干し芋というものがある。その名の通り芋を蒸して干したものだ。冬になるとスーパーではもちろん、コンビニなどにも並び、トースターなどで少し温めてから食べると実に美味しい。
では、干し芋を作る際に、一番美味しいサツマイモの品種はなんだろうか。サツマイモにはいろいろな品種がある。ベニハルカ、鳴門金時、シルクスイートなど。いろんな品種のサツマイモを使い自宅で干し芋にして、さらに干し芋の歴史も見てみたいと思う。
干し芋は茨城
冬に食べたくなる物、と言われて思い浮かぶのはなんだろうか。鍋や肉まん、焼き芋などは冬の寒い時期に食べると実に美味しい。そして忘れてはならないのが「干し芋」だ。天日乾燥できる11月後半から生産が始まる。
私は干し芋が好きだ。初めて食べたのは小学生の頃だっただろうか。当時鹿児島に住んでいて、鹿児島はサツマイモの生産量が全国1位なので、干し芋もたくさん作られていて、親が買ってきたんだろうと思っていた。
実は日本の干し芋の国内シェア9割は茨城産だ。茨城には1908年に干し芋の製造技術が伝わり、魚の干物作りに似ていることもあり、当初は漁業関係者により干し芋は作られた。茨城は冬場に晴天が続き、雨が少ないこと、海風が吹くことなど、サツマイモを乾燥させる工程に向いていた。
そもそも茨城は色の黒い火山灰土壌でサツマイモの生産に向いており、冬場は気温が低下し晴天が続く。土壌と気候がサツマイモ栽培にも干し芋づくりにも向いていたわけだ。大正時代の末には農家の副業としても定着して、干し芋の産地として成長する。
干し芋の誕生
現在では茨城が1位ではあるが、1954年までは静岡が1位だった。その静岡で干し芋は生まれた。1782年に運搬の軽量化を目的として、栗林庄蔵氏により考案された。今の一般的な干し芋とは異なり、水煮のサツマイモを輪切りにして日干ししたものだった。
1854年の安政大地震や飢餓を契機に、干し芋にいろいろなアイデアが加えられていく。水煮から蒸しへと変わり、皮付き薄切りから、剥皮厚切りになり、多段型の干棚なども生まれる。1900年になるとこれらの技術が集まり、今日の干し芋技術が完成することになる。
高度成長期に入ると省力化装置が導入される。静岡では横型回転洗浄機や、トンネル式温風乾燥装置が、茨城ではコンテナ式やヘリコプタ式などの乾燥装置が開発された。
干し芋は飢餓対策の備蓄用として普及し、日露戦争では保存食として用いられた。第二次世界大戦前までは、農村部においての米の補いや米の代用として活用される。その後は食の洋食化などで干し芋に陰りが見えたが、自然食ブームなどで現在は生産量が安定している印象を受ける。
干し芋の説明をしながら、水煮での干し芋を作っていた。食べてみると美味しいのだけれど、味が薄くも感じられた。今でも水煮の干し芋を作っているところもあるので、素人の私には水煮はまだ早かったのかもしれない。
干し芋の品種
かつて干し芋に使われていたサツマイモの品種は
- 太白
- 飯郷
- 沖縄100号
- シロセンガン
だった。沖縄100号は戦中、戦後の質より量の時代によく作られた品種で水っぽく美味しくはなく、私の祖母はサツマイモが嫌いなのだけれど、その理由が戦時中に沖縄100号をとにかく食べたためだ。
現在は
- タマユタカ
- ヒタチレッド
- タマオトメ
- 泉13号
などが、干し芋を作る際によく使われている。ただ干し芋としては手に入るけれど、干す前の状態をスーパーなどで見かけることはあまりない品種でもある。
実は一般的に手に入る品種でも干し芋は作られている。シルクスイートやベニハルカなど。よく聞く品種でも干し芋は作られているのだ。
そこで今回は、スーパーなどで容易に手に入る6品種のサツマイモを揃えてみた。これらを使い自宅で干し芋を作るのだ。
- ベニハルカ
- シルクスイート
- 紅きらら
- ひめあやか
- 鳴門金時
- パープルスイート
干し芋の作り方は文字だけではとても簡単だ。「蒸す」、「切る」、「干す」の3つだけ。厳密に言えば、そこに皮を剥くなどもあるのだけれど、どちらにしろシンプルだ。シンプルだからこそ本来は技術や経験が必要になってくるのかもしれない。
王道の作り方ではまずはサツマイモを蒸すところから始まる。ただ蒸し器が自宅にはないので、今回は炊飯器を利用してサツマイモに火を通す。炊飯器でサツマイモを蒸すと甘くて美味しいのだ。
干し芋は「平切干し」「角切干し」「丸干し」の3つに分類できる。平切干しは今回私が作っている干し芋のようなもので、厚さ6mm程度の板状となる。角切干しはスティック状のもので、丸干しは皮を剥いた状態でそのままの形のものだ。
本来は品種や蒸す際のせいろの形状に関係して形が決まるのだけれど、今回は全て平切干しにしている。ベニハルカやシルクスイートなどは平切干しをよく見かける。そもそも干し芋で見たことない品種もあるので、全て平切干しだ。
平切干しで、天日干しの場合は1週間ほど干すことになる。1日おきに裏返すのがポイントだ。満遍なく乾燥させるため。また角切干しの場合は2週間ほど干すことになる。先にも書いたが生産時期は11月末から2月末頃までとなる。
自家製干し芋を食べる
作るのは簡単ではあるが、天気を気にしなければならない1週間だった。なるたけ外に出しておきたいけれど、外出する予定があり、天気予報を見ると怪しい、という日もあったので、外出をやめた。それくらい私はこの干し芋作りに本気なのだ。
本来はトースターで焼くと美味しいのだけれど、トースターがない場合は、電子レンジで餅を焼くアイテムがあって、それに干し芋を並べて行うと美味しく仕上がる。さてどれが美味しいのだろうか。
まずはベニハルカ。2010年に品種登録されたねっとり系のサツマイモだ。今では甘いと言われて思い浮かべる品種がベニハルカなのではないだろうか。食べてみると噛めば噛むほど甘味が出てきて、香ばしさのようなものも感じる。
2012年から種苗の販売が始まった品種。ねっとりできめが細かい舌触りが特徴だ。栽培も比べればしやすい。干し芋も美味しく甘みがある。よい意味で干し芋の平均点のような感じで王道とも言える。
オレンジ色でコガネセンガンの変異と言われている。焼酎用や製菓用として栽培している農家さんもいる。その色からニンジン芋と言われることもある。干し芋はカロテンの味がした。ニンジンとカボチャが合わさったような味だけれど、ニンジンの嫌な感じはなく、甘さだけがある感じで、その甘みも強い。
サツマイモの中では小さいサイズのひめあやか。家庭消費の拡大から食べ切りサイズを意識して生まれたものだ。これがすごかった。ベッコウ飴のような甘さがあり、砂糖菓子を食べているかのような驚きの甘さだった。甘みがすごくイモらしさがないとまで言える。干したマンゴーと言ってもいいかもしれない。
徳島県の特産品で、加熱すると黄色くホクホクというが特徴だ。よくサツマイモを食べた時にホクホクで美味しいと言ったりするが、鳴門金時はその言葉が一番似合う。干し芋は香りがあり、サツマイモの甘みが強く残っている。イモ飴のような甘味。イモの味を感じるには最適と言える。
紫サツマイモは一般に甘みが弱く、加工に用いられることが多い。その中でも甘みが強いとされるのがパープルスイートだ。ちなみにこれは私が苗を買い、手伝いに行っている畑で育てたもの。干し芋にも期待は高まったけれど、甘みは弱かった。ただ普通に蒸して食べるよりは甘く、また紫色という見た目に満足した。
まとめるとベニハルカ、シルクスイート、鳴門金時などはやはり美味しく、ひめあやかはなぜか異常に甘くて虜になった。紅きららやパープルスイートは見た目がおもしろいので満足。品種ごとに味が違うし、自宅でも作れるという点が干し芋の素晴らしい点だ。素材の味を存分に楽しむことができる。栄養価もいいし。
- ベニハルカ、シルクスイート、鳴門金時…美味しい!
- ひめあやか…異常に甘い!
- 紅きらら、パープルスイート…見た目がおもしろい!
干し芋を作ろうぜ
干し芋は個人でも手軽に作れる自然食品と言える。機能性を見ても、豊富なビタミン類を含み、整腸作用もある。飢餓に備えて備蓄していたことからもわかるように保存にも優れている。買ったものの方が美味しいのは間違いないが、自分で作る楽しみも今回わかった。手間はかからないけれど、時間はかかるのでものすごく達成感があるのだ。
参考文献
『地域資源活用食品加工総覧 加工品編 第5巻』農山漁村文化協会 2001
『農業技術大系 作物編 第5巻』農山漁村文化協会 2010
『現代農業 2020年2月号』農山漁村文化協会 2020
著者 地主恵亮
1985年福岡生まれ。基本的には運だけで生きているが取材日はだいたい雨になる。2014年より東京農業大学非常勤講師。著書に「妄想彼女」(鉄人社)、「インスタントリア充」(扶桑社)がある。
Twitter:@hitorimono
Source: ぐるなび みんなのごはん
ベニハルカ、鳴門金時、ひめあやか……いろんな品種のサツマイモで干し芋を作る