ナマステ~!
南インドのゴッドねえちゃん、ワダ揚げ子で~す。
……すみません、うそです。今から真面目に生きます。
今日はワダを揚げ続けて35年、大森にある「ケララの風モーニング(旧・ケララの風II)」の店主である沼尻匡彦さんから教わった南インドの甘くないドーナツ、ワダを作ってみたいと思います。
沼尻匡彦さん。
以前に取材した「ケララの風II」はミールス(野菜のおかずがたくさん並ぶ南インドの定食)の人気店(詳しくはこちら)でしたが、現在は「ケララの風モーニング」と名前を変えて、ティファンと呼ばれる南インド独特の軽食を出しています。
そこの人気メニューの1つが、豆を使ったドーナツ「ワダ」です。
コロナウイルス感染防止のため休業している場合があるので、営業日などはホームページでご確認ください。
ウップマ、ドーサ、ウタパンなど、南インドでよく食べられている軽食が味わえる貴重なお店。ココナッツアイスもおいしいよ。
ワダはティファンのセットに入っています。単品メニューもあり。
卓上の説明書きによると、ワダとは「ウーラッド豆を水につけて、ペースト状ドーナツ型に成形、油であげたもの」とあります。
実際に注文した料理がこちら↓。マサラオムレツのセットにしました。どの料理もスパイスの使い方が独特で、さらなる味覚の広がりを与えてくれます。南インド料理といっても、激辛系ではないのでご安心を。
どれも美味しい!
体力的な問題もあって今はミールスを出していない沼尻さんから、そのレシピ(とダジャレ)を教わって書き残す作業をしているのですが(年内に同人誌で発表予定)、その一環としてティファンも習ったので、その中でも作りやすそうなワダ、そして一緒に食べるチャトニー(ココナッツのペースト)作りにチャレンジしてみましょう!
沼尻さん流ワダの作り方
まずは習った内容の共有から。
ワダの材料はウーラッド豆。和名だとケツルアズキ。あまりなじみのない植物ですが、モヤシの「ブラックマッペ」がそうなので、知らずに食べているかもしれません。
インドでは皮を剥いて二つ割にした豆を「〇〇ダル」と呼びます。今回使うのはウーラッド豆のダルなので「ウーラッドダル」。インド料理の食材店やハラールショップなどで購入できます。店が近くになければネットでどうぞ。
南インド料理でよく使うダル。チャナはヒヨコマメ、トゥールはキマメ、ムングは緑豆。
ワダの作り方は、まずウーラッドダルを軽く洗ってから2時間以上しっかり吸水させて、ミキサーでペースト状にします。
分量は乾燥状態のウーラドダル100g(ワダ5個分くらい)で、水と合わせて260~270gくらい。
業務用のパワフルなミキサーでギュイーンとペーストにします。
そこに味付けとして塩とヒングパウダーを適量加えてしっかり混ぜて、さらに冷蔵庫で2時間以上寝かせます。砂糖や乳製品は一切入りません。
このとき冷蔵庫に入れておかないと、発酵して膨れる場合があるのでご注意を。
ミキサーでペーストにしたら塩とヒングを入れる。
ヒングはアサフェティダという植物の樹脂で、タマネギを濃縮したような強烈な匂いのため悪魔の糞とも呼ばれるとか。ウーラッドダルを売っている店ならだいたいあります。
寝かし終えた生地をよくかき混ぜます。まるで溶けたバニラアイスのようなドロドロの状態で、本当にドーナツにできるのか不安になりますね。
プレーンタイプならそのまま、具を入れるのであれば、青唐辛子(ピーマンやシシトウでも)、タマネギ、ショウガなどをお好みで加えましょう。油で炒めたマスタードシードやクミンなどのスパイスを入れても美味しいそうです。
粗く刻んだ青唐辛子、タマネギ、ショウガを混ぜ込む。ポテトサラダじゃないですよ。
左が寝かせた生地、右が寝かせなかった生地を揚げたもの。しっかり寝かせないと揚げたときの色づきが悪く、食感もイマイチとのこと。
油を適温まで温めたら(おそらく180℃前後)、両手を水でしっかりと濡らし、卵1個分くらいの生地を手に取り、左右の掌でパタパタと数回キャッチボールをして丸めて、利き腕(沼尻さんは左利き)の指の上(手相のあるところではなく指!)に生地を置き、空いている手の小指で中央にグリグリと穴を開けて、すかさず油の中へポトン。
生地がものすごく柔らかいので、モタモタしていると穴はすぐ塞がります。
沼尻:「穴が開いていないと中まで火が通らないし、なんといってもワダにならない。輪だ!」
は、はい!
濡らした手で生地を掴んで、パタパタ2往復くらいで丸めます。
生地の量は卵くらい。
小指を刺してグルグル回して、「輪だ!」と言おう。
油を怖がらない。見ていると簡単そうだけど、やってみると難しいやつだ。
この時に注意するのが、油の上から生地を振り落とすのではなく(盛大に油が跳ねるのでNG)、生地を乗せた掌をひっくり返して油に近づけて、素早く生地を油に接して、自然に落ちるのを待つ。生地の方からスッと離れてくれるそうです。
コツは油を怖がらないこと。もし指先が油に触れてしまっても、手が濡れていればそんなに熱くないのだとか。
横からのアングル。空中から油に落とすのではなく、手で油にタッチするイメージ。
生地の投入に成功したら、何度かひっくり返しつつ、しっかり火を通します。揚げ時間は油の温度とワダのサイズ次第ですが、だいたい2~3分というところ。
生地に含まれている水分が蒸発するので、ワダを箸で持ち上げてみて、軽くなったらできあがり。見た目でいえば、揚がると泡が少なくなってくるのでわかるはず。
ちなみにワダの色は、油の状態(古いと茶色くなる)や、入れたときの温度次第(高温だと茶色くなる)なので、あまり当てにならないとか。
揚がると確かにワダが軽くなる……気がします。
私もやらせてもらいましたが、入れる前の形が不格好なのはもちろんのこと、油に入れるときにビクビクしてしまい、余計に危ないというダメダメな感じでした。
これ、自分1人で作れるんですかね?
写真を見返すと、親指が油を向いていて危ない!ダメな例!
大急ぎで作る時は、生地を掴んだ手の親指で穴を開けて、そのまま油に入れる方法もあるとか。なんだか寿司の握り方みたいですね。
こんがりと揚がったワダ。穴がハート形になると嬉しい。
沼尻さん流ココナッツチャトニーの作り方
続いてはワダと一緒に食べるソース的な存在、ココナッツチャトニーの作り方。作業の流れとしては、生地を寝かしている時間を使って作ります。
材料は乾燥ココナッツ(ココナッツシュレッド)、ココナッツミルク、ショウガ、タマネギ、水、塩を一煮立ちさせて(調理というよりは加熱殺菌のため)、ミキサーでペースト状にするだけ。
分量は適量。沼尻さんは基本的に量らない人。
一煮立ちさせて念のため殺菌をする。
ミキサーでガー。
白いココナッツチャトニーのできあがり。
ノーマルの白に加えて、そこにコリアンダーやミントを混ぜた緑、パプリカやトマトの入った赤と並べると、見た目も味も華やかになります。
お好みでマスタードシードと赤唐辛子を油で炒めて(テンパリングという技法)、香りを引き出したものを加えるのもオススメだそうです。
パクチー、ピーマン、タマネギ、ミント、塩を追加してガーすれば緑のチャトニーに。
トマト、パプリカ、赤唐辛子、塩を追加してガー。緑のチャトニーに赤を足しているのではなく、緑を作った後に洗わず白いチャトニーを赤くしている。沼尻さんはもったいない精神を大事にする人なのだ。結果としてターメリック色になったけどノープロブレム!
オプションでマスタードシードと唐辛子をテンパリング。
白と赤にジャー。緑はミントやパクチーの香りを生かすためオイルは加えない。
そんなこんなでスペシャルティファンセットのできあがり!
イドゥリ、ウップマ、サンバルの作り方も教わりましたが、長くなるのでまた今度!
上段の左から、白、赤(に緑が混ざった)、緑のココナッツチャトニー。下段の左からサンバル、イドゥリ、ワダ、ウップマ。「イドゥリは1人(いどぅり)1個!」、沼尻さんはこのハイレベルなギャグを大切にしている。
この甘くないワダがフッカフカで美味しいんですよ。
習ったワダを自作してみよう
このように習ったワダを何度か実際に作ってみて、自分なりにレシピ化してみました。こうした方が良さそうだという注意点もあわせて記載しておきます。
レシピといってもあくまで一例なので、こうじゃなきゃダメ!というものではありません。またケララの風モーニングで出している料理と100%同じという訳でもありません。細かいことにこだわらず、「ノープロブレム!」で乗り切るのが沼尻流南インド料理です。
ワダのレシピ
■材料(5個分)
- ウーラッドダル 100g
- 塩 小さじ1/3
- ヒングパウダー 小さじ1/4
- 青唐辛子かシシトウかピーマン 5~20g(粗みじん切り)
- タマネギ 25g(粗みじん切り)
- ショウガ 10g(細切り)
- 油 適量
※調味料や具の量はお好みで調節してください。プレーンタイプなら具はなくてもOK。
浸水前のウーラッドダル。
■作り方
1:ウーラッドダルを軽く洗い、たっぷりの水で2時間以上、冷蔵庫で浸水する。
※ウーラッドダルは豆の皮などが残っている場合があるので、洗ってから使います。
※浸水は最低2時間、できれば一晩させたほうが無難。しっかり水を吸わせないと、次の工程で滑らかにつぶれてくれません(家庭用のミキサーだと特に)。
※浸水させる場所は、気温が高いと発酵してドーサの材料になってしまうので、冷蔵庫でどうぞ。
水を吸うと倍くらいの重さになります。
2:浸水したウーラッドダルと水を合わせて260~270gにして、ミキサーなどでできるだけキメの細かいペースト状になるまで潰し、2時間半以上冷蔵庫で寝かせて、よくかき混ぜる。
※今回は量が少ないのでハンドブレンダーでやりましたが、作る量が多いなら、沼尻さんが使っているようなパワーのあるミキサーが良さそうです。
※できるだけ滑らかなペースト状にするのが、ワダ作りにおける最大のコツ。ざらつきが残る生地は粘りがなく、ドーナツ形にまとめるのが難しかったです。目指すは溶けたバニラアイス、ザラザラのジェラート状だと後悔します。
※ペーストにしてから時間を置くことで、ウーラッドダルが水分と馴染み、より滑らかな生地になってくれます。低温ですが多少発酵もしているようで、少しふっくらしてきました。
丁寧にガー。
滑らかになるまでしつこくやりましょう。
できればもっと粒が消えるまでミキサーでガーっとやるのが理想。
3:寝かせた生地に、調味料と具をよく混ぜる。
※塩とヒングを入れるタイミングは生地を寝かせる前でも後でもOK。このためだけにヒングを用意するのはちょっと気が引けるかもしれませんが、ワダなどのインド料理にはすごく合う香りなので、できれば買って入れましょう。カレーや豚の生姜焼きなどに入れてもいいですよ。
これはうっかりショウガを入れ忘れたバージョン。
あれば青唐辛子を入れるとピリッとした大人のワダになります。
4:ドーナツ形にして、180℃に温めた油で2~3分揚げる。
※生地がすごく柔らかくて不安になります。まとまる気配がありません。でも大丈夫。勇気を出してペースト状のまま無理矢理ドーナツ形にして崩れる前にそっと油に落とせば、そのまま固まってくれるはず。
※生地の加水率の高さと成形のしやすさは反比例しますが、フワフワ感は比例しておいしくなります。まん丸のきれいなドーナツは諦めて、不格好でも水分の多い生地で攻めてください。
※コツは手にしっかりと水をつけておくこと、穴を開けたらすぐに油へ落とすこと、怖がらず手に乗せた生地で油を触りに行く気持ちで投入すること。続けて5個もやれば、なんとなくできるようになるはず!
デローンとした柔らかい生地で攻めましょう。
泡が少なくなるまで2~3分揚げます。
白いココナッツチャトニーのレシピ
■材料
- 乾燥ココナッツ(ココナッツシュレッド) 100g
- ココナッツミルク 25g(AYAMのプレミアムココナッツミルク缶推奨)
- ショウガ 25g
- タマネギ 50g
- 塩 小さじ1
- 水 200㏄
※この水分量は少し固めの仕上がりになります。
※この量だとワダ50個分くらいのチャトニーができちゃいます。余った分はサンドイッチでいただきました。
※ココナッツミルクは缶を開けると日持ちしないので、製氷機でブロック状に凍らせておくと保存できて使いやすいです。
沼尻さんが使うココナッツシュレッドは、ココナッツロングという商品名。
AYAMのプレミアムココナッツミルクは100mlあたりの脂質が24.1gと濃厚。他メーカーを使う場合は多めに入れてください。
■作り方
1:材料を全部鍋に入れて、一煮立ちさせる。
ペースト状にするので、材料の切り方は適当で大丈夫。
調理というよりは殺菌の意味合いで一煮立ち。
2:ミキサーでペースト状にする。
ガー。
なぜ白いチャトニーを白い皿と白い背景で撮影したのか。
緑のココナッツチャトニーのレシピ
■材料
- 白いココナッツチャトニー 100g
- 緑の野菜(ミント、パクチー、ピーマン、青唐辛子など) 適量
- 塩 少々
- レモン汁 1/8個分(3g)
※野菜が増える分、塩分も増やしてください。試作ではピーマン10g、ミント2g、塩0.5gを追加。
パクチーは売り切れだったのミント多め。
■作り方
1:材料を全部ミキサーでペースト状にする。
赤いココナッツチャトニーのレシピ
■材料
- 白いココナッツチャトニー 100g
- 赤い野菜(トマト、パプリカ、赤唐辛子など) 適量
- 塩 少々
- レモン汁 1/8個分(3g)
※野菜が増える分、塩分も増やしてください。試作ではトマト15g、パプリカ15g、赤唐辛子1本、塩0.7g。
赤唐辛子を入れてピリっとさせました。
■作り方
1:材料を全部ミキサーでペースト状にする。
スパイスオイルのレシピ
チャトニーにスパイスオイルを加える場合は、小鍋でサラダ油大さじ1、赤唐辛子2本、マスタードシード小さじ半分を熱して、マスタードシードがバチバチしてから入れる。
スパイスの香りを油に移すテンパリングという技法でオイルを作る。
三色チャトニー。白いチャトニーにだけスパイスオイルを足してみました。
おいしくできました!
上記のレシピに辿り着くまで、何回かの失敗があったのですが、どうにか無事に完成しました。
もちろんケララの風モーニングで食べた沼尻さんのワダに辿り着くには、味も形も改善が必要ですが、素人が家で作ったワダにしては十分な出来栄えだと思います!
サンバルも習ったレシピで作りました。
形が悪いけれど、これは加水率が高くてフワフワしている証明!
たっぷり含ませた水分を揚げて飛ばすからこそのフッカフカ感がいいんですよ。
3色のチャトニーも個性があっておいしい。もうちょっと味が強くてもよかったかな。
左は100gのウーラッドで220gの生地にした形こそきれいな丸だけどガッチガチのおいしくないワダ、右は270gにした形は悪いけどフカフカでおいしいワダ。やっぱりたっぷりの水分が大事!
100gのウーラッドで280gの生地にしたらまとまらなくて、仕方なく米粉を入れてまとめた白いワダ。ちょっと前に流行ったタイ焼きみたいだ。沼尻さん曰く、米粉で調節するのはアリ(もともと米粉を入れるレシピもある)だけど、やっぱりウーラッドダルだけで作った方が美味しいそうです。
おまけ:冷凍したワダの温め方
食べ切れなくて冷凍したワダは、そのままレンチンしたり揚げなおすとカチカチになってしまうので、凍ったまま水にしばらく浸けて、しっかり水を吸った状態で油で揚げるといいそうです。
冷凍のプレーンワダ。
まさかの水漬け!
水を吸った状態で揚げなおすことで、フワフワに戻るそうです。意外と油は跳ねませんでした。
甘くないドーナツなので、「がんもどきもどき」として、おでんに入れてもおいしいですよ。
ということで、南インド料理のティファン入門でした。
もし上記のレシピ通りに作って失敗しても、「ワダって(笑って)ゆるして」。
次はミールスのレシピでフィルミレンゲ(また会いましょう)! by ワダ揚げ子
著者プロフィール
Source: ぐるなび みんなのごはん
〈ケララの風モーニング〉直伝、南インドの甘くないドーナツ「ワダ」を揚げてみよう