鹿肉というものがある。ジビエの一種で近年は以前に比べれば食べる機会が増えてきた肉ではないだろうか。スーパーの精肉コーナーに並んでいるのはあまり見ないけれど、道の駅などに行くと売っていたりする。
ただ鹿肉は豚肉や牛肉と同じように料理しても、本来の美味しさは発揮されない。それは脂が少ないことなどが理由だ。そこで10年ほど猟師をしており、2021年に鹿肉を出す飲食店を始めた方に鹿肉の特徴を聞きたいと思う。
かつて猟師だった
山に行くと鹿を見かけることがある。地域によって鹿が多いとか、イノシシが多いとかあるけれど、鹿を見かけることもあるだろう。北海道の野付半島に行ったら、バグっているのかなというほどに鹿がいるのを見たこともある。
日本にはニホンジカが生息している。北海道に生息している「エゾジカ」はニホンジカの亜種となる。多くの場合、シカは「狩猟鳥獣」で、猟師になると鹿を獲ることができる(厳密にはさらにいろいろな手続きがあるけど)。
私も以前は狩猟免許を持っていた。更新を忘れて失効してしまったけれど、猟師についての心得はあると思う。ただ残念ながら一度も、たった一度も狩猟をしたことはない。ペーパードライバーみたいな感じなのだ。
つまり私は鹿などに詳しくないのだ。でも、鹿肉は美味しく食べたい。低カロリー高タンパクでヘルシーだからだ。ということで、山梨県の小菅村で鹿肉料理を出すお店を今年オープンさせた猟師さんを訪ねようと思う。
鹿肉とはなんなのか
2021年6月にオープンした「食事処ムッカ」。小菅村で獲れた鹿を使った料理を食べることができるお店だ。店主の鈴木一聡さんは、2009年に小菅村に移住して、10年以上猟師をしている。
鹿肉を食べる際に一番気になるのは「臭くないのか?」ではないのだろうか。ジビエの話になるとまずその話になる。私もワイルドだな、と思わずにはいられないジビエを食べたことがある。
一番臭くなるのが血と内臓なので、その処理を早くすれば問題ありません。小菅村は小さい村なので、止め刺しをしてから約1時間以内に処理場に運ばれます
臭みは鹿が食べているものなども関係してくるけれど、それは野生の鹿なのでコントロールできない。しかし処理さえキチンとしていれば臭くならないのだ。確かに私は小菅村の鹿肉を臭いと思ったことがない。処理までの時間が早いのでそう思わなかったのだ。
食事処ムッカでは現在3つの鹿肉を使った料理を出している。やはり豚肉や牛肉を料理するのとは違うのだろうか。
鹿肉の場合、強火で料理すると固くなってしまいます。弱火でじっくりが基本です。バーベキューなどで牛肉などの感覚で、炭火でがんがん焼くとダメですね。鉄板などで、弱火でじっくり焼くと美味しいです!
私も鹿肉を料理することがあるのだけれど、「火力こそ正義」と思ってバンバンな火力で料理していた。なんなら火力が足りないから硬くなるんだ、とすら思っていた。違うのだ。逆なのだ。脂の少ない鹿肉では、弱火でじっくりが基本なのだ。
ハンバーグもまず両面を焼いてからオーブンで10分くらい肉汁を閉じ込めるように焼きます。そのため脂は少ないですがぱさつきません。それでいてヘルシー。鹿の旨味がギュッと詰まっていますよ!
「口の中でとける」という美味しさを表す表現が食レポではよく使われる。でも、この鹿バーグは違う。全然とけない。硬いわけではないけれど、噛むごとに味わいが広がる。肉を食べている感じがするのだ。もちろん臭いわけでもぱさつくわけでもない。新規軸の「美味しい」なのではないだろうか。本当に美味しくて驚いた。
脂が少ないというのは、和牛などの価値観とは真逆になる。思い切って聞いた。A5の和牛と鹿肉ならどっちが好きですか? と
A5の和牛も好きですが、もう量は食べられないかも。脂が気持ち悪くなって。ジビエの方が好きですね。うちの子も今はなんでも食べますが、もっと小さい頃はジビエを好んで食べていました
私はA5和牛とジビエは別のカテゴリーなので、どっちも好きです!
そういう答えもありなの!
鹿は歩留まりがあまりよくないです。50キロの鹿でも食べられるのは10キロちょっと。ほとんどが内臓や骨です。一番美味しいと言われているのは、「背ロース」ですね。小菅村だと1頭から大きい鹿で2キロあるかないか
食事処ムッカで出している3つの鹿肉料理を全部食べた。美味しかったからだ。肉という意味では牛や豚と同じだけれど、別のカテゴリーと私は考えている。とけない美味しさ。一噛みごとの幸せ。料理方法さえ間違えなければ、美味しくなるのだ。
素人が一番間違いなく美味しく鹿肉を料理できる方法はないか聞いた。
アヒージョが美味しいですよ! 油で煮るからそこまで火加減は気にしなくてもいいです。焼いて食べるより肉が柔らかく食べられます。見た目もおしゃれで簡単なのでイベントなどで出すとすぐになくなります!
アヒージョを作る
食事処ムッカには原始村キャンプ場が併設されている。原始村キャンプ場に食事処ムッカが併設されているが正しいかもしれない。竪穴式、横穴式の古代の住居を模したバンガローがあったり、渓流の横でバーベキューができたり、キャンプサイトがあったりする。
食事処ムッカでは鹿肉を買うこともできるので、一番美味しいと言われる「背ロース」を買った。それを原始村キャンプ場で料理する。作るのはもちろん簡単にできると教えてもらったアヒージョだ。
ニンニクを薄く切り、マッシュルームとしめじを切って、背ロースを切る。背ロースはグラム700円。貴重な部位なので安いのではないだろうか。それをスキレットに適当に入れていけばいい。まだ火すらつけなくていいのだ。
味付けは塩だけでもいいくらいなので、難しいことを考えなくていいのがアヒージョだ。今回はマジックソルトを使った。鈴木さんがマジックソルトを使うと楽で美味しいと言っていたからだ。
めちゃくちゃ簡単だ。今までアヒージョの存在は知っていたけれど、自分で作ったことはなかった。またアヒージョは海鮮のイメージがあったけれど、鹿肉でもいいのだ。脂が少ない鹿肉にオリーブオイル。いい組み合わせなのではないだろうか。
自然の中で料理をすると気持ちがいい。白沢川の流れを聞きながら10分ほど待つ。料理はどの食材から入れるか、などを悩むところだけれど、今回のアヒージョはそれもない。さらに美味しいが約束されているのだ。この美しい白沢川が流れるこの村で育った鹿。まずいはずがないのだ。
見た目こそ茶色だらけではあるけれど、ニンニクとオリーブのいい匂いがしている。一番美味しいと言ってもいい匂いだ。この匂いがしてまずかったことがない。しかも使っているのは背ロースだ。絶対のないこの世界で、数少ない絶対がここにある。
鹿肉は柔らかく、ニンニクの匂いのついたオリーブオイルがキノコのなどの美味しさを加速させている。肉はパサつくことも臭みもない。ただ口の中でとけるわけではない。一噛みごとに美味しさが増す。いつまでも幸せをかみしめることができるのだ。
ちゃんと処理された鹿肉を、ちゃんと料理すれば、ちゃんと美味しいものになる。欠点がないのだ。そもそも鹿肉は低カロリー高タンパクで、鉄分やビタミンが多くヘルシーなので、美味しいならば食べない理由がないのだ。
ずっと食べられる!
鹿肉は美味しかった。食事処ムッカで3食食べて、さらにアヒージョも食べてしまったけれど、胃もたれなども起こらなかった。脂が少ないためだろう。夏バテの時期にもいいかもしれない。あと自然の中で食べるのもよかった。ただ虫には気をつけたい。刺してくるから、蚊とかブヨとか。ブヨはヤバい。やつらに刺されるというか、噛むに近いと思うけれど、2週間くらい痛痒いから。
紹介したお店
原始村キャンプ場&食事処ムッカ
住所 : 山梨県北都留郡小菅村1970
TEL : 080-9297-6609
※本記事に掲載された情報は、取材日時点のものです
※電話番号、営業時間、定休日、メニュー、価格など店舗情報については変更する場合がございますので、店舗にご確認ください
著者プロフィール
地主恵亮
1985年福岡生まれ。基本的には運だけで生きているが取材日はだいたい雨になる。2014年より東京農業大学非常勤講師。著書に「妄想彼女」(鉄人社)、「インスタントリア充」(扶桑社)がある。
Twitter:@hitorimono
Source: ぐるなび みんなのごはん
鹿肉を美味しく食べるには? 初心者でも作れる美味しいレシピを猟師さんに教わる