あなたが見過ごしてしまうところに名店はきっとある

みなさま、ワタクシ「みんなのごはん」にサッカーの記事などを書かせていただいております森雅史と申します。

「みんなのごはん」の中の人が、「そろそろご飯の記事書かないかな?」なんて、チラッチラッと見ている気がします。そんな圧力に負けて、生まれ故郷の「知る人ぞ知る」的なすごいお店を紹介することにしました。

さてワタクシの生れ故郷、佐賀県というと、きっとみなさまのイメージは

 

サガン鳥栖」だとか

 

吉野ヶ里歴史公園」ですとか

写真提供:佐賀県観光連盟

だと思います。

しかも吉野ヶ里遺跡はこの9月に発掘調査を再開。「なぞのエリア」がどうなっていたのか、新たな発見により邪馬台国論争が再燃する可能性もあり、ますます期待が膨らみます。

6月の発掘調査の様子(写真提供:佐賀県)

 

でも、上の2つは佐賀県の中でも東部エリア。西部エリアには期間中、学校がお休みになってしまうほどの大イベントが行われている場所があるのです。それが

 

有田陶器市」です。

写真提供:佐賀県観光連盟

人口18,897人(2023年7月)の小さな町に1週間で100万人以上の人がやってくるという「有田陶器市」。「有田焼」の佐賀県有田町です。

陶器市の公式サイトはこちらから。

 

ここでちょっとだけ有田町の宣伝をしておくと

有田は駅に下りたときからもう磁器の町。駅のプレートも時計も手すりまでもすべて磁器でできてます。ちなみに、磁器と陶器は原料が違い、磁器は高温で、陶器は低温で焼き上げます。叩くと磁器は金属音が、陶器は鈍い音がしますし、薄い磁器は少しだけ光を通します。

 

左上が400年以上前に磁器の原料が発見された「泉山磁石場(国指定史跡)」、右上は磁器を焼く窯の廃材を赤土で塗り固めて作った「トンバイ塀(べい)」、左下は磁器の鳥居がある「陶山神社」、そして右下の写真のように町中の橋の上にも立派な磁器が飾られています。

 

左上は駅からまっすぐ行った丘の上にある「佐賀県立九州陶磁文化館」、右上は「有田ポーセリンパーク」、左下は「世界・炎の博覧会」跡地の「歴史と文化の森公園」、そして右下は木造の駅舎が建ってから110年の歴史を誇る蔵宿駅(松浦鉄道西九州線)。ええーい、他にもいろいろあるから、「ありたさんぽ」を見ておくれ!!

 

と、言いつつも、日頃の町中はそりゃ静かなもんです。バイパス道路を一本入るとこんな感じ。

 

だけど気を抜いちゃいけません。この写真の中に、2014年と2019年のミシュランガイドに掲載された店があります。

 

……もうお分かりですね。この40キロ制限の標識のすぐ隣。いや、これ知らなかったら絶対見逃すって。

実は佐賀の人もあまり知らない……というか、僕も数年前まで全然知らなかった「八百和」さんです。

現在料理を提供してくださるのは2代目、横石和人(よこいし・かずと)さん。

19歳から27歳まで京都の料理店で修行し、2011年東日本大震災の1ヶ月前に家業を継ぐため故郷に帰ってきました。当時の修行は「理不尽な世界」で、今だったら問題になりそうなくらいだそう。ただそれでも京都のレベルと料理人の志の高さが勉強になったと言います。

京料理の料理人は、最初に挨拶に出てきてくれました。

ちょっと待て~!! 金髪かい~!! 食事が始まっても調理場にこもって料理だけを作るのではなく、場の雰囲気を見ながら席に来ていろいろ解説をしてくださいます。

場所とか料理長の頭とか、「ここで本当にミシュランに掲載されるような料理が食べられるの?」と疑問でしょ? ではどんな料理が出てくるのか。この日はランチに伺いました。

まず一品目。

板状になる前の豆乳状態の湯葉に、香川県の桃を使ったプリン。醤油や塩は一切入っていません。その上に加賀野菜の金時草で、おひたしにして紫になった出汁をジュレにしています。それから熊本のイチジクを出汁で炊いたものと、佐賀県白石産のグリーンアスパラが添えられていました。

あれ、おかしい。実はお腹があまり空いてなかったんだけど、この一品を食べた途端、食欲が湧いてきた!!

そして二品目。

お刺身は青い器の中が石川の能登の甘エビ、上は北海道の赤ウニ。 真ん中の奥は平戸沖で採れた天然のクエ、九州ではアラというお魚。イカは佐賀の呼子の剣先イカ、手前はホタテの貝柱、真ん中のマグロは青森三厩(みんまや)の本マグロ、その隣は対馬のノドグロです。ノドグロ、10本あがったのを全部買ってきたそうです。

どれも味に強烈な個性があるけどケンカしない~。どれ食べても幸せ~。

だけど、日本料理って普通は二品目が椀物じゃなかったかな?と思っていると…

三品目。ここで椀物が。

京都の夏の定番、銀杏とハモと蓴菜(じゅんさい)。真ん中はホタテの貝柱で作った「しんじょ」と、手前側は淡路で採れたハモの葛(くず)たたき、真ん中は佐賀県産の冬瓜(とうがん)、京都産の大黒しめじ、そして添えてあるのは秋田の蓴菜(じゅんさい)。

「お吸い物は繊細な味だし、お刺身も素材の味だから、最初の方で出すのが定番です。でも、刺身を先に食べてもらって、そこで醤油を使った味のあとに、醤油を使っていないお吸い物を出すと、そちらのほうが味を感じやすくなるんです」

なるほどそう言えば、刺身で食べた醤油の味が少し残って味を加えている気が……。きっと説明されたからなんでしょうけど、なんか納得できる感じ。

横石さん、見た目もチャレンジャーだけど、料理も積極的に挑戦してます。

ほっと一息ついた後に四品目。

出てきた瞬間、何か分からないこの食べ物はなに?

「長崎沖で獲れました石鯛で作ったキャベツ鮨です。ご飯は赤酢を使ったシャリ、いわゆる砂糖を使っていないシャリに酢締めにした石鯛をキャベツで包みました。手前はリンゴで作ったガリを添えていますので、一緒にお召し上がりください」

もう情報量多過ぎ。これお寿司ですよ。リンゴの甘みもほのかにのって、あー、口の中でとろけてる。おかしい、ますますお腹が減ってきました。

さらに五品目。

茶碗蒸しです。八代で採れた天然ウナギとトウモロコシで作った茶碗蒸しで、野菜は蓮芋(はすいも)、シジミで取った出汁に天然の柚子(ゆず)を下ろしたもので餡(アン)が作られてます。

蓋を開けた途端に柚子の香りが鼻腔をくすぐってきました。横石さんのことだから何か、目に見えないところに工夫を凝らしてそう。

「フレンチでよく使う『スチームコンベクション』を持ってるんです。タンパク質は75℃以上で固まるので、そのギリギリの80℃で料理しようと思うと、温度管理がしやすいのでいいんです。京都の料理屋さんだとみんな持っているんですよ」

なるほど、京料理の世界もどんどん進化しているということなんですね。

さあ六品目。

豆腐とフルーツ、ですよね。でもかかってる粉で香ばしさも感じます。

「ゴールデンキウイとシャインマスカットで作った豆腐の白和え(しらあえ)です。上は柿の種とピーナッツの粉末をかけてます」

茶碗蒸しの濃厚な味の後にちょっとご飯食べたいかな、と思っていた気持ちをわずかな柿の種が見事にかき消してくれました。これもきっと計算なんでしょう。

そう言えば、有田町の隣の伊万里市ではシャインマスカットがたくさん作られているとか。

そして続いた七品目は。

千葉の銚子で捕れた金目鯛の揚げ物に、すり下ろしたラッキョウと、佐賀県産のグリーンアスパラ、オクラ、トマト、ズッキーニ、そして米ナスを炊いたものが添えられてます。佐賀県の野菜オンパレード。

「お魚とラッキョウを一緒に食べるイメージでお召し上がりください。現代版南蛮漬けみたいな感じです」

ああ、こりゃもうたまらん。ご飯食べたい!!

さてここで八品目。

アスパラとトウモロコシと静岡の釜揚げシラスの炊き込みご飯。漬物の隣はハモで作ったカレー。このカレーも淡くて自然な味を消さないという絶妙さ。もうこりゃたまらん。箸が止まらないです。

ありがたや、ありがたや。ご飯食べ終わるまで気付いてなかったけど、いつの間にかお腹がいっぱいに。

そして九品目にデザートが出てきました。

黄色いスイカにシャインマスカットと桃、そして上には梅で作ったシャーベットがのってます。満腹だったけど、当然これはペロリと入っちゃうでしょ。

あれ? 僕のだけ桃の代わりにマンゴーが入ってる。

「さっき、会話の中でリンゴや桃にアレルギーがあるとおっしゃっていたので、他と変えておきました」

テーブルに出てきていろいろ説明している間に聞いていてくれたんですね。そんな細かい気配りも心に染みました。

目も鼻も口も、そしてお腹も大満足した1時間余。まさかあの道路の横にこんな味が潜んでいるとは。

「八百和」さん、人気店なので予約必須です。昼のコースは税込み5,500円から。この日お願いしたのはその5,500円のコース。これ、京都や都内で頼んだらどれくらいかかるんでしょ? こんな安くていいの? 大丈夫なの? と心配になるほどでした。

 

紹介したお店

八百和
〒844-0017 佐賀県西松浦郡有田町戸杓乙3211-8
7,000円(平均)5,000円(ランチ平均)

 

さて、せっかく有田に来たのですから、やっぱり焼き物見ますか!!

でも焼き物って難しくないですか? お皿に柄が入っていたら、どんな料理をのせていいか、たちまち分からなくなるし。

そんなとき、こんな本があったんです。

あ、和食だけじゃなくて洋食や多国籍料理、スイーツまで、器の使い方にレシピが書いてある!!

 

で、この本を出した「賞美堂本店」さんに行ってきました。

その賞美堂本店さんがオススメする、「日常使いができる器トップ3」を紹介しますね。

 

第1位 「hoval – ほおばる –」シリーズ

カレーを入れるのにもパスタを入れるのにもちょうどいい大きさで、皿の片方に「返し」と呼ばれる段差が付いているため、最後に残ったご飯粒をスプーンですくい上げたい、なんてときに便利そうです。

 

第2位 「Cacomi –かこみ–」シリーズ

お鍋の取り皿としての工夫がたくさんあるのですが、深みがある分、いろんな使い方ができそうです。こちらはフチに「段差」があって、薬味なんかが1つの皿に盛れるのが特長です。

 

そして第3位はこちら!! 「ゆいからくさ」シリーズ

あ、これ見ただけで使い勝手よさそうって分かります!! メインディッシュとスープでもいいしデザート入れてもいいし!!

写真提供:賞美堂本店

有田焼って高級食器だからもっと高いと思ってましたけど、何とかギリギリ手が届きそう。QOL上げるか……。

さて番外編は店内で見つけた「momoco」シリーズ!! ああ、派手な物に目がないワタクシとしては、このキラキラ光っているクマが気になる!! 気になる!!  と思ったら、これはしっかりイメージどおりの「有田焼」でした~。

ということで、料理だけではなく、器でも十分に楽しめる町、佐賀県西松浦郡有田町なのでした。どうかみなさん、行ってみてくださいね。

紹介したお店

 

そして佐賀空港を使うと有田に行くのが楽です。事前予約制の乗り合いタクシーで有田町まで80分、3,000円ですよ〜。

もちろん佐賀県、いろいろ他にもありますから。詳しくは「佐賀県観光サイト あそぼーさが」にて!!

 

おまけ。陶山神社は境内を列車が通過するので気を付けましょう。

 

写真:浦正弘

著者プロフィール

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佐賀県有田町生まれ、久留米大学附設高校、上智大学出身。多くのサッカー誌編集に関わり、2009年本格的に独立。日本代表の取材で海外に毎年飛んでおり、2011年にはフリーランスのジャーナリストとしては1人だけ朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の日本戦取材を許された。Jリーグ公認の登録フリーランス記者、日本蹴球合同会社代表。

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Source: ぐるなび みんなのごはん
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