決して残念ではない兵庫のご当地即席麺「イトメンのチャンポンめん」を君は知っているか

みなさん、「イトメンのチャンポンめん」をご存知でしょうか?

 

少し前に「世界で2番目に即席麺を発売したにもかかわらず、チキンラーメンに知名度を全部持っていかれた残念な会社」として話題になった、あの麺です。

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希望小売価格は108円ですが、安いスーパーでは80円くらい

公式HPでも「残念なイトメン応援キャンペーン」「社長はストレスもないのにハゲている」など自虐ネタ満載。そこはかとないギャグセンスを感じるこの会社…ぜひお近づきになりたいと思い、「御社が残念な会社だということでお話を伺いたく」と至極失礼な取材依頼をしたところ、「残念ながらうち、もう残念な会社やないんです…」と逆説の返事が。これを挑戦状と受け取った猫田、さっそく本社を訪れました。

 

本社は、素麺と醤油の一大産地「兵庫県たつの市」にある

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猫田は雨女なので、この日も雨でした

揖保川の水運に恵まれたたつの市は『揖保乃糸』の本拠地であり、ヒガシマル醤油など醤油の生産でも有名です。イトメンがあるのは、JR本竜野駅から歩いて30分ほどのところ(普通歩かない)。雨の中ようやく辿り着くと、思った以上にデカい本社!

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裏にある工場からはなんか良い匂いが。さては絶賛麺製造中だな!

そもそも「イトメンのチャンポンめん」とは?

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麺に粉末調味料、かやくつき。干しエビと干し椎茸、これが味の決め手です

そうそう、まずはイトメンのチャンポンめんについて説明しなきゃ。昭和33年に登場、兵庫県を中心に北陸地方のスーパーなどで販売されている、いわゆるご当地インスタントラーメンです。鍋で麺を茹でて、付属のかやくを入れ、粉末スープを溶かすだけ。エビと椎茸の出汁が効いて、塩味のあっさりしたスープの味わいも絶妙です。

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付属のかやくだけだとちょっと寂しいですが…
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いろいろ具をトッピングすると一気にチャンポンらしくなります!

昭和30年代にインスタント麺の原型をすでに開発していた

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HPで「ハゲ」を連発していますが、そんなにハゲていませんよ!

応対してくださったのは五代目社長の伊藤充弘さん。会社設立は昭和25年ですが、終戦後アメリカから配給された小麦粉を原料に、水車小屋で製粉を始めたところからスタートしたそうです。昭和33年から麺づくりのノウハウを生かして中華麺の製造を始めました。

当時は冷蔵流通ではないので一旦蒸しあげた麺を熱風乾燥させ、常温でも搬送できるよう工夫。いわゆる現在のインスタント麺の原型です。これを昭和30年代にすでに開発していたというからまさに麺業界のパイオニアではありませんか。なぜ日本で2番目になってしまったのか…。

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社内は普通のオフィスといった雰囲気で、チャンポン感はありません

 

ファンが自発的にイトメンの宣伝活動をしてくれる

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猫田が北海道出身、と聞いて3秒ほど目を見開いて止まっていた社長。関西人、過剰に反応してくれるから好きです

早速チャンポンめんの誕生秘話など、いろいろお話を伺いしてみました。

 

社長 猫田さん、どちらの出身なん?

猫田 北海道です。

社長 ほーっかーいどぉ〜! ほなウチの麺食べたことないでしょ!

猫田 いや、あるんです。兵庫出身の人が「これ食べ!」ってくれたんです。

社長 そうなんですよ、なぜかウチの商品、ファンの人が他県の人にあげたがるんです。

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玄関にはファンが作って送ってくれたというスニーカーが!

猫田 ファンが営業活動してくれるんですねー。ところでチャンポンめんの歴史についてですが、チキンラーメンの発売は昭和33年8月25日。イトメンの即席麺はその約2ヶ月後なんですね。

社長 いや、ウチが開発からモドモドやってたから発表が遅れただけで、もしかしたら発明自体はウチが先かも…

猫田 それはもったいない。あれ? でも、チキンラーメンってお湯かけるだけで食べられるけれど、イトメンの即席麺はお湯で茹でるんですよね。

社長 そうです。麺自体にスープを浸透させた〈調理・味付不要〉の麺を即席麺と呼びますが、チキンラーメンはお湯をかけるだけ、ウチのは茹でる必要があります。チャンポンめんの前身となるスープ付き即席麺「トンボラーメン」は昭和33年、それにかやくが付いた「ヤンマーラーメン」を翌年発売。しかもこれらはノンフライ麺でした。

猫田 今でこそノンフライが脚光浴びていますが、つまりイトメンはノンフライの即席麺としては世界初だったんじゃないですか。

社長 しかし当時は、油で揚げた麺の方が美味しいと言われて。そうしてフライ麺のチャンポンめんが昭和38年に誕生したんです。

猫田 通常はフライ麺→ノンフライ麺、なのに最初からノンフライ麺だったんですね。時代先取ってますね!

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当初は輸入物がなく、かやくのエビは瀬戸内海産、椎茸は近郊農家が作ったものを干して使ったそう。今思えば贅沢!

先見の明がありすぎて失敗したことも

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これでも全商品の一部。大手メーカー顔負けのラインナップですね!

社長 時代先取りしすぎてアカンかったこともあります。20年ほど前に「スナックめん 油そば」いうのを発売したんですよ。当時、名古屋の油そばがブームになり始めていた頃。発売当初はバカ売れしたけど、定着せずにすぐ売れんようなって…

猫田 早すぎたんですね! 今もう一回出したら売れそう。他に、何か尖った商品は会ったんですか?

社長 1994年には関西肉うどん、98年にはスナックめんのぶっかけおろしうどんとそばなんかも出しました。

猫田 当時それを開発するとは、相当時代読んでますねえ。

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ロングセラーの「あまくち醤油」甘みとコクがある醤油味で、これラーメン屋で出してもイケるんじゃ?ってレベルです。写真は豪華トッピング版

 

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聞くからに美味しそうなコーンバター風カップ麺。フリーズドライのバターとコーン入り。ホタテなどをトッピングして北海道感出してみました
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その名も「味噌汁のめん」。たつの市では素麺の切れ端「バチ」を味噌汁に入れる文化があり、それを商品化したソウルフード麺です
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9月に新発売。これも社長のイチオシです

実はそばつゆ付きの二八そばが旨かったりする

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社長自慢の「二八蕎麦」。乾麺でつゆ付きって珍しいですよね

猫田 チャンポンめんに次ぐロングセラーは?

社長 二八そばってのが人気です。この二八って、そば粉と小麦粉の割合やないんです。「時そば」という落語の、蕎麦の値段が16文(2×8)にちなんでいるんですが、これを知らない人が多くて、「なんで蕎麦粉8割やないねん」って言われるんです…

猫田 つゆ付きなんですね!珍しい。

社長 このつゆが旨いんですよ。昭和51年の発売当初、関西人はまだうどん文化で蕎麦を食べ慣れていなかった。東京で蕎麦屋に行くと、あの辛いつゆにじゃばじゃばつけて「それ違う!」て言われましたもん。

猫田 私も東京の蕎麦屋でいつもしょっぺえ!ってなります。

社長 それじゃばじゃばしすぎ! そう、地元でも素麺のつゆはあったけど蕎麦つゆがなかったんで、じゃばじゃばしても辛くならない、ちょっと甘めに仕上げたんです。

猫田 醤油の町だからつゆ作りにも好環境ってわけですね。

社長 自慢やないけど、このつゆが美味しすぎて、めんつゆ屋さんから「このつゆだけスーパーで売られたらかなわんわ」って言われました。

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蕎麦も噛み応えがあって旨い! 何よりつゆが出汁の香りしっかり効いています。さすがメイドインたつの!

日本一高い!? 超ハイスペックな素麺も

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高級素麺「小神」。特設サイトもあり、イトメンらしからぬ真面目なテンションです

ちなみにイトメン、素麺の産地にあるということを忘れてはいけません。チャンポン屋ではないんです。1978年から手延そうめんも製造しており、専用粉で作る「月の輪」や、紫黒米を練りこんだ「むらさきの舞」などこだわりの製品も販売しています。

中でも、手延べ和麺「小神」は会社の全精力を注いで作ったと言えるぐらいのプレミアムな素麺。社長によると「素麺作りにとって良いことは全部やりました」というぐらい、職人魂と技術とノウハウを集大成させた商品だそうです。

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細すぎす太すぎず。「細いほど美味しいというのは、何の根拠もありません」とのこと

最新の製粉技術を駆使して小麦粉を限界まで細かく粉砕し、歯応えを最高レベルに。さらに 多加水麺製法で麺を伸びにくくし、塩は天然にがりを含むミネラルたっぷりの高級塩を使用。4時間寝かせてグルテンを熟成させ、オリーブオイルで油返しした挙句、1年間熟成…。素麺作りが分からなくても、旨いことは伝わってきますね。

しかも素麺は茹で方の決まりをきっちり守るのがミソ。ということでイトメンでは、「小神」購入者のために「茹で方講習会」を無料で実施しています。すごい気合の入れようです!

猫田も実際に食べてみたところ、確かに、香り・喉越し・旨みが格段に違います。普段スーパーで買っている10束200円ぐらいの素麺は何だったんだ…。しかし日本一高いというから何万円するんだと思ったら、10束入りつゆ付きで2,063円。もっと高くても良いのに、強気になれないイトメン…。

 

尖りまくり、やりたい放題のキャンペーンを次から次へと

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もうお気づきだと思いますが、伊藤しげりさんは社長のご親族です

ここまで読んでいると「イトメンって真面目に製品作りしている、控え目な会社なんだなー」と思われてしまいそうですね! 危ない危ない。

そのやんちゃぶりを分かってもらうべく、広報担当の伊藤しげりさんにご登場いただき、数々のぶっ飛んだキャペーンを暴露してもらいましたよ!

まず2016年のハゲキャンペーン。FBに「ハゲは黙ってイトメンチャンポンめん!」と書いて自身か家族のハゲ写真を投稿し、社長が「おお、同志や」と認めた3名に5,000円相当の商品をプレゼント。これで知名度が一気に上がりました。

また翌年には、チャンポンめん5食パック×10個分の応募シールで、なんと全員に「特製調味料セット」をプレゼントしました。

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全員にプレゼントした調味料セット。自社HPには「スープだけこんなにもらってどうする!?」とまた1人ツッコミが…

中身は、「スープの素」「かやく」「山下調味料」のセット。えっ、山下調味料って何?と思いますよね。それはコチラ…

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超レアな「山下調味料」。ちょい辛でチャンポンめんにトッピングすると激ウマだそうです

品質管理室の室長であり、イトメンの味を支えている「山下さん」が独自に調合した謎の調味料なのです。味は非公開とされ、「社長困惑。語らぬ山下」とHPに書かれていました。

その後も、チャンポンめん発売55周年記念として「チャンポンめんブラック」を発売した時のふざけたPR動画といい、おかんのメッセージ付き「仕送りセット」プレゼントといい、やりたい放題のイトメン(笑)!

ちなみに現在は、2023年に迎える発売60周年を記念し「もう残念はイヤだ…。オレは頑張るキャンペーン」として専務の伊藤さんが背負子にめんを入れてサンプリングしながら北陸まで歩くというテイでシリーズ連載をしています。

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頑張る伊藤専務。もちろん親族です。

好きすぎるファンからお叱りの電話がかかってくる

チャンポンめんの話に戻りますが、どう考えてももう「知名度がない」とか言ってられない強烈な存在感。しかもイトメンファン、チャンポンめんへの愛が深すぎて、たまにこんな電話をかけてくるとか…。

 

社長 チャンポンめんはカップもあるんですが、「袋麺と味が違う」とたまにご意見のお電話があります。中には結構な剣幕の方も。そんなに力入れて怒らんでも…と思いますが有難いことです。

猫田 愛するがゆえのエールですね!

社長 ある時なんか、「ワシは1週間に5食入りのチャンポンめんを1パック必ず食べとんじゃ! ほんでカップ麺食べてみたら味ちゃうやんけ」というお電話が。毎日食べていただいているのは大変有難いんですが、「ご健康も心配ですので、野菜などトッピングされてますか」とつい申し上げてしまいました。

 

確かに毎日チャポンめんを必ず食べる食習慣、なかなか個性的ですよね。でもそれだけ食べ続けても飽きない味ってことなんです。

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もともと具材が入っているので袋麺と味が違うのはまあ当然なんですよね
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カップ麺用なので麺も少し柔らかめ。でも袋麺よりちょっとジャンキーで、これも旨い!

食堂には無料の食べ放題ラーメンがストックされている

ところでこれだけ毎日ラーメンを作っていたら、もう見るのも嫌になるんじゃないでしょうか。と思って聞いてみましたら、意外な事実をスクープしましたよ!

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無料の食べ放題コーナー。これ見て「イトメン入社したい!」って思いました

猫田 商品もいろいろ開発されていますが、試食も大変そうですね。ひょっとして昼もラーメンですか。

社長 食堂に無料の食べ放題麺があるからね。

 

む、無料で食べ放題…!? それは聞き捨てならない!

というわけで見せてもらったのが食堂に置かれた箱。ここには、規格外や重量不足など商品にはならないラーメンがストックされており、社員は無料で食べられるんですって!すごい幸せ!

 

社長 ただね、重量不足ってことはスープが入ってないってこと。その場合スープ置き場から適当に持ってきて入れるんやけど、本来の麺に合わせたスープじゃないんで、組み合わせビミョ~ってこともあります。

猫田 あさりだしラーメンに山菜そばのスープとかになっちゃうと、ちょっと悲しいですね。この中でも社員に人気の商品ってあるんですか。

社長 う~ん、売れた商品はすぐなくなる。最後まで残るのは売り出しても不人気だった商品。やっぱりこれは売れへんわな、社員が手えつけへんもんな。って勉強になります。

 

ほほー、これも商品づくりのマーケティングの一環になるんですね!ちなみに「売れなかった商品は何ですか」と聞きましたが「言えません」とのお答えでした!

 

「麺が好きで良かった」

ここまでお話いただき、最後にこんな社長の一言。「やはり思うのは、麺が好きで良かった~ってことですね。好きやなかったらしんどい」。そうですよね!社員の皆様も麺好きなんですね!と聞きましたら「まあそうやろな。中には仮面麺好きもおるかもしれんけど(笑)。かなり前に、インスタント麺食べたことない若い子入ってきたけどな。なんでウチの会社受けたんやろ…って謎やったわ」とのこと。

そんな子も採用しちゃうイトメン、懐が深いですね!

 

直売所は「近くにあったら良いのに…」と思わずにいられない

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素麺、中華麺などが業務用価格で安い!

最後に、本社隣の直売所についてどうしても触れておきたいと思います。ここではさまざまな麺が業務用価格で買えます!プロの飲食店用としか思えない3kgとか、規格外の商品とか…。撮影はNGでしたがさらに値下げされた賞味期限間近の激安商品も。

「かなりお客様が来られるんでしょうね!」としげりさんに言いましたら「いや、それほどでも…」とまたもや控え目な返事。皆さんこの存在を知らないんでしょうかねえ。家が近かったら絶対通うのに。

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ここで大量買いしたかったんですが、なんせ遠いんで断念しました。いつか車で来たい

とりとめもなくイトメンの話をしましたが、結果、やっぱり全然残念じゃありませんでした。ファンに支えられているし、着々と全国制覇目指してるし、伊藤さん同士で仲良さそうだし。

現在は兵庫県周辺以外でも関東の一部などでチャンポンめんは販売され、ネットでも買えます。まずは一度、公式HPを覗いてみてください(就業時間を避けて)。

 

紹介したイトメン

 

著者プロフィール

猫田しげる

デカ盛りと食べ放題を求めて津々浦々。おいしいものもおいしくないものも大好きです。

ホームページ:猫田しげるの食ブログ クセの強い店が好きだ!

猫田しげる「みんなのごはん」過去記事一覧

Source: ぐるなび みんなのごはん
決して残念ではない兵庫のご当地即席麺「イトメンのチャンポンめん」を君は知っているか

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