飲食に関連する業態の中で、最も寡占化が続いているコンビニ業界。ここ数十年で大手3社がほかの中小・ローカルコンビニを吸収した。
その中で、最後の大きなローカルコンビニこそがセイコーマート。北海道では1,081店(2021年11月末時点)と一番の数を誇り、人口の少ない地域でもできるだけ店舗を営業する姿勢で、道民のライフラインになっている。
しかし、北海道のローカルコンビニであるはずのセイコーマートは、なぜか遠く離れた茨城(83店)と埼玉(9店)、この2県にも店を出している。しかも1980年代から長らく存在する。なぜ東京や大阪でもなく、遠く離れたそこだけにあるんだ?
中はもはや北海道
この日はセイコーマートの関東の拠点・茨城県水戸市にある、水戸堀町店にやってきた。市の中心部から車でしばらく行った郊外にある。
いざ店内へ。広くゆったりとしたレイアウトで、通路も広い。そこに、北海道地場のコンビニならではの商品がこれでもかと並ぶ。
※写真内の値札などに表示されている値段は茨城・埼玉価格で、北海道と異なる場合があります。理由は後述。
しかもコンビニなのに、どれもこれも安い。いつもは店内にイートインもあるが、コロナの感染防止対策で一時閉鎖されていたため、近くの公園で腹ごしらえした。
お手頃価格のパスタシリーズの中で「Secomaクリーミーカルボナーラ」は、1人前で8%税込118.80円(北海道/118.80円)。クリーミーカルボナーラは生クリーム、牛乳、バターを使用したクリーミーなソースで、思い切りコクを感じられる。
大きなおにぎり「鮭」(8%税込226.80円、北海道/190.08円)はずっしり。北海道産鮭の鮭フレークがふんだんに入っていて最後までたっぷり楽しめた。
茨城にあるのに、北海道テイスト抜群のセイコーマート。そもそもなぜ、北海道以外にお店を構えたのか? そして、なぜ茨城と埼玉だけに?
登別温泉のように湧くナゾの数々を、株式会社セコマの執行役員広報部部長・佐々木威知(ささき・たけとも)さんに聞いた。
地元酒卸のローカル酒屋を守る動きが茨城・埼玉の出店に
辰井
そもそもなぜ、茨城と埼玉にセイコーマートがこんなにあるんですか?
佐々木
その前に説明させていただくと、セイコーマートは現存するコンビニでは最も古い1971年に北海道で生まれました。
辰井
セブン‐イレブン(1974年)より早い!
佐々木
ええ。酒卸の取引先だった酒屋さんや食料品店を、近代化する事業としてスタートしたのがセイコーマートです。
辰井
その発想でコンビニの先駆者になったんですね。
佐々木
ええ。そして80年代、地域の卸がチェーン本部となって、埼玉(1987年)と茨城(1988年)にもセイコーマートが展開されたんです。
辰井
取引先の酒屋を守るために、コンビニにして強化したと。
佐々木
ええ、ですのでセイコーマートでは、当時からコンビニとしては多くの店でお酒を出していたんです。そして2000年までに我々北海道の本部の加盟店として経営を引き継ぎ、現在に至っています。
辰井
近畿・中国地方にもお店があったそうですが、茨城と埼玉だけ残ったのはなぜですか?
佐々木
東日本の食文化と生活習慣が似ていたからだと思います。
辰井
遠く離れた関東に商品を輸送するのは大変じゃ?
佐々木
そうなんですが、いいところもあるんです。北海道の冬は野菜がほとんど収穫できません。ですので帰りのトラックに、茨城で生産された野菜や本州で製造された商品などを積んで帰ります。
辰井
茨城とか埼玉にお店があるから、北海道のお店に対しての供給もできるわけですね。ちなみに埼玉のお店が9店だけなのに、茨城で83店もあるのはなぜですか?
佐々木
もともと茨城県の店舗数の方が多く、また郊外型の店舗が多くてそれが残ったことも要因です。
辰井
茨城県の風景、たまに北海道っぽいと感じるときもありますもんね。店も広いし駐車場も広い、セコマは郊外に合うのかも。
佐々木
ええ、あと人口が多いから売り上げが高くなるとは言えません。郊外の店舗のほうが売り上げが高いことも多いですよ。
茨城のセコマはせんべいコーナーが広い
辰井
北海道のセイコーマートと、品ぞろえに違いはありますか?
佐々木
茨城ではせんべいなどの米菓がよく売れるので、地域の商品などを品ぞろえして売り場を広げました。
辰井
おお、広い。たしかに総務省の家計調査で、水戸市は2016~2017年のせんべいの消費額1位ですもんね。
佐々木
地域の食文化には合わせたいですから。あと、冷蔵ケースで販売される消費期限の短い商品は、関東のメーカーさんに供給いただくことが多いです。
辰井
北海道でも関東でも地元密着ですね。よく見ると、POPに作られた地域まで書かれていますし。
佐々木
そうですね。商品の選定は北海道と関東とは一部異なりますから、違いも出てきますよ。それで、地元の方になじむ品ぞろえになりますから。
茨城・埼玉では「北海道モノ」が大人気
辰井
茨城や埼玉で売れるのはどんな商品ですか?
佐々木
逆説的ですが、「北海道モノ」はよく売れます。北海道コーナーは両県の一部の店舗にありますが、特に埼玉県では好調のようです。また、月に1回「北海道フェア」を実施しておりまして、その際に不定期ですが北海道限定商品を展開しています。
辰井
北海道ご当地商品があるコーナー?
佐々木
そうですね、北海道産の原料を使用する商品や、北海道でしか販売していないものを置いていて、ニーズが高いです。
辰井
北海道限定商品も買えるのはうれしいな。
佐々木
ただしあくまで北海道限定の商品ですから、店に並ぶ頻度が限られているものもあります。
辰井
たしかにいつも関東で買えたら食傷気味になりますからね。
佐々木
ええ、お楽しみは北海道に来たときにということで。北海道だとペヤングより圧倒的に強い「やきそば弁当(東洋水産)」とか、「サッポロクラシック(サッポロビール)」が人気ですね。
辰井
北海道限定商品好きなら、憧れの商品たちですね。ソフトカツゲン(雪印メグミルク)なども?
佐々木
ソフトカツゲンはすごい人気で、一部で争奪戦になるとも聞きますね。
「道民価格」を貫けるワケ
辰井
一部商品で、北海道の価格のほうが安いものもあるようですね。
佐々木
北海道で製造したものを関東に運ぶと、どうしても物流費がかかりますから、その分、関東の方が若干高めの価格設定です。
辰井
それでも、安くないですか?
佐々木
道民が気兼ねなく買えることを大事にしているので、北海道の所得水準に合わせた価格設定を心がけています。
辰井
118.80円(8%税込)のパスタもありますし、そもそも、なんでこんなに安いんですか?
佐々木
たとえばパスタの麺は、商社を通さずにトルコのメーカーから輸入していて、容器は札幌の自前の工場で作っています。容器はメーカーさんから供給を受けるより、4分の1ぐらいコストダウンできていますよ。
辰井
そんなに?
佐々木
ええ。私どものグループ会社全体でできることも多いので、商品をお安く提供できます。北海道と茨城県を合わせて7箇所の農地と21の工場がありますし、物流も北海道や茨城・埼玉には自前で運びます。
辰井
自前だからなんでも安くなるわけですね。
佐々木
茨城の鹿嶋農場では特にネギを生産していまして、焼き鳥のねぎまに使いますよ。茨城県のメーカーさんとのお付き合いも大事でして、たとえば干し芋。茨城ですごくおいしいメーカーさんがたくさんあって。
辰井
茨城の名産ですもんね。
佐々木
特に秋から冬にかけては茨城の干し芋を販売するんですけども、北海道の店舗でよく売れています。
辰井
茨城からの逆輸入だ。相乗効果。
佐々木
あとはお米が茨城県のものが結構あります。逆に関東のお店は北海道産のお米が非常に人気で、よく売れています。
辰井
北海道と茨城は、補い合う関係性なんですね。
佐々木
茨城にお店があるだけじゃなくて、おかげで重要な拠点になっていますね。ウエルシアさんなどに商品を供給する上でも重要な拠点が、茨城の物流センターですから。
辰井
ドラッグストアのウエルシア? ほかのお店にも卸しているんですか?
佐々木
今は食品メーカーとしての顔もありまして、たとえばスーパーのライフさん用にPBの牛乳を作っています。ほか、全国に300以上の取引先があります。
辰井
特に手厚いのが、自前の拠点が茨城にある関東圏なわけですね。
佐々木
ええ。茨城では弁当・惣菜工場も持っていますから。
道民の秘密兵器・ホットシェフも関東で食べられる
辰井
83店舗ある茨城以外の関東人は、セイコーマートに疎い人が多いと思います。そういう人たちにセイコーマートの魅力を伝えるとしたら、どんなところを推しますか?
佐々木
まずは、店内で調理して提供するホットシェフです。
辰井
ひときわ道民が絶賛するコーナーですね。人気商品は何ですか?
佐々木
カツ丼(8%税込550.80円/北海道540円)も人気ですが、最も販売数量が多いのはフライドチキン(8%税込 300.24円/北海道278.64円)です。
辰井
なぜフライドチキンが?
佐々木
店内で生肉から作りますからね。生の鶏肉にミックス粉をまぶして、フライヤーで揚げて提供します。
辰井
おお!
佐々木
一般的には揚げたものを冷凍して、出すときにもう一度フライヤーで揚げて提供するものが多いのですが、セイコーマートでは店内でイチから作るので、肉本来のジューシーなおいしさを味わえますよ。
辰井
無性に食べたくなるセールストークですね。あ、ザンギもある!
辰井
ちなみに佐々木さんが個人的におすすめの商品はありますか?
佐々木
生乳100%のヨーグルトです。
辰井
ヨーグルト?
佐々木
廉価なヨーグルトは脱脂粉乳を使うものが多いですけど、これは生乳100%で、牛乳本来のおいしさをヨーグルトで味わえます。
辰井
贅沢だ。
佐々木
市場にある同等品よりも2~3割は安く味わえますよ。
辰井
あとPBのカップラーメンすごく多いですよね。北海道ならではラーメンラインナップもあります。
佐々木
いかに北海道民の味覚に合うかは重要ですから。北海道は各地にご当地ラーメンがあるくらいに細分化していますし、道民の好む味付けがあるので。道民に合わせて開発することで差別化を目指しています。
辰井
頼もしい。道民の方がよく食べると聞く、麺と別売りのスープを組み合わせて作る生ラーメンもありますね。
実は海外をめざす「セイコーマートの商品」
辰井
そこまでやるなら、関東のファンもつきそうですね。
佐々木
ええ。東京や栃木から、埼玉や茨城のセイコーマートまでワインを買いにやって来るお客さまもいます。埼玉には東京から週に1回、わざわざ牛乳を買いに来るお客さまもいますよ。
辰井
そこまでやるか。
佐々木
北海道のコンビニであることを活かして、本州にも商品をどんどん供給していければと思います。ホームページのオンライン通信販売も、85%のお客さまが道外からです。
辰井
セイコーマートはある種ブランドですからね。今後、関東のセイコーマート店舗たちは、どんな展開を見せてくれますか?
佐々木
お店を一気に増やす予定はありませんが、各店、ご利用いただけるお客さまを大切に、これからもやっていきたいと思います。
辰井
あくまでメインは北海道なんですね。
佐々木
ええ。それと同時に、私どもの新しい事業「メーカーとしての、北海道産セコマブランド」を拡大するために、本州や海外に広めたいと思います。
辰井
セイコーマートブランドが世界に?
佐々木
ええ。実は香港のスーパーにはセイコーマートコーナーがあります。
辰井
へええ。
佐々木
そのほか、東南アジアやアメリカにも少し行っています。世界的にも北海道ブランドって憧れを持たれていますから、セコマブランドを世界に広げたいですね。
辰井
北海道から世界へ。たとえばどんなものが人気ですか。
佐々木
メロンアイスなどの乳製品が人気です。北海道は海外でも生乳のイメージが強いですから。
茨城・埼玉のセコマは「北海道をアピールする拠点」
辰井
セイコーマートにとって、茨城や埼玉のお店はどんな存在ですか?
佐々木
まず茨城や埼玉の県民の方たちに親しんでいただける場所。そして、北海道をアピールできる拠点だと思います。
辰井
アンテナショップにすらない、商品群ですもんね。
佐々木
北海道の人たちが慣れ親しんだ商品たち。決してお土産用に作ったものでもないですから、そういうお店はなかなかないはずです。
辰井
本当にめちゃくちゃ楽しかったです。茨城と埼玉のセイコーマート、普段着の北海道が味わえる貴重なお店ですね!
※ホットシェフは一部取り扱いのない店舗、時間帯により販売していない商品があります。
※店内飲食の場合、税込価格が異なります。
※一部価格の異なる店舗があります。
※商品のパッケージ、価格、仕様は変更する場合があります。
※写真内に、一部期間限定の商品があります。
筆者プロフィール
辰井裕紀(たつい・ゆうき)
ローカルネタ・卓球・競馬などが得意のライター。過去に番組リサーチャーとして秘密のケンミンSHOWなどを担当。著書「強くてうまい!ローカル飲食チェーン」発売中。
Twitter:@pega3
編集:ノオト
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Source: ぐるなび みんなのごはん
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