南国を感じる果物がある。人によって思い浮かべるものはさまざまだと思うけれど、そのひとつに「パッションフルーツ」があるのではないだろうか。東南アジアなどに出かけた際に食べる果物のような匂いを放つフルーツだ。
そのパッションフルーツは実は日本でも育てられており、食べるとわかるのだけれど、香りと甘みに驚くことになる。ものすごく簡単に言うと美味しいのだ、めちゃくちゃ美味しいのだ。パッションフルーツの時代が来ると感じた。
パッションフルーツとは?
スーパーや八百屋、果物屋に行くと様々なフルーツが売られている。イチゴやなし、りんごなどの日常的に我々の食卓に並ぶものもあれば、ドラゴンフルーツやドリアンなどの、知ってはいるけれどそんなには食べないものまである。
パッションフルーツというフルーツが存在する。褐色といえばいいのだろうか、そのような色をしており、皮は硬く、海外を思わせる香りを醸している。名前からもパッションフルーツは海外で育てられていると思っている人も多いはずだ。
もちろんパッションフルーツの原産国はブラジルであり、名前もブラジルの宣教師がその花を見て、十字架にかけられたキリストの受難(パッション)を連想したことに由来する。たしかにもともとの生まれは海外なわけだけれど、実は日本でも生産されている。
日本にパッションフルーツが入ってきたのは明治中期で、試験的に導入された。昭和になり第2次世界大戦が終わると新資源開発の機運に乗って、南九州に種子島から苗木などが導入される。昭和30年代になると九州、四国など暖かい地域での栽培面積が190haに拡大したが、徐々に需要は減り栽培面積も減っていくことになる。
ただ近年は消費者の嗜好の多様化などで、果汁の輸入が増えたりなど、需要は増加しているそうだ。それには頷ける。パッションフルーツを今まで熱心に食べてはこなかったのだけれど、食べるとわかる。これはフルーツの神様ではないかと思うほどに美味しいのだ。
日本でも育てているパッションフルーツ
冒頭で私が飛行機に乗っていたと思うけれど、パッションフルーツの育てられている様子を見るために八丈島に向かっていた。羽田空港から55分で八丈島に着いてしまう。国内のパッションフルーツの生産量第3位が東京。八丈島は東京なのだ。
世界的に見てもパッションフルーツの以前の主要生産国はブラジル、ペルーなどの南米の地域だけだった。近年はオーストラリア、ハワイ、ケニア、タンザニア、東南アジアなどで栽培されるようになった。日本では鹿児島が50%以上のシェアを誇り、沖縄、東京と続く。
パッションフルーツはハウスのような場所で育てられている。中に入ると収穫時期だったので、パッションフルーツがゴロゴロに実っているのがわかる。このハウスの中だけで約8,000個のパッションフルーツが実っているそうだ。
パッションフルーツの育て方
パッションフルーツは1年に2回収穫することができる。夏と秋だ。2年目くらいまでは収穫できるそうだけれど、こちらでは1年で全て植え替えるそうだ。また2回取れるけれど1回しか取らない。味を考えるとそうする方がいいそうだ。
時期になると全ての花に自分たちで受粉させる。ずっと上を向いて1つのハウスで8,000個もの花に受粉させなければならない。大変な作業であることがわかる。場所によってはミツバチを使っているところもあるそうだ。
八丈島では昔から自宅でパッションフルーツを育てている人が多い。路地栽培というわけだ。しかし、きちんと出荷するためには病気などを考慮してハウスで育てる必要がある。八丈島でもパッションフルーツの農家さん自体は決して多くはないそうだ。自宅で育てている人は多いけれど。
パッションフルーツは収穫時期になると勝手に落ちてしまう。地面に落ちると商品にならないので、上記のように洗濯バサミを使って落下を防止している。これももちろん手作業なので大変な作業だ。
そんなに簡単に落ちないでしょ、と思っていたけれど、農家さんにお話を聞いている時も、網にバンバンに落ちていた。どこかで音がして本当に自然に落ちるんだと驚いた。ちなみに収穫自体はパッションフルーツを持って根元を折ると簡単に取ることができる。
パッションフルーツの品種
イチゴに「さがほのか」「あまおう」などがあり、なしに「幸水」「二十世紀」があるように、パッションフルーツにも品種というものが存在する。パッションフルーツにもいろいろあるのだ。
パッションフルーツはトケイソウ科トケイソウ属で、そこに属する植物は400種類ほどあり、その中で食用されているのは50種類ほど。重要な経済価値があるのは「ムラサキクダモノトケイソウ」と「キイロトケイソウ」の2つと、その交雑種の3つである。狭義ではこの3つをパッションフルーツと呼ぶ。
ムラサキクダモノトケイソウは在来種と言われ、亜熱帯に分布するけれど、高温に弱く熱帯地域では高地で栽培する必要がある。果汁が多く、香りも強く、クエン酸を主体とした酸味と甘みが特徴だ。ただウイルスなどに弱く、壊滅的な被害を受けることもある。
キイロトケイソウは、ムラサキクダモノトケイソウより高温を好むが、耐寒性には弱い。果実重は100グラム以上とムラサキクダモノトケイソウよりも大きいことも特徴だ。果汁も多く、糖も酸もムラサキクダモノトケイソウよりも高い。品質的にジュースに使われることが多い。
交雑種はムラサキクダモノトケイソウとキイロトケイソウの交雑なので、その中間の性質を示すものが多い。国内では「サマークイーン」「ルビースター」「台農一号」などが栽培されている。交雑種は樹勢が強く、糖度は高いが酸味も感じられるのが特徴だ。
八丈島で訪れた農家さんは台農一号を育てていた。台湾で育成された系統で、小笠原諸島で栽培されている。糖度は高く、酸味は比べれば低く、糖酸比が高く高品質な果実と言える。もう書いちゃうがめちゃくちゃ美味しいです。
パッションフルーツの食べ方
パッションフルーツの食べ方は実に簡単だ。皮は硬いのだけれど、慣れればナイフすらいらない。一番手軽な食べ方はナイフでパッションフルーツを半分に切り、スプーンですくって食べる方法だ。
種ごと食べるのに抵抗を感じるかもしれないが、その食感も楽しい。そして、甘みと酸味がよき塩梅でやってくる。甘みがすごい。こんなに甘い果物があるのか、と驚くほどの甘みだ。酸味は心地よく夏によく合う。
農家さんくらいになるともうナイフはいらない。確かに爪を押し込めば、いい感じで半分に割れる。もちろん味に変わりはない。とにかく美味しい。ここからは私はもはや美味しいとしか書かないけれど、事実なのだ。パッションフルーツの虜になった。八丈島のパッションフルーツはとにかく美味しい。
パッションフルーツはしばらく(追熟)すると、皮に皺が入り始める。この頃に食べると酸味が弱くなり甘みが増す。ただそれは好みだ。酸味がある時も美味しいし、甘みが勝った時も美味しい。これは好みとしか言いようがない。
パッションフルーツの栄養価は非常に高い。ビタミンが多く含まれ、機能性成分も多い。森永製菓は種子にポリフェノールの一種であるピセアタンノールが含まれていることを発見した。これはアンチエイジングに効果があり長寿遺伝子を活性化すると言われている。
パッションフルーツの生食用は非常に高価で100gの果実が1,000円を超えることもあるそうだ。八丈島のパッションフルーツはそこまでの値段ではなかった。ただたとえ1,000円でも私は食べると思う。それはなぜか、お釣りが来るほどに美味しいからだ。
パッションフルーツを食べよう
以上がパッションフルーツについてだ。わかったことは「美味しい」ということ。とにかく美味しいのだ。八丈島のパッションフルーツが美味しすぎて困る。あまりに美味しくて箱で買った。弟にも送った。今の時期しか食べることができないので、毎夏の楽しみにしたい。最近はマジでパッションフルーツのことしか考えられない。中毒性すら感じられる美味しさなのだ。
取材協力
・美咲園芸
・里正園
参考文献
『パッションフルーツ: プロから家庭栽培まで』米本仁巳 近藤 友大 農山漁村文化協会 2022
『農業技術大系果樹編』農文協 農山漁村文化協会 2009
『現代農業2007年11月号』農山漁村文化協会 2007
『食品加工総覧素材編』農文協 農山漁村文化協会 2009
著者 地主恵亮
1985年福岡生まれ。基本的には運だけで生きているが取材日はだいたい雨になる。2014年より東京農業大学非常勤講師。著書に「妄想彼女」(鉄人社)、「インスタントリア充」(扶桑社)がある。
Twitter:@hitorimono
Source: ぐるなび みんなのごはん
パッションフルーツを知っていますか? フルーツ界の神な美味しさです