キビダンゴというものがある。桃太郎が鬼ヶ島に向かう際に持たされ、犬、猿、キジをそのキビダンゴにより仲間にする。キビダンゴの認知度はダンゴ界でも、トップクラスにあるのではないだろうか。
鬼退治をすることは大変なことだろうと思う。楽に退治できるならば、桃太郎ではなく、別の誰かがやっているはずだ。そんな命懸けの鬼退治のお供に、お腰につけたキビダンゴだけで仲間になる。キビダンゴの魅力はどんなものなのだろうか。
桃太郎と言えばキビダンゴ
日本を代表する御伽噺「桃太郎」。誰もが知っている話だと思う。童謡にもなっており、歌ったこともあるだろう。桃太郎の成立年代は不明だけれど、室町時代末期から江戸時代初期と言われている。
桃太郎でのキーアイテムは「キビダンゴ」。その名の通り、キビで作ったダンゴで、桃から生まれた桃太郎は、一人では鬼退治には行かず、キビダンゴだけで猿、犬、キジを仲間にする。キビダンゴが凄まじい力を持っていると考えられる。
鬼は強いだろう。しかし、キビダンゴだけで仲間になり、一緒に鬼退治に出かけるのだ。もちろん今とは時代が違うので、キビダンゴの価値が異なるとは思う。ただ思うのだ。「キビダンゴがベストなのだろうか?」と。
雑穀から考えるキビダンゴ
キビダンゴがベストなのかを考える際は、同じジャンルから考えるのがいいだろう。ダンゴで仲間にするとして、そのダンゴを米粉で作るのはおかしい。米を贅沢品とする考えが日本人の根底にあるので、おじいさんとおばあさんは持っていなかったとするのが自然なはず。
つまり、キビダンゴの主な材料である「キビ」と同じジャンルにあるもので考えた方がいい。キビは雑穀に分類される。穀物は「主穀」「雑穀」「菽穀」「擬穀」に分けられる。
「主穀」はイネ(米)、小麦、トウモロコシ。「菽穀」はマメ類、「擬穀」はソバやノキアなど。そして、「雑穀」はキビ、アワ、ヒエなどだ。
雑穀と言われて思い浮かぶのが「キビ」「アワ」「ヒエ」。作付け面積は2001年の時点で、3つで293ヘクタールだ。同じ雑穀であるハトムギの作付け面積は、「キビ」「アワ」「ヒエ」を全部足して倍にした程度あるが、ハトムギは江戸時代に日本に伝わったので、桃太郎の時代になかったと考えられる。
キビと同じジャンルは「アワ」「ヒエ」と考えていいだろう。つまり、アワダンゴとヒエダンゴよりキビダンゴが優れていれば、鬼退治に行くに値するということだ。
栽培キビの原産地は中央及び東アジアの温帯地域と考えられている。日本の古代からの記録には、キビについての記述がないことから、アワやヒエよりは遅れて日本に伝わったと思われる。ただ万葉集には、
「梨棗 黍に粟つぎ 延ふ葛の 後も逢はむと葵花咲く」
【よみ:梨(なし)棗(なつめ) 黍(きみ)に粟(あは)つぎ 延(は)ふ葛(くず)の 後(のち)も逢はむと葵(あふひ)花咲く】
とあるので、古くからあることは間違いない。
主な品種としては、「キビ信濃1号」「釜石16」「ひめこがね」などがある。実の色の「黄実」が語源で「キビ」となった説があり、ハレの日の食事として、餅や団子として食べられてきた。
ヒエにはいくつか系統があり、起源地や年代が異なるが、日本のヒエは中国のヒエと共通で中国では2400年前から栽培され、縄文時代に日本へと伝わった。日本の最古の穀物のひとつで、在来種が分化して、かつては100を超える品種があったとされる。
しかし、現在は在来種がほぼ消え、主な品種は「早生稗」「松崎」「水来站」などがある。自然界のヒエは「うるち種」のみだが、近年はもち種のヒエも開発されている。
アワの原型はエノコログサ(ネコジャラシ)と考えられる。原産地は中央及び東部アジアで日本へは朝鮮を経て、縄文時代には栽培されていた。イネ伝来の前は、ヒエとアワが主食となっていたと思われる。
主な品種には「ムコダマシ」「虎の尾」「あわ信濃1号」などがある。あわぜんざいはこのアワが使われたものだ。
それぞれでダンゴを作る
ということで、キビ、アワ、ヒエの3つで、それぞれダンゴを作ろうと思う。キビダンゴが一番美味しければ、キビダンゴで鬼退治に行くことに納得しようではないか。作り方はいくつかあるようなので、2つの作り方でそれぞれダンゴを作る。
材料は雑穀と砂糖と水だけ。キビ(80グラム)、砂糖(35グラム)、水(150ml)くらい。ヒエもアワも同じ分量で作る。水は形になる程度入れるので、150mlくらいという感じだ。事前に雑穀(キビ、ヒエ、アワ)は1時間程度水につけておく。
同じ分量でそれぞれの雑穀でダンゴを作った。3つの中であきらかにキビダンゴがもちもちだった。ほか2つがミートボールのような硬さだったけれど、キビダンゴだけはモチモチ。ダンゴという感じだ。
もう一つの作り方
食べる前に、もう一つの作り方で、キビダンゴ、アワダンゴ、ヒエダンゴを作ろうと思う。桃太郎の時代に電子レンジはなかったので、今回の作り方の方が桃太郎っぽいかもしれない。
材料はやっぱり雑穀と砂糖。雑穀それぞれ(80グラム)、砂糖(10グラム)という感じ。先と比べると甘みが少ないダンゴになるが、雑穀の持つ甘みを感じられるダンゴになるだろう。
本来は粉砕する器械を使わず、石臼的なもので水挽きする。私の家には、というか一般家庭に石臼的なものはないので、粉砕する器械を使った。桃太郎に出てくるおじいさんかおばあさんは石臼的なものを使ったのだろう。
先の方法で作ったそれぞれのダンゴより、きめの細かいダンゴになっている。やはりこちらも、キビダンゴがあきらかにモチモチという感じだ。
それぞれの味は?
これで2つの方法で作った、キビダンゴ、アワダンゴ、ヒエダンゴが完成した。日本を代表する雑穀のダンゴができたわけだ。キビダンゴが美味しければ、私だって鬼ヶ島に行こうではないか。
結論から言ってしまうと、どちらの製法にしろ、キビダンゴが1番美味しい。モチモチなのだ。昔からハレの日の餅やダンゴとして、キビを使って来た理由がわかる。甘みもほどよく、何よりも食感がいい。ダンゴの粘りというものが一番感じられる。
アワダンゴも甘く美味しいのだけれど、やはり食感として硬い。ダンゴという感じはしない。ヒエダンゴは穀物を食べている感じがダイレクトに感じられる。まずくはなく、食べられなくもないけれど、比べるとキビダンゴには遠く及ばない。
一つ間違いなく言えるのは「キジ」はたぶん、どれでもいいし、なんならヒエダンゴを一番喜ぶまである。ただ猿と犬を考慮すれば、キビダンゴ一択ということになるだろう。つまりキビダンゴで仲間になった、猿、犬、キジは正しい。たぶん、アワダンゴ、ヒエダンゴならば、鬼ヶ島には行かなかっただろう。それほどまでに差がある。
キビダンゴ一択です!
キビダンゴが本当にベストかと言われると悩む。やはりお金がいい気もする。ただ雑穀で考えれば、キビダンゴがベストだ。間違いなく美味しい。ちなみに記事に出てくる岡山土産のキビダンゴはもち米がメイン。吉備で作られたということで、キビダンゴだ。
参考文献
『雑穀・精麦入門』井上直人 倉内 伸幸 日本食糧新聞社 2017
著者プロフィール
地主恵亮
1985年福岡生まれ。基本的には運だけで生きているが取材日はだいたい雨になる。2014年より東京農業大学非常勤講師。著書に「妄想彼女」(鉄人社)、「インスタントリア充」(扶桑社)がある。
Twitter:@hitorimono
Source: ぐるなび みんなのごはん
キビダンゴは鬼ヶ島に行くほどの味なのか…? 一番美味しい雑穀ダンゴを考える