コーヒーというものがある。世界中で愛飲されているどこまでも黒い飲み物だ。寒い冬の日に飲むホットコーヒーは我々の体も心も温めてくれる。メガネを曇らせて飲む冬の日のコーヒーは本当に美味しい。
飲み方はいろいろあって、もちろん何も入れない「ブラック」も美味しいし、砂糖やミルクを入れて飲んでも美味しい。そこにウイスキーを入れて飲んでも美味しいのだ。体がさらに温まる気がする。
ウィンターコーヒー
子供の頃はコーヒーを飲む大人を見て、「何が美味しいんだろう?」と思っていたけれど、大人になりコーヒーを飲むとその美味しさに気がつく。夏に飲むアイスコーヒーも、冬に飲むホットコーヒーもそれぞれに最高の幸せをもたらしてくれる。
コーヒーをどのように飲むかは、その人の自由だ。砂糖を入れてもいいし、ミルクを入れてもいい。生クリームを入れたっていいし、練乳を入れてもいい。コーヒーの器は大きく、期待を裏切らないそれぞれの美味しさを体験させてくれる。
コーヒーにお酒を入れる文化もある。寒い冬の日にそれを飲むと、いつものホットコーヒーより体が温まる気がする。それに単純に美味しいというのもある。コーヒーにお酒は相性がいいのだ。中でもウイスキーとの相性は抜群だ。
2019年に配信された映画『ポーラー狙われた暗殺者』にウィンターコーヒーというものが出てくる。寒い街のカフェでウィンターコーヒーを飲むのだ。画面からも伝わる寒さがウィンターコーヒーの登場で少し和らぐ気がした。
そのウィンターコーヒーは、コーヒーに「バーボンウイスキー」と「メイプルシロップ」を入れた物だ。バーボンはアメリカのウイスキー。コーンが使われ、ホワイトオークの樽で眠るので独特の香りを持っている。
これが非常に美味しい。映画からもその美味しさを感じていたのだけれど、飲むと間違いないことがわかる。アルコール度数の高いバーボンの尖った部分をメイプルシロップが丸く磨き上げ、コーヒーの苦味がバーボンの品位を保つ努力をしている。
どこまでも美味しいということだ。砂糖ではなく、メイプルシロップというのがポイントだろう。バーボンの持つ独特の香りと相性がいいのだ。これが本当に美味しくて、いくらでも飲める気がした。やがて体が熱を持つのを感じる。冬の日の最高のコーヒーだ。
ハードボイルドコーヒー
アメリカのウイスキーをコーヒーに入れるものをもう一つ紹介したい。レイモンド・チャンドラーが書いたハードボイルド小説『大いなる眠り』に、コーヒーにライウイスキーを入れるというものが登場する。
その小説の主人公「フィリップ・マーロウ」が言うのだ。「ブラックコーヒーにライウイスキーを入れるとなかなかいける」と。マーロウはアメリカの探偵なので先と同じメーカーのライウイスキーを買った。
ライウイスキーも香りが強いけれど、ライ麦を使っているため、素朴な甘みと、かすかなほろ苦さを持っている。結局は何においても言えることだけれど、好みという話となり、私はライウイスキーの方が好きだ。アメリカのライ麦畑がきちんと浮かぶ味をしている。見たことはないけれど。
作るのはとても簡単だ。ブラックコーヒーに入れるだけだから。よい香りが部屋に漂う。素朴な匂いがするのだ。飲んでみると美味しい。ライウイスキーのかすかなほろ苦さとブラックコーヒーの苦味がマッチしている。苦味ではあるけれど、その苦味は心地よい。
普段の私はコーヒーはブラックで飲む。しかし、アメリカで作られたウイスキーに限れば、ウイスキーだけではなくメイプルシロップを入れることを好む。オークの香りが強いウイスキーとメイプルシロップはとにかく相性がいいのだ。体を芯から温めるホッとする味がする。
いろいろなウイスキー
先のコーヒーはアメリカのウイスキーをコーヒーに入れるものだったけれど、ウイスキーはアメリカだけではない。たとえばアイリッシュウイスキーに砂糖、ミルクを入れるコーヒーも存在する。
ウイスキーにはいろいろな種類があり、アイリッシュウイスキーの中にもシングルモルトとか、ブレンデッドとかあるし、メーカーもあるけれど、コーヒーに入れることを考えると正直なんでもいい。作られる国くらいの分け方でいいと思う。
私はウイスキーに特別詳しくないし、味もそんなにはわからないと思うけれど、アメリカの先のバーボンウイスキーとアイリッシュウイスキーでは味が全く異なる。アイリッシュウイスキーは香りの癖があまりなく、比べれば飲みやすいのではないだろうか。
ちなみに、砂糖ではなくこっちにメイプルシロップを入れると実はそんなに美味しくない。なんだかしつこく感じる。バーボンにメイプルシロップなのだ。アイリッシュウイスキーには砂糖なのだ。
柔らかな毛布で包まれるような味がする。美味しいのだ。全ての角が取れた丸みのようなものを感じる。砂糖を入れているけれど、そこまで甘いという感想は抱かない。コーヒーやウイスキーの尖った部分を中和する役割だ。ミルクでそれがさらにまろやかになる。
スコットランドで製造されるスコッチウイスキー。こちらもアイリッシュウイスキーと同じく砂糖とミルクと一緒にコーヒーに入れると美味しくなる。ちなみに上記は私が愛飲しているウイスキーで、スモーキーな香りが特徴だ。ピートを乾燥の際に使うのでそれが影響していると思う。
スモーキーな香りがコーヒーに合う。味としては私の舌ではアイリッシュウイスキーを入れたコーヒーと大差ないように感じるけれど(そもそもウイスキーをそんなにたくさんは入れないので)、匂いがいい。私は好きでよくこのコーヒーを飲んでいる。太るので砂糖は入れないこともあるけれど、砂糖がなくても美味しい。
ウイスキー以外の酒入りコーヒー
世界は広い。コーヒーに入れるのは必ずしもウイスキーではない。有名なところでは、「カフェ・ロワイヤル」ではないだろうか。コーヒーにブランデーを入れるのだけれど、ただ入れるのではなく、燃やしてから入れるのだ。
ブランデーは果実酒なので、香りが豊かで、火を付けることでアルコールが飛ぶので、香りだけがコーヒーにやってくる。ただ体が先のウイスキーほど温まるかと言えばそうではない。アルコールが必要だ。
そう思いアルコールを飛ばさずにコーヒーにブランデーを入れると、正直に言って不味い。コーヒーとブランデーが味的に混じり合うことはなく、不協和音のような味がするのだ。ブランデーは火を付けるに限る。
最後はロシアの飲み方。私は今までこれを飲んだことはないのだけれど、知り合いがロシアで飲んだと言っていた。作り方は簡単だ。ロシアなのだ。コーヒーにウォッカを入れるだけ。
上手く言えないのだけれど、非常にロシア的な味だった。味も香りも硬く感じる。ホットコーヒーだけれど、冬のシベリアの大地が連想された。不味いというわけではない。硬いのだ。世界にはいろいろなコーヒーの飲み方があり、好みがあるということだ。
冬の日の酒入りコーヒー
コーヒーにウイスキーを入れた。あくまでもミルクや砂糖を入れるように少量のウイスキーを入れることがポイントだ。大量に入れたらそれはコーヒーではなく、ウイスキーだから。その少量のウイスキーが冬の日の我々を芯から温めてくれる。普段はブラックで飲む派も、そこにメイプルシロップや砂糖、ミルクを入れることでさらに温まる気がする。
著者 地主恵亮
1985年福岡生まれ。基本的には運だけで生きているが取材日はだいたい雨になる。2014年より東京農業大学非常勤講師。著書に「妄想彼女」(鉄人社)、「インスタントリア充」(扶桑社)がある。
Twitter:@hitorimono
Source: ぐるなび みんなのごはん
寒い冬の日はコーヒーにウイスキーを入れて飲もう、幸せな味がするから