閉店したレトロ食堂の奇跡の大復活で喜びのあまりむせび泣いてしまいました。【フミコフミオのサラリーマン御祝膳問答第13回】

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僕が営業という仕事を25年も続けてこられたのは、普段の外回り営業や出張の際に、訪れた町々の名店でランチを食べられるからである。新しいお店や埋もれていた店を見つけたときの喜びは、契約を取れたときとなんら変わらない。営業という仕事を通じて、お気に入りの店を何軒も見つけては、利用してきた。断じて仕事をサボっていたのではない。新規でお店を見つけて、ランチを食べて、お気に入りの店にしていくことは、本業に活力をもたらせてくれた。つまり仕事の一部であった。面倒な案件や取扱い注意のクライアントを前に憂鬱な気分になっても、「あの街にいけばあのランチが食べられる」と思えばこそやり遂げることができたのだ。そういう経験が僕には数えきれないほどある。

 

ところが、皆さんも御存知のとおり、アレの影響で飲食店を取り巻く状況は一変した。宣言やら制限で、飲食店の経営は厳しくなった。もともと経営基盤が弱く、跡取りに苦戦しているような個人店では商売をやめてしまうところも出た。僕が長い年数をかけて見つけてきたお気に入りのお店たちも、その例外ではなかった。「今日はあのエリアに仕事で行くから、ランチはAかBにするか!」と心に決めてノリノリで仕事をサクっと終わらせて、店Aと店Bのドアに「〇月〇日をもって閉店いたしました」という貼り紙を見つけたときの落胆はたとえようがないものだ。個人店の場合は商売をやめてしまったら、復活はない(通っていた常連が味をまもりたいからという理由で、引き継ぐようなケースはあるけれども)。オリジナルがオリジナルのまま復活するのはほぼゼロだ。個人店の完全閉店を知って心の中でむせび泣くことが続いた暗黒の2年間だった。今はようやく制限が解除されて、光が見えてきている。前は通っていたけれど、最近行っていない、でも無くなったら寂しい、そんなお店があったら、足を運んでほしい。

f:id:Delete_All:20190520104945j:plain▲3年前(2019年)のみや古食堂

以前(3年ほど前に)この連載で取り上げた「みや古食堂」というお店がある。秦野市を通る国道246号沿いにある、古き良きドライブイン食堂だ。トラックやトレーラーの運転手に愛されていて、僕もこのエリアを仕事で通るときはときどき利用してきたお店だ。ボリュームたっぷりの定食と、昭和を感じさせるレトロな雰囲気、トラック野郎になれる願望がかなえられる、たまらないお店である。新型コロナ感染拡大後も、ランチタイムには店の前にトラックやコンテナやタクシーや営業車が止まっているので、「この店はコロナに負けないだろう」と安心していた。ところが…。昨年の初夏。お店の前を訪れたときには「みや古食堂」はすでに閉店した後であった。「創業50年をこえる古い店だ。いちど閉店してしまったら復活はない」と僕は絶望した。

 

先日仕事で車を走らせながら、みや古食堂があった場所を「この場所に新しい店ができたらイヤだなあ」というセンチメンタルな気持ちで眺めていたら、以前と同じように駐車場に多くのトラックが止まっているのが見えた。まさか、と思って駐車場に車を入れて確認したら、「みや古食堂」はまさかまさかの奇跡の大復活をとげていたのである。いったい、誰が、どういうわけで、どういう経緯で店を再開させたのか、わからないまま、ぐるなび担当編集のF氏に「前と同じ店を取り上げてもいいか」確認してから、突撃した。復活の喜びと、「イヤな方向に変わっていたら…」という不安とともに。

f:id:Delete_All:20220222174116j:plain▲現在(2022年)のみや古食堂。働く車で満車だ!

復活した「みや古食堂」、パーキングにはトラックやトレーラー、バンといった働く車が並んでいて、以前と全く変わらない。お店の外観もそのままだ。だが安心できない。お好み焼きの店がパンケーキの店になっていたらガッカリしてしまう。こじゃれたパンケーキやアフタヌーンティー、最近はやりのアウトドア感バリバリのバンダナを巻いたヒゲ店員がホットサンドを出すような店になっていたらイヤだなあ、という不安を抱えながらお店に入った。

f:id:Delete_All:20190520104450j:plain▲2019年の店内。貼り紙の宝石箱や

f:id:Delete_All:20220222174049j:plain▲現在の店内。壁が白いぜ

安心した。確かに50年の歴史を感じさせるメニュー貼り紙はなくなり、壁は白くなっていたものの、以前の「みや古食堂」の遺伝子が残っていた。そこにはパンケーキやホットサンドはなく、働く人間のお腹を満たすための美味しくてボリュームのあるメニューが残っていた。揚げ物サイコー、炒め物上等、定食万歳である。

f:id:Delete_All:20220222173729j:plain▲ガッツリ系メニューがそろってます

メニューのなかで最初に目についた「ジャンボたらカツ定食」を頼んだ。こだわりはない。ジャンボという語感に強く魅かれたのだ。壁は白くなって、雑然と雑誌類が詰まれていた本棚はなくなってしまったけれど、テーブルや椅子やお客さんの様子は閉店前と同じであった。

f:id:Delete_All:20190520104811j:plain▲3年前は謎の書籍が積んでありました

この記事に写真が少なめであるのは、メイン客層である、ヤンチャな感じのする働く男たちの目線が気になったからである。売られた喧嘩は買うけれども、どちらかといえばセールスマンなので売るほうが得意分野であるし、「目が合った」「肩がぶつかった」「盗撮して肖像権を侵害された」等々からトラブルに発展するのは避けたいもの……という「みや古食堂」と同様に半世紀を生きてきた庶民感覚が僕を守りに走らせたのである。

f:id:Delete_All:20220222173656j:plain▲ジャンボたらカツ定食(税込800円)

そんなことを考えているとジャンボたらカツ定食が届く。以前と同じように大きめのマル皿にどーんと大きめのたらのカツがのっていて、しかも豪快にはみ出している。盛り付けもサラダどーん、たらカツどーんという言い訳のできないストロングスタイル。あと大事なポイントなのが、スープではなく味噌汁であること。ライス、味噌汁、デカいメインという3点セットこそが「みや古食堂」のDNAである。

f:id:Delete_All:20220222173914j:plain▲言い訳のできないストロングスタイルな盛り付け

駅や市街地から離れた国道沿いの山の中にある食堂に求められるのは、つかのまの休憩時間にガッツリとした美味しいごはんを食べさせるという究極かつ唯一の目的を満たすことではないだろうか。その目的からいえば、ライスは大盛りをオーダーしなければならないところだが、ドクターから暴飲暴食は控えるように注意されているので、今回は泣く泣く普通盛りである。

f:id:Delete_All:20220222173843j:plain▲持ち上げて真っ二つに折れたたらカツ

この大きさのカツならば、胃もたれや胸やけは不可避……と覚悟を決めながら、たらカツにかじりついたが、サクっとしたカツであり、タラもあっさりしているので、ガンガン食べられた。それでもボリュームと重量がスゴイ。箸で持ち上げたところ中央でたらカツ自身の重さで折れてしまった。

f:id:Delete_All:20220222173853j:plain▲オンザライス至高の食べ物

本当はヤンチャな働く男風にガブっと一本丸かじりするのがジャンボたらカツ流儀と思われるが、そのような状況に陥ったため、箸で分割して食べることになった。こういうとき、無頼を気取っていても育ちの良さが出てしまう。ジャンボたらカツを分割した、ジャストたらカツをライスにオンして食べてみた。サイコーである。

 

f:id:Delete_All:20190520105001j:plain▲3年前。トラック野郎への警告だ

f:id:Delete_All:20220222174029j:plain▲現在。警告はそのままに、衛生対策を強化!

 

サクサクな揚げ物やガッツリな炒め物ほど白ライスにマッチした食べものはない。メニュー表は新しくなったが、白ライスにあった揚げ物や炒め物重点主義は、かつての「みや古食堂」そのままで、アップデートもされていないことがやけに嬉しかった。会計の際に「いつ復活したのか」と質問したら昨年の12月22日とのこと。この記事を書いてから、空白の期間を経て閉店から大復活した奇跡の店「みや古食堂」を何度か利用している。推しのお店は利用することでしか推せないのだ。

 

紹介したお店

※本記事に掲載された情報は、取材日時点のものです
※電話番号、営業時間、定休日、メニュー、価格など店舗情報については変更する場合がございますので、店舗にご確認ください

f:id:g-gourmedia:20140811094752j:plain著者 フミコフミオ

海辺の町でロックンロールを叫ぶ不惑の会社員です。90年代末からWeb日記で恥を綴り続けて15年、現在の主戦場ははてなブログ。内容はナッシング、更新はおっさんの不整脈並みに不定期。でも、それがロックってもんだろう?2021年12月16日にKADOKAWAから『神・文章術 圧倒的な世界観で多くの人を魅了する 』という本を発売しました。よろしく!

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Source: ぐるなび みんなのごはん
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