インドネシア産ウナギ「ビカーラ種」は、ウナギ食文化継続の救世主かもしれない

こんにちは、みんなのごはん編集部です。

ウナギ食を長く続けるためには、いろんな取り組みが必要になってきますが、この記事では、インドネシアのウナギ「ビカーラ種」について紹介できればと思います。

うなぎの蒲焼

【目次】

インドネシアのウナギ「ビカーラ種」って?

世界中に存在するウナギの種は18種類とも19種類とも言われています。

この中でわれわれ日本人にとって最も親しみ深い種は、ニホンウナギ(学術名:Anguilla japonica)であるのは間違いありません。

1年を通して美味しいウナギがいただける専門店はもちろん、牛丼チェーン、居酒屋のランチにコンビニ、そしてスーパーでも土用の丑の日が近づくと、日本列島はウナギ一色に。

並んでいるウナギを見ると、チェーン店やスーパーでは中国産が多いですが、中国産には二ホンウナギの他にアメリカウナギ、ヨーロッパウナギなど複数が含まれていて、近年ではアメリカウナギが増えています。

 

店頭にたくさん並んでいるウナギですが、それと同時に資源の枯渇と絶滅の危惧が懸念されているニュースも毎年のように話題になります。

環境省は、平成25年に、ニホンウナギを絶滅危惧ⅠB類としてレッドリストに掲載しています。

絶滅危惧ⅠB類とは、「絶滅危惧ⅠA類ほどではないが、近い将来における野生での絶滅の危険性が高い種」という定義で、このA類には、イリオモテヤマネコなどが指定されています。ちなみにB類には雷鳥やムツゴロウが挙げられます。

 

そんな中、大手流通グループであるイオンが平成30年に打ち出した「ウナギ取り扱い方針」で

  • 主に「ニホンウナギ」と「インドネシアウナギ」の2種を販売する
  • 「インドネシアウナギ」の持続可能性を担保するため「インドネシア保全プロジェクト」を推進する 

などを策定し発表したことを覚えておられる方もいるかもしれません。

この「インドネシアウナギ」こそが、こちらの記事で紹介する「ビカーラ種」(学術名:Anguilla bicolor bicolor)です。

 

そして、大手にはない視点と経験で「ビカーラ種」の日本流通を手がけるのが、双栄物産株式会社の取締役社長・村上善昭さん

村上さんはなぜインドネシアウナギ「ビカーラ種」の流通に取り組むのでしょうか。

安全安心、そして持続可能な「ウナギ食」を楽しむためには、まずは「ウナギをコントロールすることの難しさ」を理解する必要がありそうです。

 

ウナギのコントロールの難しさ

レプトセファルス

「ニホンウナギはマリアナ海溝の北側で産卵され、レプトセファルスという幼生の状態からシラスウナギと呼ばれる稚魚に育ち、北上して日本に着くということが解明されたのは近年です。それ以外のウナギの生態についてはほとんど分かっていません。そもそもですが、二ホンウナギ以外のウナギについての研究者が少ないのもその理由です」

 

ニホンウナギのふるさとが日本から3,000キロ離れた場所なのが分かったのは、2009年のこと。このエピソードは今では小学校の教科書にも載っていますが、他の種のウナギの生態も謎だらけだと村上さんは言います。

 

「ビカーラ種には2種類あり、『ニューギニア・ウナギ』と呼ばれるビカーラ・パシフィカ(学術名:Anguilla bicolor pacifica)と、日本で流通しているビカーラ・ビカーラに分けられます。ビカーラ種も他のウナギと同様で、産卵場所の特定はされていません。推測になりますが、ビカーラ・パシフィカはフィリピンやニューギニア側の太平洋で生まれ、ビカーラ・ビカーラはミャンマー・タイ・マレーシア側のインド洋から来ているのではと」

 

ウナギの生態の謎こそが、卵からの完全養殖を不可能なものにしています。どこで生まれた稚魚なのか?を把握することから、本来は持続可能なウナギ養殖をスタートさせるべきですし、シラスウナギの流通経路の不透明さも問題です。

 

「マリアナ海溝から帰ってきて日本国内でシラスウナギの稚魚から養殖されて流通するのが、いわゆる国産のウナギですが、シラスウナギの量がまず足りないわけです。そこで不足分を香港経由で輸入するんですが、その稚魚がどこで生まれたか、どのように流通してきたものかはわからないんです。日本の養殖業者さんが輸入している稚魚は、不透明な流通経路で来たものもいるのが現状です」

 

どこで生まれ、誰がどこでとったウナギなのか、よくわからない。トレーサブルでない……生態の謎も大きな要因ですが、資源の枯渇と絶滅の危惧、そして提供価格の高騰というリスクと常に隣合わせなのが、ニホンウナギの現状と言えるでしょう。

 

「インドネシア・ジャワ島 ウナギ保全プロジェクト」

ウナギの蒲焼

ビカーラ種により世界一のウナギ資源量がインドネシアにはあるとはいえ、ルールなく消費してしまえばニホンウナギと同様の未来にあっという間になってしまってもおかしくありません。持続可能なインドネシア産ウナギ養殖のため、「インドネシア・ジャワ島 ウナギ保全プロジェクト」を開始したのがWWFと冒頭のイオン、そして村上さんのインドネシアでのビジネスパートナーである「Iroha Sidat Indonesia」(※Sidat=ウナギ)。

 

2019年に日本国内で流通したウナギの総量は48,549トン。そのうち天然ものの漁獲高は66トン。99%以上を養殖か輸入でまかなっている現状において、間違いなく貴重なものと言えそうです。

 

「インドネシア全体でのウナギ資源の総量を管理するというのは当然できないにしても、非常に貴重なプロジェクトであるのは間違いありません。ジャワ島を拠点に100%トレーサブルなウナギを稚魚から養殖し、加工し輸出するというIroha社を信頼し弊社は直接取引しています。プロジェクトとしてみればまだ発展途上ですが、日本で養殖されたウナギ、あるいは中国から輸入され消費されるウナギより、インドネシア産のビカーラ種の方が、信頼度が高く安全安心であると思います。

日本側も量販店さんほど、監査/検査は当たり前に厳しいです。現地で監査が入り、いろんな項目についてチェックをした上で日本に持ってくるわけですから、それに合格できる設備投資ができて、製造工程がはっきりしてるところも中国には当然ありますよね。また味も非常に美味しい鰻を作るところも実際あり、大量生産でコストを下げているわけですから、全てが良くないというわけではありません」

 

それでも、資源をコントロールしながら育てて消費していくことの重要さを村上さんはおっしゃいます。

 

「大事なのはコントロールしながら獲ることだと思います。そういう意味では、インドネシアの場合には、獲る場所が明瞭で、それを獲る人が誰なのか、それを池に入れて生産する業者が誰なのかもわかっており、それらはすべて陸続きの場所で完結するので、そういう意味では非常にコントロールがしやすい。例えばその工程のどこかに香港を挟む、あるいは海を越える場合を想像すると、コントロールが一気に難しくなると思います。ウナギについて、本当に資源管理をしながらの消費ができるとしたら、おそらくそれはインドネシア資源だと思います

 

どっちがニホンウナギ?どっちがビカーラ種?

うな重

「ビカーラ種は、現地で加工され冷凍の蒲焼の状態で輸入されます。若干皮が厚いのが特徴なので、そこを気にされる方もいます。体型は細長くて肉厚なので食べごたえがあるという感想が多いようですが、蒲焼の状態ですとニホンウナギとの差はほぼないので、どちらが中国産でどちらがインドネシア産なのかはプロでも分からないと思います。普段はウナギを専門であつかっていなくても、土用の丑の日などに向けて、安くて安全安心なものがあれば買いたいお店さんには、インドネシア産は自信をもってオススメできるかと。蒲焼がベースとなるメニューでしたら、何でも大丈夫。卵焼き(うまき)やひつまぶしももちろん良いと思います」

 

冷凍蒲焼の調理方法のコツはあったりするのでしょうか。

 

「蒲焼なのでもちろんタレがついてますが、洗い流して好みのタレをつけて、ちょっと炙るだけでも格段に美味しくなります。実は弊社で扱っているものはタレは日本から輸出しているので、タレの味自体は完全に日本仕様なんです。でも冷凍で真空パックしてもどうしても酸化して味が落ちるので、ひと手間かけてもらえるのが良いかと思います」

 

安全安心で持続可能なウナギ食文化のために

ウナギ

店舗と消費者が価格と安全性でインドネシア産を選ぶことが、ウナギ食を持続可能な取り組みにすることに繋がるかもしれません。

 

「一般消費者の方が、ウナギの資源管理に敏感な方が多い印象があります。ビカーラ種を扱っていただけるお店さんでしたら、インドネシア産はこういう安心安全な理由があって、だから取り扱っているんです、ということを一言でもメニューやポップやSNSで発信していただけるとありがたいですし、消費者の方に響くのではと考えています。ビカーラ種が食べられる量が多くなれば、現地で生産しようっていう会社も出てくるでしょうし、今後さらに設備投資ができるようになれば価格も下がり技術開発も進むでしょう。技術力も上がってより美味しい日本人の好みの製品が作れると思います。持続可能な良い循環が起きると思います」

 

 

【取材協力】

双栄物産株式会社 取締役社長 村上善昭様

複数の企業で東南アジアでの事業に参加する中で、ミャンマーではじめて東南アジアのウナギを体験し興味を持つ。その後インドネシアでのウナギの養殖事業に加わり、2020年に双栄物産株式会社の取締役社長に就任。養殖事業と加工事業を現場レベルで知り尽くした体験に根ざして、大手企業にはない視点を強みにインドネシアのウナギを日本国内で販売中。

 

写真提供:ピクスタ

Source: ぐるなび みんなのごはん
インドネシア産ウナギ「ビカーラ種」は、ウナギ食文化継続の救世主かもしれない

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