どうも、料理芸人のクック井上。です!
今回、ご紹介したいお店は、2021年1月11日にオープンしたてのお店「うどんスナック 松ト麦」。
店主は、うどんライターとしてテレビや雑誌でも活躍している、井上こんさんです。
日本全国を飛び回り、年間400杯以上うどんを食べるという、正真正銘、筋金入りのうどんの専門家。
TBS『マツコの知らない世界』ほか、多数の番組に出演した経歴を持つ井上こんさんですが、実は以前から間借りスタイルで“うどんスナック”を開いていたそう。
今回、どんな想いで“うどんスナック”の実店舗をオープンしたのか?
うどん屋ではなく“うどんスナック”にした理由とは?
そもそも、“うどんスナック”って何なのか?
そのあたりに、とても興味がわいてきます。
が、まずは話の前に、主役のうどんをかっ喰らうといたしましょう。
メニュー表はコチラ…
さすがスナック! うどんだけでなく、酒と肴がわんさかです(さすがにカラオケはありませんw)。
日替わりでメニューも変わるそうで、そういうのもありがたい。
期待に胸を躍らせつつ、スナックらしくボトルキープからスタート。
せっかくの“うどんスナック”なので、うどんを肴に飲んでみたい!
ということで「〈冷〉しょうゆうどん」をオーダー。
うどんが茹であがるまでに10数分かかるとのことなので、それを待つあいだのおつまみに、すぐ出る「おでん」をば。
うぉー、ホッとする香りが鼻をくすぐるではないか…。
うどんが来るまでのつなぎと呼ぶにはもったいないほど、美味しそう!
なんでもこの「おでん」は、「〈温〉かけうどん」のお出汁で炊いているとのこと。
となれば、初手はお出汁から所望したい。
もう、口で迎えにいっちゃおう!
たまらん! これは極上だ…。
かつお節(うす削り)・ウルメ節・イワシ節・メジカ節・シイタケ・羅臼昆布から引いたお出汁が、舌と鼻腔全体を包み込む!
これは、全日本人に飲んでほしい。
そして、丁寧に面取りと隠し包丁が施された大根の断面はこのとおり。
中心部までしっかりと出汁が染み込み、噛むとジュワッとお出汁が染み出す。この上なくご馳走です。
ちなみに手羽先もホロホロで最高なのですが、なんと、おでんはすべて1品100円。
なんちゅー破格値だ。ちゃんとお出汁が美味しいおでんなのに、お得すぎやしませんか?
嗚呼、おつまみが美味しいと、お酒が美味しいぜ。
と、感動しているあいだにも、一生懸命うどんを茹でてくださる店主・井上こんさん。
小麦の香りを纏った湯気が、ふわーっとあたりを包みます。
どうやら茹であがったようです!
湯切りをして…。
そして、素早く冷水で〆て…。
やってきました「〈冷〉しょうゆうどん」!
なんて、見目麗しいうどんなんだ!
出会ったことのない質感。これは楽しみ!
あくまでもかけすぎず、ほんの少しのお醤油をたらり。
お箸で4本ほどつまみ、リフトアップ!
それを、ズズズズーっと吸い込む…むむむ、もぐもぐもぐ…。
なんじゃこりゃーーー!!
唇と舌が感じる表面の滑らかさが心地よい一方、1本1本不揃いな感じも◎!
そして、噛んでみると、初体験の食感に感動が!
唇や舌でツルっとモチっを感じたあと、歯を入れると一瞬「ん、やわらかい?」と思いきや、歯をムギュっと押し返してくるではないか。さらに噛み進めると、シコシコ感を放ちつつも、歯を包み込んで離さないような、ピタっと纏わりつく感じもあり…。
総合すると、“ツルモチやわムギュシコピタっ”なうどん!
いままで自分がうどんについて表現してきた “ツルシコ”という一辺倒の表現は何だったんだ???
さらにこのうどん、食感だけでなく、甘い小麦の香りとか、“うどんの刺身”と表したいほど素材本来の味を感じられるといった魅力も放ちます。とにかく、こんな美味かつ魅力的なうどん、出会ったことがない!!
食事としてだけでなく、酒の肴になるうどん。
蕎麦ではなく、冷うどんで酒が進むというのは本当に初めてだ。
ここで、小皿で出てきたネギをぱらり。
美味しい! 美味しいです。ネギの風味が加わって。うん、美味しい。
でも、言わせてください。
僕はいつもなら、ネギどっさりかけたいと思う派ですが、このうどんにネギはいらないかも。
いや、ネギが余計ということではありません。違うんです。
“ありのままのうどんをシンプルに味わいたい”。
そう思わせるほど、このうどん自体が魅力的なんです。
うどんは店内の片隅にある製麺室で、毎日丁寧に打たれます。
小麦にもこだわっており、今回食べた「〈冷〉しょうゆうどん」に使われた小麦は岩手の「ネバリゴシ」という品種。
「ネバリゴシ」を使ったうどんは、通年で出会えるように仕込んでいるそう。
加えて、ほかの小麦を使ったうどんも週替わりで用意しているとか。
店内の札で赤くなっているものが、その日に食べられるうどん。毎週、小麦の個性ごとに打ち方や加水率も変えているという話です。
もはや「うどんスナック 松ト麦」は、単なる飲食店ではなく製麺所じゃないですか!
「小麦にこだわっている」というお店は、ほかでも聞いたことがあります。
でも、こちらのように、何かひとつの品種にこだわることなく、「すべての小麦に寄り添い、それぞれの魅力をうどんの形で最大限に引き出す」なんてお店は存在していないかもしれません。
これぞ、溢れるうどん愛!
店主・井上こんさんに、それほどのうどん愛はどこから来たのか、尋ねてみました。
年間400杯以上うどんを食べるそうですが、いつからそんなにうどんにハマったんですか? きっかけは何でしょうか?
誰でも好物があるように、私は小さなころからうどんが大好きでした。そんなうどんが「大好きな食べ物」から「より深く理解したい食べ物」に変わったのは、20代前半ごろ。「いろんなうどんがあるけれど、そもそもその“いろんな”を左右するのは何なんだ? うどんって、どうやってできるんだ?」と疑問に思ったのがきっかけです。
それからすぐにスーパーへ向かい、家庭で一般的に使われている大手製粉会社の小麦粉を購入。まずは勘だけを頼りにうどんを打ってみました。不細工なうどんでしたが、自分の手で作るうどんは感慨深く、美味しかったんです。
その経験から、うどんに関する考え方が少しずつ変わっていったように思います。小麦の品種に注目するようになったのはここ3、4年のことですが、品種の世界からうどんを味わう楽しみを知り、いまは昔の何倍もうどんにハマっています。
うどんの沼、深いですね! 以前は間借りスタイルで“うどんスナック”をされていたとか。間借りを卒業して「うどんスナック 松ト麦」を開店した想いを教えてください。
同世代の自営業者やフリーランスたちと、世田谷区の松陰神社前で日替わりスナックを開くようになり、私は週に1回、店主を担当していました。でも、それまでは自分のお店を持ちたい、という気持ちはなかったです。
ところが実際に日替わり店主をやってみたところ、1時間以上かけて毎週通ってくださる方や、貴重な休みの日に他県から来てくださる方など、本当に予想以上に多くの方々に来店していただきました。それで、一言でいえば「楽しくなって」しまい、自分のお店を持つという考えが大きくなっていきました。そもそも、常に自宅に100㎏くらい小麦粉があって、ストック量が限界に来ていたこともあります。
そりゃ業者の仕入れ量。週1ではさばけないですよね。間借りから実店舗になった「うどんスナック 松ト麦」で出しているうどんのこだわりはなんですか?
“「うどんスナック 松ト麦」として決まったうどんの形を持たないこと”です。日本では、北は北海道から南は沖縄まで、各地でさまざまな品種の小麦が作られているのですが、案外知られていないように思います。
実は、うどん店では皆さんが思う以上にオーストラリア産の小麦が使われています。その小麦も日本の麺用に改良された素晴らしいものですが、自分の国のおもしろい小麦が認知されていない状況は、なんだかもったいないなあと思うのです。でも、決して“国産vs.外国産”みたいな対立構造を訴えたいわけではありません。
塩や熟成時間などの要素も大事ですが、小麦の品種という、うどんづくりにおいて大切な“最初の一歩”を知るきっかけの場所にしていきたいですね。
なるほど。では「うどんスナック 松ト麦」を“うどん店”ではなく、“うどんスナック”にした理由をお聞かせください。
集った人々がうどんを食べるだけでなく、各々のうどん愛を交換しあう場所にしたかったので、交流のニュアンスがある“スナック”にしました。
実際に見ていると面白いもので、私が忙しいときでもお客さん同士でうどん話に花を咲かせているんですよね。「うちの田舎ではこう食べてたよ」「こないだ教えてもらったうどん屋さん、行ってみました~」とか。うどん屋さんにもけっこうご来店いただいているので、普段なかなか聞けないプロの話を聞けることも。
うちをきっかけにより一層うどんにハマり、普段行かないうどん屋さんに行ったり、旅先でうどんを探したり……そんな“うどん人”が増えたらいいなと思います。
もはや“うどんサロン”の様相ですね! お店を通して、何を伝えたいですか? また今後の夢や目標があれば教えてください。
皆さんそれぞれに「ごっちりなのが好き」とか「ふわふわなのが好き」とか好みはあると思いますが、“うどんの形を決めつけたらもったいない!”ということを伝えていきたいです。またどの小麦も、育成者にとっては子どものようなものですから、人間と同じでそれぞれ個性が異なって当然ということも、地道に伝えていきたいです。知らないうどんに出会ったときに「へ~こういううどんもあるんだね」と思える人が増えるよう、うどんの奥深い世界をわたしも勉強しながら発信できればと思います。
これまで普通に用いていたような、単純な表現ではカバーしきれないほどの食感と香り…。
井上こんさんの真摯な思い、うどんを通じてジンジン伝わってきました!
ここで、『うどんスナック 松ト麦』で扱っている小麦の特徴を書いてもらいました。
ひと言でうどんといっても、その分類は「讃岐うどん」「稲庭うどん」「五島うどん」「水沢うどん」「氷見(ひみ)うどん」といった、ご当地の違いだけではないのです。小麦の品種でも、これだけ違うんですね!
これは毎週訪れて、小麦の個性の違いを感じたくなってきたゾ。
と熱くなっているあいだに、またお腹が空いてきて、「〈温〉かけうどん」のお出汁もお願いしちゃいました。
ごぼ天も添えて、いただきまーす。
ズズズズーっと…。
嗚呼、幸せのお出汁に浸かった〈温〉うどんは、また〈冷〉うどんとは違った風味と食感。
お風呂につかっているような幸福感が訪れますなぁ。
ごぼ天を浸すと、お出汁にコクが出て、またうどんの表情が変わる。
うどんよ、君は一体全体、何面体なんだ! 当然のように2杯たいらげてしまえる美味さ。
あかん、自分もうどんの沼にハマりそうだ。
アナタも「うどんスナック 松ト麦」で、うどんの底なし沼にハマってみませんか?
追伸:テイクアウトもありますよ。
冷水でサっと洗って、お醤油をかけるだけの手軽さ。
おうちでお店の味を、ぜひ!
(編集:漆原直行)
紹介したお店
うどんスナック 松ト麦
住所:東京都世田谷区野沢2-26-5 野沢ビル B1F
定休日:火曜日、水曜日、木曜日
※本記事に掲載された情報は、取材日時点のものです。
※電話番号、営業時間、定休日、メニュー、価格など店舗情報については変更する場合がございますので、詳細は、井上こんさん&お店のtwitter・インスタグラムでの最新情報をご覧ください。
https://www.instagram.com/kon__udon/
著者プロフィール
フードコーディネーター・野菜ソムリエ・食育インストラクター・BBQインストラクター等、7つの食の資格を持つ料理芸人。 料理教室講師・食のイベントMC・レシピ開発・食品プロデュース等を務め、“最強料理芸人”の異名をとる。EX「『ぷっ』すま」やTBS「爆問パニックフェイス」の料理バトルでは優勝を果たしている。その他の出演歴は、NHK「グッと!スポーツ」・NTV「得する人損する人」・TBS「はなまるマーケット」・TX「TVチャンピオン極」等。
Twitter:@cook_inoue
Instagram:cook_inoue
ブログ:料理芸人・クック井上。の「ようこそブログへ クック クック♪」powerd by Ameba
Source: ぐるなび みんなのごはん
小麦もうどんも人間も、みんな違って当たり前… 「うどんスナック 松ト麦」から溢れる“うどん愛”が深すぎた