瓶こそ至高。日本初の果汁飲料「瓶のバヤリースオレンジ」が今も年間約480万本売れるワケ

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1962年当時「バャリースオレンヂ」の広告

老舗の食堂やレストラン、居酒屋、旅館、ホテル。そういったお店でソフトドリンクを頼むと、なぜか決まって出てくるのは瓶のバヤリースオレンジ

筆者も、幼いころに親戚一同が集う席でよく冷えた瓶のバヤリースをおいしく飲み干し、酔っぱらう大人を俯瞰で眺めるのが遠い日の思い出だった。

その味は大人をも潤す。たとえば、そば屋で一杯飲むのも一興だ。

 

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上目黒にある創業昭和29年のそば店・蛇崩 更科さんにて

 

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しかしなぜ、瓶のバヤリースがいまだ天下を取っているのか。そこには先行者利益に加えて、商品力や工夫、知られざるバックボーンがあるはずだ。

アサヒ飲料株式会社マーケティング一部のバヤリースブランド担当者、小坂瑠夏さんに話を伺った。

 

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左=筆者・辰井 右=小坂さん

 

バヤリースオレンジは日本初の果汁飲料だった

辰井
バヤリースって、いつどのように生まれたんですか?

小坂
もともと、バヤリースは1938年にアメリカで生まれました。

辰井
アメリカ?

小坂
ええ。それ以前の果汁飲料は、保存技術などが未発達で、すぐに風味が変わってしまうため大量生産できませんでした。

辰井
大変だ。

小坂
そこで、アメリカのフランク・バヤリー氏が、果実の風味や香りを失わずに長期間保存できる瞬間殺菌法を開発し、バヤリースオレンジが生まれたそうです。

辰井
だからバヤリース、なんですね。

小坂
日本では戦後まもなく、GHQの進駐軍用の飲料として採用されていたそうです。

辰井
そこから日本での一般販売が始まるんですか?

小坂
いえ、当時は規制ですぐ市販できなかったようなのですが、食品衛生法ができて、日本で果汁含有飲料の製造が可能になりました。いまのバヤリースオレンジにsince1951と書いてある通り、1951年に日本初の本格的な果汁飲料として登場したんです。

 

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発売当時の広告(アサヒ飲料社内に残る画像をAIソフトで拡大)。当時は人気のあまり「ニセバヤリース」まで登場。1953年9月15日の朝日新聞大阪版にて、犯人が逮捕されたニュースもある

辰井
ここからバヤリースが売れていくわけですね。

小坂
ええ。それとともに各社から多くの果汁飲料が発売されました。

辰井
資料を読むと1952年のポンジュース(愛媛青果連)、リボンジュース(日本麦酒)、1954年のキリンジュース(麒麟麦酒)、1958年のプラッシー(武田薬品工業)など……たちまち数百の果汁飲料であふれかえったとありますね。

 

いまだ瓶入り果汁飲料で最大のシェアとされる

辰井
瓶のバヤリースは、いま1年でどれくらい売れていますか?

小坂
だいたい20万ケースくらい。最盛期はもっともっと売れていたと思います。

辰井
たしかに、よく飲んでいましたからね。

小坂
ただ、弊社が調べた限りでは、日本の瓶入り果汁飲料では最もシェアが高いと推定しています。1ケース24本なので、年間480万本くらいは販売していますね。

辰井
まだまだ根強いですね。主な販売先はどこですか。

小坂
調べた範囲では、お寿司屋さんをはじめとする和食業態や、旅館やホテルなどがありますね。あらたまった場、みんなが集まる場の飲み物として広く使われているようです。

辰井
そのイメージ、あります。

 

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そばを食べながらグラスを傾けるひととき

小坂
和食の料理屋さんで大人がお酒を飲むなか、子どもがバヤリースを飲んでいるのもおなじみの光景ですよね。

辰井
まさに。法事なんかで、酒を飲める人が騒ぐなか、片隅でちびちび飲むバヤリース。そこはかとなくおいしかったです。

 

瓶・缶・ペットボトル、味も色も違う

辰井
同じバヤリースでも、味や色が違うと言っている人がいるんですけども、ホントですか?

小坂
瓶、缶、ペットボトルはすべて味わいや色が違います。

辰井
ぜんぶ別? なぜ?

小坂
まず、瓶入りのバヤリースオレンジは、いまの味にいつなったのかわからないくらいです。

辰井
それだけ味を変えていないわけですね。

小坂
一方、スーパーなどでよく売られている缶とペットボトルのバヤリースオレンジは、トレンドに合わせています。それぞれ飲みやすさと果汁感のバランスを考えた味にリニューアルしています。

辰井
対照的だ。

小坂
缶とペットボトルは、甘さを控えめに、果汁らしさがありながらも、ゴクゴク飲んでリフレッシュしたいというニーズに応えました。コロナ禍で健康志向も高まり、ペットボトルには1日分のビタミンCを配合しています。

辰井
ちなみに果汁は瓶と缶が10%で、ペットが20%なんですね。

小坂
ええ。ただ、瓶と缶でも味は違いますよ。飲み比べてみてください。そして、沖縄で販売されている沖縄バヤリースとも味が違います。

 

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後日、3つを飲み比べてみたときの様子

 

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たしかに色からして三者三様。ぜんぜん違う

ペットボトル……自然な酸味でリアルな果汁感がある。果実の味わいの初速が強く、後味はスッキリ。

缶……スッキリ感が一番強い。後味でスッと甘さがなくなり、爽快感さえ感じる。一番甘さがない。

瓶……まず手に持った瓶が冷たくて気持ちいい。往年のオレンジドリンク風味を心ゆくまで味わえる。ブレずに甘い。

 

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沖縄バヤリースは瓶のバヤリースよりも色は若干濃く、さらに味の輪郭がはっきり。どこかみかんっぽさも感じる

 

「バャリースオレンヂ」から改名したワケ

辰井
1987年までは「バャリースオレンヂ」の表記でしたよね? なぜ「バヤリースオレンジ」に変えたんですか?

 

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かつては「バャリースオレンヂ」だった

小坂
1986年の文化庁・国語審議会で現代仮名遣いについての答申があって、歴史的仮名遣いから現代的かなづかいへの変更が勧められたんです。

辰井
現代かなづかいへの変更の一環?

小坂
推定ですが、子どもに人気の飲料なので、子どものためにルールへ対応したのではないでしょうか。

辰井
たしかに、子どもにもすんなり読めますね。「ャ」ってどう発音するんだよってなりますし。ヂもビルヂングのヂくらいですかね。

 

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いまだ「ヂ」を残す大名古屋ビルヂング。初代ビルは1965年に竣工

小坂
数量限定で販売した「バャリースオレンヂクラシック」は当時の名前のままです。

 

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過去に数回、期間限定販売している“クラシック”。こちらは2021年版

辰井
おお、こんなのがあるんですか!

小坂
「クラシック」なので、あえて文字は当時のままです。炭酸を入れつつ、1970年代の当時の味わいを復刻させました。

辰井
瓶の味わいに近い?

小坂
一緒ではないですけど、そうですね。

 

瓶の容器は、まだまだ製造されている

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辰井
この瓶、いまでも製造していますか?

小坂
瓶は、瓶メーカーさんが作ったものを購入しています。

辰井
瓶は再利用できるので、もう作っていないのかと思っていました。足りなくなった分を補充する感じですか?

小坂
リターナブル瓶でも古くなったり、傷や汚れが出たりしたら交換しますよ。

辰井
なるほど。1951年当時のものは使用されていないんですか?

小坂
そうですね。残っていないと思います。

 

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往年のアサヒ飲料の瓶飲料たち(Photo by 栗原 岳

辰井
ちなみにスーパーとかではなかなか扱いにくいですか?


小坂

持ち帰るにも、瓶は重たいですから。ご家庭ではペットボトルや缶が主流です。基本的には瓶ビールと状況は一緒ですね。


辰井

みんなで飲む需要が頼りなんですね。

 

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そば店・蛇崩 更科さんのメニュー

 

小坂
現在は、飲食店での提供が主流のはずです。


辰井

そうすると、コロナの影響はありましたか……?


小坂

少なからずあったと思いますね。

 

瓶のバヤリースが支持され続けるワケ

辰井
それでも、いまだにたくさんのお店にバヤリースが残る理由は何ですか?


小坂

これは、いち担当者としての考えにはなりますが、瓶が醸し出す特別感だと思います。物理的な重さも本格感につながっているのではないかなと。


辰井

瓶の牛乳もうれしいですけど、瓶のバヤリースはハレの日感がありますね。親が連れて行ってくれたお店で、隣にある感じ。

 

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小坂
ええ。お寿司屋さんや旅館でも、瓶で出てくれば非日常感や特別感が演出できるのかなと感じています。


辰井

たしかに、寿司屋さんとかで缶やペットボトルが出てきたら「ん?」って思いますからね。

 

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売店でも根強く愛される(Photo by OiMax

小坂
あとは長い歴史のなかで、多くの人が一度は飲んだ経験が信頼に結びついていると思います。


辰井

なるほど。栓抜きで抜いてコップに注ぐのも、様式美を感じますね。よくあるアサヒビールのあの小さなグラスで飲むのも、ささやかな特別感があります。


小坂

コップに注ぐのも1つのコミュニケーションですから。

 

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果汁飲料全体の消費額は半減。苦戦するバヤリース

辰井
瓶のバヤリースは独特の立ち位置ですね。


小坂

今年で販売開始から71年ですけど、100年続けられるブランドにしたいです。もっと皆さんに飲んでいただきたいですね。


辰井

バヤリース自体の売り上げは、やはり堅調ですか。


小坂

いま、果汁飲料は、“甘さ離れ”が進んでいる中でなかなか苦戦しているカテゴリーなんです。


辰井

え?

 

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小坂
かつてソフトドリンクといえば果汁飲料でしたけれども、飲みものの種類が増えて、果汁飲料は厳しい時代を迎えています。


辰井

たしかに家計調査を見ると、「果実・野菜ジュースの1世帯当たり年間の購入額」は1994年に12,516円だったものが、2021年には6,194円。半減していますね。


小坂

それでも、多くの方々が飲んできた歴史あるものですし、大人から子どもまでみんなが飲めるものなので。常に皆さんが求める味わいやパッケージなどを検討していますので、これからも愛してもらいたいです。


辰井

瓶もいいけれども、担当者としては、バヤリースがいま出している最新作を飲んでほしいですか?


小坂

ぜひ皆さんに味わっていただきたいですね。


辰井

いまのバヤリースの味、知らない人のほうが多いかもしれませんから。


小坂

いろいろな新しい飲料も人気ですけど、果汁飲料もぜひ飲んでいただきたいです。

 

時代の変化に合わせつつ、歴史も守り抜く

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辰井
最近のバヤリースってどうなっていますか?


小坂

実は2022年2月にリニューアルしたんです。より果実の美味しさや自然な味わいが感じられる中味になりました。


辰井

私も飲みましたが、味の「初速」があるなという感じで、最初はパワフルで、後味がスッキリしていましたね。


小坂

いまの人たちの好みに合わせつつ、親と子をつなげるドリンクの座を守り続けたいです。お母さんが子どもにも勧められる商品にできれば。


辰井

なるほど。最後にお聞きしますが、瓶のバヤリースはアサヒ飲料さんにとって、どんな存在ですか。


小坂

世代をつなげるアイテムですね。


辰井

私たちも、70年の歴史にちょっと参加させてもらった気がします。

 

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取材協力

更科
〒153-0051 東京都目黒区上目黒5-30-11

 

筆者プロフィール

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辰井裕紀(たつい・ゆうき)

ローカルネタ・卓球・競馬などが得意のライター。過去に番組リサーチャーとして秘密のケンミンSHOWなどを担当。著書「強くてうまい!ローカル飲食チェーン」発売中。

Twitter:@pega3

編集:ノオト

Source: ぐるなび みんなのごはん
瓶こそ至高。日本初の果汁飲料「瓶のバヤリースオレンジ」が今も年間約480万本売れるワケ

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