豚骨100%のラーメンスープを作ってみよう
ラーメン作りを趣味にしているのだが、なんといっても楽しいのはスープ(ダシ)に入れる材料の組み合わせを試すことだ。
豚骨や鶏ガラといった動物系、鰹節や煮干しといった魚介、昆布や椎茸などの乾物、ネギやニンニクなどの香味野菜、新鮮な魚のアラ(骨)や貝類も魅力的。
その組み合わせはまさに無限大、お店では絶対出てこないオリジナルのラーメンも作り放題である。一生楽しめる趣味がここにあるのだ。
人生で初めて作ったラーメン用スープには、鶏ガラ、豚ガラ、昆布、椎茸、野菜類などたくさん入っていた。足せば足すほど複雑でおいしくなると信じていた頃。
こうして一期一会なスープを多数作って自己満足してきたが、素人が手を出したらダメだと思っていた「豚骨ラーメン」に挑んでみたところ、まったく別の方向性で新たな挑戦が待っていたのだ。
それは引き算の楽しさ。当初は豚骨スープなら必須であろうネギやニンニクをたくさん入れていたのだが、もしかしたら豚骨が臭いと決めつけているだけでは……と気が付いたのだ。
豚骨に香味野菜をたくさん加えた最初の豚骨スープ。これはこれでおいしいのだが、もっとシンプルでいいのかも。
そこでプリミティブな豚骨スープの可能性を確かめたくなり、どれだけ材料の種類を減らせるか、味の引き算を試したところ、最終的には豚骨だけで成り立つことがわかった。これぞまさに本当の豚骨スープである。
ということで、前置きが長くなったが『時間さえあれば家庭で誰でも簡単に作れる超シンプルな「豚骨ラーメン」の作り方を紹介させていただきたい。あくまで素人の考えた作り方として、気軽に読んでいただければ幸いである。
このシンプルな味を知ることで無駄に肥えた舌がリセットされ、真っ白なキャンバス(豚骨スープ)になにを足せば理想のラーメンに近づけるのか、明確にイメージがしやすくなるのである。たぶん。
【目次】
豚骨の種類
豚骨スープの主な材料は、もちろん豚骨である。主なというか、今回はこれしか使わない。豚骨はスーパーだとあまり見かけないが、お肉屋さんに聞いてみると売ってもらえると思う。
私が通っている店だと、「ゲンコツ」と呼ばれる太腿の骨、「背ガラ」という背骨&肋骨、それらがミックスされた「豚ガラ」が売られている。
ゲンコツは煮る時間こそ長くかかるものの深い味がでて、背ガラは早くダシが染み出すけどあっさりしている……ような気がする。他に選択肢として頭骨などもあるが、まだ使ったことはない。
値段は1キロ200円~500円くらい。もちろん店によって値段や品揃えは違うので、近所のお肉屋さんに「ラーメンのスープを作りたいのですが、ゲンコツか背ガラはありますか?」と、勇気を出して聞いてみよう。冷凍ではない生の豚骨が売っている店が近くにあれば万々歳だ。
左が背ガラ、右がゲンコツ。気の利いたスーパーなら冷凍のゲンコツが置かれていることも。
豚骨の下処理
鉄アレイのような形をしたゲンコツは、骨を割って骨髄を出してあげる必要がある。そこで大きめのカナヅチなどを用意して叩き割るのだが、くれぐれも自分のゲンコツを傷つけることがないようにお気を付けください。本当シャレになりません。私は中華包丁の背側を使っているが、なかなか使いやすくて気に入っている。
たまに叩いても割れない骨が混ざっているので(普通のゲンコツとは形が違う)、それは諦めてそのまま使おう。本当に硬いから。
背ガラはそのままで味が出るけれど、鍋に収まりやすいサイズに折っておこう。
文字通り骨が折れる作業だ。
豚骨が冷凍の場合でも、生の場合でも、たっぷりの水に1時間くらい浸けて、血抜きをしておく。
この工程がどこまでスープの味に影響するかわからないが、びっくりするくらい水が赤くなるので、やりがいのある作業だ。
ほら、こんなに赤くなった。
この形の骨は、ものすごく硬いので割るのを諦めることにしている。
スープ作りの下準備はこれで終了。
もっと丁寧に処理をする場合は、豚骨を下茹でをしてそのお湯を捨てて、水を変えて改めて煮るのだが、白濁させる豚骨ラーメンにそこまでクリアなダシは必要ないと思うので、アクをちゃんと取るだけでいいことにしている。
ただ豚骨のアクはものすごく出るので、下茹でをした方がやっぱりベターな気もしている。でもそれって鰹節でいったら一番ダシを捨てているような話だよなと(もちろん鰹節と豚骨じゃ全然違うけど)、どっちがいいか今でも迷っていたりする。
豚骨を煮てアクをすくう
下処理した豚骨を鍋に入れたら、音楽でも聴きながら気長に煮ていこう。迷うのは骨と水の割合だが、その比率は骨1キロに対して、水1.5~3リットルくらいにしている。水が少ないと超特濃スープとなり、多ければあっさり(といってもそれなりに濃厚)気味になる。
一度に仕込める量は鍋の大きさ次第。今回は作りやすい量ということで、ゲンコツ2キロ(5本)に水6リットルとする。直径24センチの寸胴鍋でちょうど良い分量だ。
これでスープが4リットルくらい(どこまで煮詰めるか次第)できるので、一杯300ccなら13杯分くらい。こんなにたくさん要らないとは思うが、冷凍保存が可能だし、記事の後半で触れるが豚骨のダシはラーメン以外にも活用できる。多くても少なくても手間はあまり変わらないので、気持ち的には豚骨5キロ分くらいを一気に仕込みたいところ。
割って血抜きをしたゲンコツ2キロ。
水は骨の3倍の6リットルにした。個人的な好みではこれくらいがちょうどいい感じだが、コッテリ派なら水を減らしてください。
換気扇を回したら鍋を強火で加熱開始。だんだんと水が鮮やかに赤くなり(血抜きしてもなる)、お湯が沸く前からアクがモリモリと出てくるので、様子を見つつメッシュ状のアク取りなどで、がんばってすくい続ける。
アク取りのタイミングは、ある程度まとまってから取る派と、とにかく取り続ける派があるが、そのあたりはお好みで。私はワニワニパニック(昔ゲーセンにあったワニを叩くゲーム)の気分で延々と取っていられるタイプだ。
そしてお湯が沸騰してくると、今度は他の料理ではまず見ない、カサブタみたいなアクがドカドカと浮いてきてアクアクパニック状態となるが、それを乗り越えるとあまり出てこなくなる。
最初に浮くかわいいアク。
だんだんとアクが濃くなってくる。
大丈夫かこのスープっていう強烈なアクが出てくる。
ここから先はアクがあまり出ない。
この時点でスープを味見してみて、かなり臭く感じるのであれば、お湯を捨てて下茹でとし、新しい水で豚骨を煮込みなおそう。いやな匂いでなければ自信を持って先に進もう。
ここまでで煮込みは1時間弱くらい。ここからは豚骨の旨味が出切るまで、ふきこぼれない程度の強火をキープして、たまにアクを取りつつ、鍋底が焦げないようにかき混ぜながら、ボコボコと煮込み続ける。
大事なのが火力の調節で、コトコト沸く程度の弱火で煮こむといつまでたっても白濁しない。それはそれで透明感のある美味しいスープとなるが、今回のテーマは透明度ゼロの豚骨ラーメンなのだ。
鍋のフタについては、フタをすると臭みがスープにこもるという説もあるが、私はガス代がもったいないので、できるだけフタをしている。フタをしておいた方が家の中に豚骨臭が広がらないという理由もある。
この程度の仕込み量であれば、ちゃんと換気さえしていれば家中がすごく臭くなるということはないと思うが、なんとなくラーメン屋っぽい匂いに多少はなる可能性は否定しない。
麺の用意をする
さて豚骨ラーメンの麺といえば、やっぱり極細の低加水ストレート麺。関東のスーパーあたりだと生麺では見かけないので、マルタイあたりの乾麺を使うのがいいと思う。あるいは通販で探してみよう。
乾麺を使う場合はおいしいスープの素も付いてくるので、がんばって豚骨スープを作る意味を見失いそうになるけれど、独特のこってり感までは再現できない。そこでお手製豚骨スープを適当に薄めて麺付属の素で味付けするという方法もオススメ。間違いなくうまいやつになる。
豚骨ラーメン用の生麺は、関東だとなかなか見かけないですね。
マルタイの乾麺なら間違いありません。
もし興味があれば麺も自作しよう
ここは読み飛ばしていただいて大丈夫なのだが、自分で製麺までできれば自作満足度はさらに高くなる。ただ低加水の極細麺を手作りするのはかなり厄介で、私も苦手だったのだが、水回しを通常の2~3倍やること、最初の麺帯を作る段階でなるべく薄くすることで、かなりスムーズにできるようになった。といってもかなり大変なのだが。
加水率の理想は30%以下だが、それだと私の体と大事な製麺機に相当の無理が生じるので、33パーセントくらいが限界。これでもかなりパキっとした麺になってくれる。パスタマシンで打つ場合は、もう少し生地の水分が多くないと壊れるかも。無理はやめよう。
打ちたての麺はやっぱりおいしいよ!と言いたいところだが、2~3日ほど冷蔵庫で寝かして、小麦粉と水分をよく馴染ませた麺の方が正直うまいと思う。打ってすぐに食べると食感がどこかフワンとしているが、熟成によってキリっとするのだ。ある製麺所の方によると、麺から空気が抜けておいしくなるという話だった。
ということで、自作にこだわる人はスープ作りの数日前に麺作りをすませておこう。水回しや麺帯についてはこちらの記事もどうぞ。
フリーザーバッグで作る麺帯を薄くすることで、どうにか踏み固めることができ、この後の工程が楽になる。
低加水の麺を作るなら、パスタマシンではなく鋳物の製麺機が安心。これも無理をさせ過ぎれば壊れるけど。
生地の硬さが伝わるだろうか。ハンドルが重すぎて軽く肘を痛めた。
切り出しだけは細麺が作れるパスタマシンの切り刃を使用。
豚骨スープを仕上げる
スープの話に戻る。3時間くらいで骨の周りについていた肉やゼラチン質が溶けてくるが、もう少し煮込み続けよう。
ラーメンの具となる煮豚を作りたい場合は、タコ糸で縛った豚塊肉をこのあたりで投入する。すると肉はスープからエキスを吸い、スープは肉の旨味を吸収して、お互いがおいしく仕上がる……と信じている。
肉の部位は、あえて硬くて薄い煮豚を乗せたかったので、脂の少ない豚モモ肉をセレクトした。脂と肉のバランスがよいのは豚肩ロース、脂多めで柔らかいのは豚バラ肉。好きな肉を好きなだけどうぞ。
この肉はしっかり煮えたら(1時間半くらいとか)スープから取り出して、味をつけたければビニール袋などに入れてお好みのタレに漬けておく。今回は薄口醤油を少々をまぶしておいた。煮豚ではなく、オーブンでじっくりと焼いた肉にしてもうまい。
だいぶスープができあがってきた。
煮豚用の豚モモ肉を投入。
煮込み開始から5時間くらいすると骨から完全に肉が離れ、スープがかなりドロドロしてくるので、これにて豚骨スープはできあがり。
これ以上煮込むと、骨まで溶けだしてスープにザラっとした感じが加わってしまう気がする。
この状態を完成の目安にしている。
これ以上はダシがでないだろうなという状態の骨。
背脂とか入れなくても、十分に脂が浮いている。
ここまでくると、ものすごくクリーミーで旨味の濃いスープに仕上がっている。よい豚骨を使っていれば、ほとんど臭みは感じられない、上質の甘さを持った脂肪汁になっているはずだ。
参考までに、骨1に対して水1.5の割合で作ったスープが下の写真。生クリームをたっぷり入れたホワイトシチューのように濃厚で、一口飲めば血沸き肉躍る栄養満点の味だ。体によいのかは謎だけど。
この強烈なドロドロ具合が伝わるかな。
左から濃厚スープを煮込んだ1時間ごとの推移。3時間のところが空なのは撮影時にひっくり返したから。泣きたい。
弱火で煮ると、6時間経っても白濁しない。これに鰹節をたっぷり入れて沖縄そばにしたら最高。
味付けも具もシンプルに徹しよう
このスープをザルなどで濾しながら丼に入れて、タレで味を決めていく訳だが、意外と超シンプルに薄口醤油だけでも成り立ってくれる。濃口醤油じゃなくて薄口醤油なのは、せっかくの白いスープに色をなるべくつけたくないから。
豚骨スープと薄口醤油だけでもかなりおいしいけれど、さすがに旨味成分が動物系に偏り過ぎているため、どうしても物足りない部分もある。そこで植物系の旨味の代わりにグルタミン酸ナトリウム中心の化学調味料(味の素など)を少々入れると、スープの甘味がグッと引き立って、一気に店の味っぽくなってくれる。本当に笑えるほど味が変わるのだ。
スープ300ccに対して、薄口醤油大さじ1(食塩2.8g相当)~1.5、そして化学調味料を5~10振りくらいかな。
寸胴のスープ自体には味をつけず、丼内で味を決めていく。
味付けは薄口醤油を大さじ1と化学調味料を少々だけ。
最後に紅ショウガを乗せて完成!
こうして味を決めたスープに、たっぷりのお湯で硬めに茹でた麺を入れるのだが、低加水の細麺はかなり伸びやすいので一玉を100g程度と少なめにしておきたい。足りなければ替え玉を追加するスタイルにすると、ぐっと豚骨ラーメンの気分が出る。
シンプルに徹するなら具は全くなしでもいいが、一つだけ入れるとすれば個人的には圧倒的に紅ショウガだ。牛丼と豚骨ラーメンには紅ショウガ。カレーにとっての福神漬けのように、その存在がしっかりと丼全体を引き締めてくれる。
白い麺とスープに紅ショウガ、見た目も最高じゃないですか。
日の丸弁当みたいになった。
香味野菜としてのショウガの味と香り、そして臭みを消す効果のある酢、この組み合わせである紅ショウガが豚骨スープにベストマッチ。ザックリした歯ごたえが加わってくれるのも嬉しい。
この一杯に使った材料は、豚骨、薄口醤油、化学調味料、麺(小麦粉とかんすい)、紅ショウガだけ。これにてミニマルスタイルのシンプル豚骨ラーメンが完成である。
かけそばみたいな潔さがあるラーメンがうまいんですよ。薄口醤油に昆布や干し椎茸で旨味を加えてタレを作れば、化学調味料がなくても成立する。ちょっとだけ入れたほうがおいしいけどね。
やっぱりトッピングを楽しみたい
このシンプルなラーメンを堪能した上で感じるのが、豚骨ラーメンにおけるトッピングの輝きだ。豚骨スープの旨さがあれば紅ショウガだけでも成立するものの、さらに具を乗せることで、わかりやすくおいしくなっていくのだ。
シンプルな姿を知ったからこそ、スルスルと謎が解ける豚骨ラーメン独特のトッピングの意味。
やっぱり肉を乗せたい(そもそもそのつもりで煮ているし)。
このスープなら青ネギの風味も欲しくなるよね。
ここが九州なら発酵の旨味と唐辛子の辛味を併せ持つ辛子高菜を乗せるべきだ。
更なる歯ごたえを求めてキクラゲに辿り着いてしまった。
これぞ人間の欲望がたどり着いた一杯。シンプルなラーメンだからこそ、これらの具と一緒に食べることで、一口ごとに表情を見せてくれる。さらにお好みでニンニクをクラッシュさせたり、海苔を豪快に飾ったり、たっぷりと炒り胡麻を振りかけてしまおうじゃないか。シンプルの喜びはどこへいった。
やっぱり具と一緒に食べると、すごくおいしくなる。特に自家製の辛子高菜が最高に合うんですよ。
このようにシンプルな豚骨スープを素人なりに学んだ後は、鶏ガラを足してみたり、煮干しを効かせたり、野菜をたっぷり入れてみたり、あるいはタレにこだわってみたり、どんどん食材を足して新しい味を求めたくなり、振り出しに戻っていく訳だ。
あぁ、趣味のラーメン作りはメビウスの輪なのか。
シンプルの反動で色々入れたくなった。
余った豚骨スープの使い方
残ったスープはラーメン好きの友人にあげたり、自宅で冷凍保存したりしつつ、様々な食べ方でも活用した。ピンとこないと思うけど、意外とその使い道は多いのだ。
豚骨スープで牡蠣を煮た牡蠣豚骨ラーメン。これがうまいんですよ。
たっぷりの野菜を胡麻油で炒め、豚骨スープを加えて一煮立ちさせて作る豚骨タンメン。まったく違う味わいになってくれる。
豚骨スープを使ってカレーを作ると、ものすごくコクが出る。トッピングはラーメンに寄せてみた。
鍋のスープにしてもうまい。ポン酢でさっぱりと食べよう。
鍋の締めはもちろんラーメンだ。
お読みいただいておわかりのように、豚骨スープを煮るのはとても楽しい。かなりの達成感がある料理だ。ただ気を付けないと台所がそれなりに汚れる。そして食べ過ぎると健康を脅かす。これはラーメンに限らずなんでもそうか。
万人向けの家庭料理ではないことは重々承知しているが、もし気になる人は一度作ってみるといいと思う。その結果として、数百円払えばおいしく食べさせてくれるラーメン屋さんのありがたみが、とてもよくわかるはずだ。
著者プロフィール
Source: ぐるなび みんなのごはん
スープは豚骨をひたすら煮るだけ!家庭で簡単にできる「超シンプル豚骨ラーメン」の作り方