しい武器になると考えたんです。TREE&TREE’sの和牛バーガーは、このときのレシピをアレンジしたものなんですよ。
――セルフオーダー・セルフレジ、さらに完全キャッシュレスまで導入していて驚きました。
藤﨑社長 和牛バーガーをはじめ、TREE&TREE’sでは“ドムドムではできないこと”を積極的に取り入れています。デジタル技術を駆使した省力化、省人化もその一環。そのほか、SDGs施策として袋を有料化したり、バイオマス原料を使用したストローを導入したり。また、イートインスペースに限り、食器を使用しています。こうした取り組みはコストがかかるので、比較的単価の高いTREE&TREE’sでなくては難しいんです。
――完全キャッシュレスとは思い切りましたね。
藤﨑社長 それほどポピュラーではありませんが「ブルースターバーガー」さんのような先駆者もいますし、先日オープンした「フレッシュネスバーガー」さんの新ブランドでも導入されています。いずれ、完全キャッシュレス路線も増えていくでしょう。
――TREE&TREE’sといえば「厚揚げバーガー」なんて変わりダネも売っていますね。アレだけメニューリストから浮いているような気がします……。
浅田さん 厚揚げを挟んだバーガーです。一時期、ハンバーガーチェーンで大豆ミートが流行っていましたよね? 私たちも大豆肉を挟んだハンバーガーを検討していたんですが、「これぞ!」という味になかなか出会えなかったんです。
藤﨑社長 そうそう。だったらもう厚揚げでいいじゃん! となったんですよ(笑)。試作してみたら美味しくて、これで行こう!ということに。
――カレー屋ドムドムのオープン初日は、長い行列ができていましたね。開店2時間後の13時頃に売り切れてしまったとか。
藤﨑社長 初日だけの盛り上がりかと思っていたら、オープンから1ヶ月ほどたった現在も行列のできる日があります。最高200杯を売り上げる日もありました。
浅田さん オープンしたのは、TREE&TREE’sの仕込みで出る和牛肉の端材を有効利用するため。一部を夜メニューの「牛すじデミグラス煮込み」に使っているものの、消費しきれず余っていたんです。
――フードロスが課題になっていたんですね。
浅田さん そんななか、店舗流通ネットさんから「銀座にお試し開業しませんか?」と声がかかったんです。ANY ONEというサービスを利用すれば、一月500円の家賃で出店できる、と。
――和食用のカウンター席で食べるカレーが新鮮でした(笑)
藤﨑社長 9席だけのこじんまりした店舗なので、厨房も狭いんです。ピークタイムはスタッフたちがてんてこ舞いしています。
――オーソドックスなジャパニーズカレーなんだけど、深いコクと独特の甘みがあって美味しかったです。牛すじがたっぷり入っているのも嬉しい。
浅田さん 甘みは牛すじ肉によるもの。スパイスの辛さや風味をかき消すほどの強い甘味があり、味の調整には苦労させられました。この頃はスパイスカレーがブームですが、こちらはマイルドで優しい味わいです。
藤﨑社長 インパクトはあるけど味は日本人好み。ドムドムのコンセプトを体現するカレーライスだと思います。
――期間限定で終わらせるのは惜しい気もします。
浅田さん 今回はカレーライスになりましたが、牛すじ肉は和洋中どんなジャンルにも通用することがわかりました。フードロス対策には今後も取り組んでいきたいです。
藤﨑社長 ドムドムのスタンスは、お客様の要望に応えていくことなので、いつか別のかたちで提供される可能性もありえますね。
――いや~、新体制のドムドムは意欲的で一味違いますね!
藤﨑社長 お客さまがいなければ、今のドムドムはありません。「ドムドムってこうなんだよ!」とお仕着せるのではなく、お客さまの人生に寄り添っていきたい。そのためには、今の時代に求められているものをスピーディに取り入れることが大切だと思っています。それを忘れずに、スタッフとともに創立100周年を目指していきたいですね。
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ときには“絶滅危惧種”と揶揄され、ノスタルジックに語られがちなドムドム。しかし、世間のイメージにとらわれることなく、トレンドを上手く取り入れながら独自の進化を遂げていた。新たなフェーズを迎えたドムドムの活躍から目が離せない!
紹介したお店
カレー屋ドムドム
※本記事に掲載された情報は、取材日時点のものです
※電話番号、営業時間、定休日、メニュー、価格など店舗情報については変更する場合がございますので、店舗にご確認ください
著者プロフィール
富士そばライター名嘉山
Source: ぐるなび みんなのごはん
ハンバーガーチェーンの“絶滅危惧種”がついに覚醒…! 新体制「ドムドムハンバーガー」はやっぱりすごいよ?