横浜・石川町に昭和から時間が止まったような、純喫茶の名店があることをご存じでしょうか。
そのお店の名前は、「純喫茶モデル」。
昭和49年に創業してからずっと愛されている喫茶店です。
そのレトロな雰囲気から、映画やアーティストのMV撮影にもよく使われており、雑誌や本などでもたびたび取り上げられる人気店でもある同店。
この記事を書いている筆者は横浜生まれ横浜育ち。石川町にも何度も降り立っていましたが、こんなレトロで素敵な喫茶店があることを最近はじめて知りました。
自分の勉強不足を棚に上げ、「こんな素敵な喫茶店あるなら早く教えてよ~~~!!!」と虚空に向かって叫びました。
もっと早くから知っておきたかった……そんな思いをしたからこそ、「みんなのごはん」読者の皆さんには、中華街の近くにこんないい感じの喫茶店があることを教えておきますね。
純喫茶モデルまでの道のり
「純喫茶モデル」は、JR石川町の中華街側である北口からすぐ。本当に1分もかからないくらいで到着します。
こちらの出口から出て……。
こちらのビルに「純喫茶モデル」はあります。手描きの味のある看板、小窓のかわいらしいオレンジの屋根、アーチを描いたトンネルのような入り口など、見ているだけでワクワクしてきます。
扉を開けるとそこは昭和だった
階段を上がり、ドアを開けるとそこは昭和の空気感を濃厚に今に残した喫茶店でした。自分ひとり、昭和にタイムスリップしてしまったみたいだ。
昭和の喫茶店の雰囲気を知っている人には懐かしく、その時代を知らない人でも懐かしさ、そして「新しさ」を感じます。
声をかけ、メニューをいただきました。
値段を見てびっくり。タマゴサンド 450円、ナポリタン 650円……料理の値段が令和になっても据え置きすぎる(料理の値段はすべて税込みです)。
本当にいいんですか? と思いながらタマゴサンド、クリームソーダ(550円)を注文しました。
人気メニューのタマゴサンドとクリームソーダ。この空間でいただくタマゴサンドとクリームソーダ、外から差し込む日差しにキラキラ反射してまるで宝石のよう。
タマゴサンドはタマゴ焼きが挟まるタイプ。
オーナーがいろいろなお客様の好みに合わせられるようにと、半熟と固焼きの中間を意識して焼いたタマゴはぷるぷる! ふわふわのパンにはマヨネーズとキュウリ、そしてレタスが挟まります。タマゴを口に入れるとバターの風味が鼻孔をくすぐります。
オーナーによると、タマゴ焼きの火加減は本当に難しいのだそう。そしてサンドイッチに使われているパンも柔らかく、技術が必要で普通に切ると潰れてしまうのだとか。
お店の歴史に裏付けられた、技術を感じる逸品でした。
そしてタマゴサンド、結構ボリュームがあります。ナポリタンも気になっていたので両方頼むことも考えたのですが、今回は諦めて良かったと思います。ナポリタンはまた別の機会でリベンジしようと思います。
食後はクリームソーダで流し込みます。
クリームソーダっていいですよね。食べている最中は水分が欲しいし、食後は甘いものが欲しくなる。クリームソーダひとつで両方満たされる。
クリームソーダは、個人的には幼少期のお出かけなどの楽しい記憶が伴う飲み物です。そのためか、飲んでいると浮かれた気持ちになってくる。
駅が近いのでかすかに電車の発車音が聞こえる。そんな環境音も心地よいです。
この場所でこの時間を過ごすことができて良かった。ごちそうさまでした。
さて、「純喫茶モデル」は姉・姉・弟の3姉弟で経営されています。
今回、3姉弟の弟で、経営者のひとりであるしらい たくさんにお話を伺うことができました。
昭和の延長線上にある、「純喫茶モデル」
――昭和、平成、令和と3世代、約半世紀に渡って経営を続けるのはすごいことだと思います。創業当時から変わってるところ、変わらないところを教えてください。
しらい お店は昭和から続いてますから、そのまま昭和の延長線上にいるって状況ですね。実はこのお店は2号店で、1号店は横浜の西区にありました。1960年代半ば頃に私の母がはじめて、そちらは9年ほど続きました。今のお店は、入居してるビルが建設中に母が「喫茶店をやらないか」と声をかけられてはじめたものです。
店名の「モデル」というのも、母が昔ファッションモデルに憧れていたので、「やりたかったんだから『モデル』にすれば」という父の一言で「純喫茶モデル」になったそうです。
――それから、今の場所で約半世紀続いているんですね……!
しらい 2号店を開店した当時は私は高校1年生でしたね。最盛期はバブルの頃で、その時はアルバイトが10人。午前と午後で5人ずつ入ってもらっていました。
私が30歳くらいの頃にバブルがはじけて、景気が低迷してきました。そのあたりから経営的にアルバイトを雇っている余裕がなくなり、姉弟でやるようになりました。そして現在まで続いています。
――創業当時と比べて、例えば味とかは変わっているんでしょうか。
しらい 古い味と現代の味をブレンドして、現代の感覚も取り入れつつ、創業当時の昭和の喫茶店の味わいは守るように作っています。
メニューもそんなに変わってないですが、昔はセットメニューはありませんでした。帝国ホテルがセットをはじめたのをテレビで見て、「うちもこういうのやらなきゃだめだ!」と私が取り入れたんですよね。
――約半世紀営業して、石川町の街の感じってどう変わりましたか?
しらい お店から入って左側は、昔は原っぱだった。右側は今は高速道路ですが、川でした。だるま船が走っているようなね。あとはビルなんかは変わらないですよ。
中華街は、昔は4,5人でコースで中華を食べに行くようなイメージだったけど若い人も増えたね。今はテレビでも紹介されるでしょう。それから若い人がどんどん行くようになった。
――利用するお客さんはやはり、こちらを目的に来ることが多いんでしょうか。
しらい そうですね。こちらを目的にとか、このへんでコーヒーを飲める場所という感じで。今は本とかにも取り上げられるようになったおかげで若い人も増えました。
昔はね、中華街に行く前にここで集まって、コーヒーを飲んで行くようなお客さんがいたんですけど、最近はそういう人は中華街に直接行っちゃいますね。
――私すごいなぁと思ったのが、店内の調度品が丁寧に使われているのか、レトロなのにすごく綺麗なんですよね。これは創業時からそのままなのでしょうか?
しらい テーブルはイタリア直輸入のもので、創業当時から変わりません。黄色い合皮の皮張りの椅子は5、6年前に創業当時と同じものがあったので、皮を張り替えています。
店内の電灯も、お店をつくった時に設計士さんがうちに合うようにと注文して作ってくれたもの。その人がレンガも積んでくれました。
――できた当時の最先端のインテリアなんでしょうけど、今でも素敵ですね。ちなみに店内に絵がたくさん飾ってありますがこちらは……?
しらい それらは私の描いた絵です。洋画家でもあるんです。
――なんと、洋画家さんでしたか。
しらい 画家活動は30歳頃からやっています。今はお店があるから描いていられないですけど2年ごとに展覧会に出していた時期がありました。今は展覧会自体が減っています。バブル時代は展覧会のお誘いがよくあった。また展覧会にも出したいと思っています。
――喫茶店の経営も洋画家としての活動も頑張ってください! ありがとうございました。
「純喫茶モデル」は、誰もが物語の登場人物にでもなれるようなお店だと思います。
昭和から守られてきたメニュー、そして丁寧に残された内装や調度品なども必見です! はじめて来るのに何もかもが懐かしい。それが「純喫茶モデル」です。
現在は新型感染症拡散防止のために営業時間が限られているのですが、時間に気を付けて気軽な昭和トリップを楽しんでみてくださいね!
紹介したお店
営業時間:11:00~15:00
定休日:水曜日(臨時休業あり)
※本記事に掲載された情報は、取材日時点のものです
※電話番号、営業時間、定休日、メニュー、価格など店舗情報については変更する場合がございますので、店舗にご確認ください
著者プロフィール
井口エリ(ちぷたそ)
オタク気味のサブカルフリーライター。最近は御朱印や神社仏閣に夢中。大人げない大人を目指して日夜くだらないことを考えています。「ねとらぼ」や「デイリーポータルZ」など、様々なWEB媒体で記事執筆中。
Twitter:@chip_potekko
ブログ:http://chiptaso.hatenablog.com/
Source: ぐるなび みんなのごはん
ぷるぷるタマゴサンドとクリームソーダ! 横浜・石川町のレトロ喫茶「純喫茶モデル」で昭和にタイムスリップ