千葉はピーナッツ王国! 落花生を知ってから落花生を食べると、新豆がさらに美味しくなってしまった

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落花生というものがある。英語ではピーナッツとなる。茹でて食べても美味しいし、炒って食べてもたまらない。バターピーナッツなどはお酒のおともに最適だ。沖縄でよく食べられる「ジーマーミ豆腐」は落花生から作られ、ピーナッツバターは世界中で食べられている。

誰もが知っている落花生ではあるが、日本で食べられている落花生の約90%は輸入されたものだ。しかし、もちろん日本でも生産され、いろいろな品種があり、品種により味は異なる。落花生について知ってから落花生を食べてみたいと思う。

落花生とは

食べ始めると止まらないものの一つに「落花生」があるのではないだろうか。スーパーやコンビニに行けば必ず落花生は売っている。落花生を使った商品は多く、炒り豆やバターピーナッツがあり、ビーナッツバターや落花生豆腐、落花生味噌などいろいろな形で落花生は我々の前に現れる。

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この記事を書いている地主です!

落花生の原産地は古くは中国やアメリカとする説もあったけれど、現在は南アメリカのアンデス山脈のふもととする説が有力だ。16世紀にヨーロッパ人が新大陸を発見した以降はアメリカ、アフリカ、インド、アジアへと落花生は広がって行く。栄養価が高いので大航海時代は貴重な食糧とされた。

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これが落花生です!

日本へと伝わったのは江戸時代のことだった。具体的な時期はいろいろな説があるが、渡来最古と思われる記録は、江戸時代の医者で歴史家でもある黒川道祐の書いた『遠碧軒記』(1675年)と考えられる。

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落花生ですね!

中国から伝わったのだけれど、残念ながらこの時は栽培には至らなかった。落花生自体はちらほらと当時の書物にも登場するのだけれど、栽培が始まるのは明治時代になってから。1871年に中国人から入手した種子を神奈川県で栽培したのが最初で、その後、千葉や茨城でも栽培されるようになった。

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いろんなお菓子があるよね!

ただすぐに普及するわけではなく、落花生は咲いた花が落ちて実ができるので不吉と考えられてか、当初は栽培を嫌がる人も多かった。栽培が本格化したのは1874年で、政府がアメリカから種子を導入して栽培を奨励したためだ。

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バターピーナッツって食べ始めると止まらないよね!

落花生ができるまで

先に落花生は花が落ちて実ができる、と書いたけれど、意外にそれを知らない人も多い。実は私もよく理解していなかった。よく食べるものなのによく知らないということはよくあるのだ。だからこそ学びたい。学んでから食べるとさらに美味しく感じるのだ。

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これが落花生の畑です!

品種や育て方により植える時期は異なるけれど、早いものは3月に種をまき7月に収穫となるが、炒り豆用のものなどはおおむね、5月に種をまき10月頃が収穫となる。つまり11月は新豆が出回る時期となるので、11月11日はピーナッツの日となっている。

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こんな、
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感じで、
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落花生は、
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育ちます!

収穫は他の作物とは異なり特徴的だ。抜いた後に畑で逆さまにするのだ。1、2週間そのような状態で乾燥させる。これを地干しと呼ぶ。この時期に生産地に行くと落花生が逆さまになっている様子を見ることができる。

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このような状態で1、2週間!

地干しが終わると「ぼっち」の制作に入る。円筒状に積み上げてさらに乾燥させる。これが1週間から3週間ほど。10月に収穫して11月に新豆が出回るのは、収穫してから干すという作業が発生するから。やっぱりこの時期に生産地に行くと、ぼっちを見ることができる。目立つので割と特徴的な景観だ。

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これがぼっちです!
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特徴的ですよね!

ちょっとだけ専門的なことを書けば、落花生は連作障害を防ぐ土壌消毒の代わりに利用することもできる。同じ畑で同じ作物を続けて作ると育成が悪くなったり、収量が落ちたりする。これを連作障害というのだけれど、要因はいろいろあり、その大きな要因の1つがセンチュウによる被害だ。

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落花生の甘露煮(これめちゃくちゃ美味しい!)

たとえば、千葉県ではサツマイモの生産が盛んだ。そのサツマイモにはサツマイモネコブセンチュウというサツマイモに被害を与えるセンチュウがいる。しかし、このセンチュウは落花生には寄生できないので、落花生を育てることでこのセンチュウの生息密度が低下するわけだ。

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ピーナツハニー

輪作をすればいいわけだ。簡単に言えば、今年はサツマイモを植えて来年は落花生を植えて、再来年はサツマイモのようにすれば連作障害が防げる。また落花生は根に根粒菌が共存するので、窒素を固定してリン酸を溶かすことができる。環境に優しい省エネ作物と言える。

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落花生の根粒菌(根っこにある粒がそれです)

落花生の品種など

バターピーナッツなどに加工された落花生は多くの場合、品種名は書かれていない。しかし、もちろんと言うべきか、落花生にもいろいろな品種が存在する。有名なところでは「千葉半立」ではないだろうか。

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千葉半立(1953年、千葉県)

千葉県農業試験場にて在来種から選抜して育成したものだ。他の品種と比べると小粒ではあるが、農家さんにお話を聞くと、茹でても炒っても味はよいと言っていた。実際に食べてみても甘みの強い栗のようだった。殻が硬いので一般的には炒り豆とされることが多い。

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おおまさり(2008年、千葉県)

極大粒の品種。千葉半立と比べてもその大きさは一目瞭然(記事の最後の方で比べた写真があります)。ナカテユタカとジェンキンスジャンボを交配させたものだ。ナカテユタカは千葉県育成のもので、ジェンキンスジャンボはアメリカのもの。収量も高く殻も比べれば柔らかく、茹で豆とされている。

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Qナッツ(2018年、千葉県)、ちなみに殻付きを入手できませんでした

私が知る限りではもっとも最新の品種ということになる。「郷の香」と「関東96号」を交配し、約20年の歳月をかけて誕生した。甘みが強く炒り豆に適している。これまでのピーナッツの味を超えるということで、アルファベットのPの次であるQが名前に採用された。

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国内唯一の落花生専門の公的機関が千葉にあります!

他にもサヤカ、タチマサリ、ふくまさり、ワセダイリュウなどの品種があるのだけれど、千葉育成というものが圧倒的に多い。改良半立という神奈川県育成のものもあるけど。千葉には千葉県農林総合研究センター落花生研究室という国内唯一の落花生専門の公的機関があるなど、落花生と言えば千葉一強なのが現状だ。

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こんな風に茹で落花生が売られている

千葉に行くと茹で落花生が真空パックで売られている。他の地域ではあまり見ないのではないだろうか。私はあまり見た記憶がない。殻から茹でると時間がかかるので、このように真空パックになっていると楽で嬉しい。

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自分で茹でると40分くらいかかります!

千葉と落花生

上記で落花生と言えば千葉一強と書いたけれど、それは生産量を見ると一目瞭然だ。2015年のデータを見ると1位が千葉県で日本での生産量の約80%を占めている。2位が茨城で約12%、3位は神奈川県で約2%。圧倒的に千葉なのだ。圧倒的すぎて言葉も出ない。

 

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その中でも八街(やちまた)市が有名です!

千葉県最初の落花生栽培は1876年に現在の山武市の農家「牧野萬右衛門」氏により始まった。大正に入ってからは八街市に干ばつに強い品種が中国から入り、次第に栽培面積を増やしていく。

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八街駅にある落花生のオブジェ

戦時中は一部の地域を除き栽培禁止となっていたが、1946年に再び栽培が開始されると栄養価の高い落花生の価値は高まり、八街市が落花生の集散地として発展する。1953年には八街市の全農家中、落花生栽培戸数が95%を占めるほどだった。農家さんのほぼ全てが落花生を育てていたということだ。

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八街市を走ればぼっちがあちこちにある!

また八街市はスイカ栽培も盛んで、スイカにもサツマイモネコブセンチュウが被害をもたらすので、落花生の輪作も行われていると聞いた。他の作物を育てるためにも落花生は役に立つということだ。

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土の中で町づくりとか社会保障が育っている!

2017年の品種別の千葉県の落花生作付け面積は「千葉半立」が約65%と圧倒的に多く、ナカテユタカ(約26%)、郷の香(3.4%)と続く。八街市で農業を営む内田さんに話を聞いたのだけれど、内田さんも40年ほど千葉半立を育てていると言っていた。

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内田さん

内田さんは八反分(80アール)で落花生(千葉半立)を育てている。落花生は特別お金になる作物ではないそうだけれど、種を自分の家で取れるというのがよいポイントだそうだ。種は買うと高いとお話ししていた。

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内田さんのぼっち

他の作物は種が取れないの? という疑問があると思うけれど、たとえばトマトは取れるけれど、その種から美味しいトマトができるかというと必ずしもそうではない。メンデルの法則が関わってきまして、F1がどうの、とかややこしくなるので、その話はまたいつか。落花生は取れる、ということだ。

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ぼっちの千葉半立

もちろん機械化が進んでいる部分もあるけれど、種を巻くのも人力だし、ぼっちを作るのも人力。抜くのは機械を使うけれど、ひっくり返す地干しは人力だ。また畑が火山灰土ということもあり、砂埃舞う中での作業だそうだ。大変だ。どの作物も大変だけど、落花生もまた大変なのだ。

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八街で食べた落花生ソフトクリーム(酒井のピーナッツ)

その内田さんが言っていたのだ。茹で豆として「おおまさり」があるけれど、炒り豆である「千葉半立」の方が茹でても美味しいと。殻が硬いので茹でるのに時間がかかるため千葉半立は茹でるのに向いていないだけで、美味しいのは美味しいのだ。

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粒はこんな感じ!(左から、おおまさり、Qナッツ、千葉半立)

よし食べよう!

知り合いが落花生を育てていると聞いたので、収穫に出かけた。品種は千葉半立。抜いてみるといっぱい付いていて楽しい。今年(2021年)はやっていないところが多いけれど、八街市でも落花生の収穫体験をできる農園が存在する。ぜひやった方がいいよ、楽しいから。

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観察してから、
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抜く!
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楽しい!
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乾燥させました!

自宅では地干しやぼっちは難しいので、干し網で3週間ほど乾燥させた。この千葉半立で茹で落花生を作り、千葉半立とおおまさりで落花生おこわを作ろうと思う。おおまさりは買ったものが残っていたのだ。まずは落花生おこわから。

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落花生を茹でて、
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うるち米2合ともち米1合を入れて、
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茹でた落花生を入れて(水は炊飯器に従ってください、3合なら3の目盛りまで)、
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酒大さじ2、塩小さじ1を入れて、
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炊く!
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ごま塩を振って完成!!!

八街市でお話を聞いたところ、お菓子などはあるのだけれど、落花生料理を食べられるお店はほぼないそうだ。そうなると自分で作ることになる。落花生おこわは簡単なのでオススメだ。

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美味しそうでしょ!

落花生と言えば炒るイメージだけれど、おこわにしても美味しい。もっちりとした食感と甘みが堪能でき、落花生のよい風味がお米に行き渡っている。わかりやすく美味しいと思える味になるのだ。八街ではお赤飯にも落花生を使うことがあるそうだ。

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次は茹で落花生

基本的には茹で落花生の場合、殻ごとだ。剥いてからでもいいのだけれど、先の真空パックの茹で落花生にしても、殻ごとなのだ。割りながら食べるのが実に乙である。そして食べるとこれが美味しい。

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茹で上がりました!

炒った落花生とは異なり、おこわの時にも書いたけれど、もっちりした食感が心地よく、甘みも際立つ。とにかく甘いのだ。内田さんの言うように、いくつかの品種の茹で落花生を食べたのだけれど、個人的には千葉半立が一番美味しいと感じた。

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美味しいのです!

落花生のことを知ってから食べる落花生は美味しかった。美味しい理由にエビデンスがある気がして、より美味しく感じるのだ。もっとも知らずに食べても落花生は美味しいけどね。国産は貴重ではあるけれど、11月は季節なので見つけたら買って食べたいと思う。マジで美味しいのよ。私の推しは千葉半立!

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左)千葉半立、右)おおまさり

落花生は栄養価も高い

落花生のいろいろを学んでから落花生を食べた。唯一書いてないのは栄養価なのだけれど、老化を妨げるビタミンE、記憶力が向上するレシチン、美のビタミンと言われるビタミンB2、糖質の代謝を助けるナイアシンなどいろいろな栄養素を含んでいる。つまり落花生は素晴らしいのだ。新米って聞くと嬉しいじゃないですか、それと同じでまさに今は新豆の時期ですよ、みなさん!

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千葉の結晶のような一品!

【参考文献】

  • 『ラッカセイ―栽培・加工、ゆで落花生も』鈴木一男 農山漁村文化協会 2011
  • 落花生 (ものと人間の文化史)』前田和美 法政大学出版局 2011
  • 『農業技術大系作物編第6巻』農文協 農山漁村文化協会 2010

著者プロフィール

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地主恵亮
1985年福岡生まれ。基本的には運だけで生きているが取材日はだいたい雨になる。2014年より東京農業大学非常勤講師。著書に「妄想彼女」(鉄人社)、「インスタントリア充」(扶桑社)がある。
Twitter:@hitorimono

地主恵亮「みんなのごはん」過去記事一覧

Source: ぐるなび みんなのごはん
千葉はピーナッツ王国! 落花生を知ってから落花生を食べると、新豆がさらに美味しくなってしまった

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