ライターの小野です。
外出を控えるようになり、自炊が増えた。料理のレパートリーが増え、腕も上がってきたように思う。一方で、一向に上達しないメニューもある。
チャーハンだ。
なんとなくの具材で、なんとなくのレシピで調理しているのだが、どうやっても美味しくない。食感はべちゃべちゃで、ただ味の濃いお米炒めという感じだ。
しかし、これからも筆者はチャーハンを作り続けることだろう。ならば、ここらでしっかりとマスターしておきたい。自宅で本格的なチャーハンをつくるために、2人のスペシャリストを訪ねてみた。
道具のプロが推薦! 一生モノの「中華鍋」
まずは「調理道具」を疑ってみた。いま愛用しているのは一般的なフライパンである。しかし、チャーハンといえば中華鍋。中華鍋といえばチャーハン。というわけで、まずは中華鍋を探してみることにした。
頼ったのは、東京浅草のかっぱ橋道具街にある料理道具専門店「飯田屋」。大正元年創業の同店で6代目を数える店主の飯田結太さんは、あらゆる料理道具に精通しており、様々なメディアで活躍している。
初めて中華鍋を購入するのですが、どういう基準で選べばいいですか?
中華鍋には様々な種類があります。サイズ、形、深さ、そして素材にも鉄、ステンレス、アルミニウムなどが存在します。それぞれに良さはありますが、まずは持ち手の太さが重要だと思います。なので、ネットで購入するのもいいですが、可能であればお店に足を運び、実物を持って確かめるべきだと思いますよ。
自分の持ちやすい太さを選ぶべきなんですね。素材にはどういった違いがありますか?
プロが好んで使うのは鉄製です。というのも、鉄は蓄熱の力が強いんです。例えば、ご家庭でチャーハンを作る場合、多くは冷めたご飯を入れますよね? でも、鉄製ならば鍋自体が熱を蓄えているので、そこまで鍋の温度が下がりません。また、アルミニウム製は軽さ、ステンレス製には丈夫というメリットがありますね。
鉄製のなかでも、飯田さんオススメの中華鍋はズバリどれでしょうか?
私は山田工業所の「打ち出し中華鍋」をオススメします。これ、中国人がわざわざ日本に購入しに来るほど、世界的に人気の商品なんです(笑)。聞いた話によると、横浜の中華街の8割以上が山田工業所の中華鍋を使っているんだとか。
本場も認めた中華鍋……。ちなみに「打ち出し」ってなんですか?
中華鍋には2つの製法があります。1つは、機械に鉄板を置き、上から鍋の形に成形するプレス製法。もう1つが、打ち出し製法。これは名前の通り、何千回も機械で叩き出し、鍋の形に成形する製法です。鉄という素材は叩けば叩くほど強くなり、どんどん硬くなっていきます。そのため、この打ち出し製法は、鉄との相性が抜群なんです。
鉄製は蓄熱だけでなく、頑丈さも持ち合わせていると?
はい。くわえて、打ち出し製法は板厚に強弱がつけられます。中心の鉄板はいっぱい叩いて薄く仕上げることで熱伝導を良くし、逆に端っこや持ち手はあまり叩かず、熱くなりづらい構造に仕上げています。
時間と手間の分だけ、道具としてのクオリティが高いわけですね。
さらに言えば、山田工業所さんの中華鍋は丸い「お皿」部分と、持ち手の「柄」部分を別々に溶接するのではなく、一枚の板から一体成型しています。つまり、どれだけ使っても柄が取れたり、接合部分がぐらつく心配がないんです。こういった細かい設計が本当に素晴らしいですよね。
それはすごい! ちなみに、山田工業所さんのサイトを見てみると、板厚が1mm、1.2mm、1.6mmとあるのですが?
家庭用であれば、主流なのは1.2mmです。1.6mmよりも軽いため、初心者でも扱いやすいと思います。
0.4mmの差でそんなにも変わるんですか?
ぜんぜん違います。板厚が薄いほうが鍋の熱伝導が高まるため、より短時間で炒められます。ただ、プロに重宝されているのは1.6mmですね。
なぜでしょう?
中華料理屋の火力って強いですよね? しかも、毎日使うものなので、3~4ヶ月で穴が開いちゃうらしいんです。そのため、耐久性がグンと上がる1.6mmが好まれているようです。
1.6mmは振る力と技術が必要そうですね。どっちもない僕は、やっぱり1.2mmのほうがいいですかね?
チャーハンのように中華鍋を振りながら炒める料理なら1.2mmがオススメですね。お肉を焼いたり、煮込む料理には、ゆっくりと熱が入っていく1.6mmがオススメです。
中華鍋って煮込み料理もできるんですか?
はい。中華鍋は別名「万能鍋」とも言われています。炒め料理はもちろん、煮物や揚げ物にも使えます。なかには、鍋の上に中華せいろを乗せて、蒸し料理をする方もいますよ。
めちゃくちゃ万能ですね。
そうなんですよ。フライパンに比べて丈夫なので、ガシガシ使ってみてください。ただ、注意点として使う前に「空焚き」はしてくださいね。
空焚きってなんですか??
錆止め用のニスを落とす作業です。使用する前に一度火にかけ、ニスを焼き切りましょう。また、空焚きをすることで、酸化被膜という膜が作れます。この膜ができると、鉄に直で空気が当たらなくなり、内部の酸化を防ぐことができます。くわえて、油も馴染みやすくなります。
わかりました。絶対に空焚きします。
あと、一番大事なのは使用後。テフロン加工のフライパンならば、使用後、水につけておけばOKです。しかし、鉄製の中華鍋の場合は錆びてしまいます。そのため、使用後はタワシとお湯だけで洗い、火にかけて水を飛ばしてください。そして、キッチンペーパーで薄く全体に油を伸ばしてください。そうすれば錆びませんし、どんどんと油が馴染んでいきます。
洗剤はNGですか?
中華鍋は使うほどに油が馴染んでいくのが良さです。洗剤を使ってしまうと、馴染む油も落としてしまうので使わないください。
たしかに中華料理屋の鍋ってギトギトしていますもんね。
そうそう。中華鍋は、使えば使うほどに手に馴染み、かっこいい見た目に進化していきます。だから、私は「育てられる調理道具」だと思っています。ご家庭ならば一生モノですね。
使うのが楽しみになりました! ちなみに、炒める時は中華オタマを使ったほうがいいですか?
やはり中華オタマは丈夫ですし、盛り付けの際もサマになると思います。なお、シリコン製やナイロン製は、中華鍋の熱で溶けてしまう恐れがあるので使うときは注意してください。
わかりました。これで道具はバッチリです!!
【取材協力】
飯田屋
作るプロ直伝! 超人気街中華に教わる激ウマチャーハン
道具のプロに続いては、「作るプロ」に教えを請う。
やってきたのは、谷中銀座商店街の路地裏で、40年以上の歴史を誇る中華料理店「一寸亭(ちょっとてい)」。チャーハンは看板料理の一つで、テレビや雑誌で何度も取り上げられている。
今回はそんなすごいチャーハンの作り方を、なんと店主直々に教えてくれるというのだ。
具材はシンプルですよ。卵(1個)、焼豚(みじん切り) 、かまぼこ(みじん切り)、温かいご飯、油(ラード)です。
まずは鍋を温めます。熱い状態の方がパラパラするので、強火で煙が出るほどに温めてください。鍋が温まったら油(ラード)を鍋に馴染ませていきます。この時、油は多めに入れておいてください。
油が馴染んだら、かき混ぜた卵を投入します。大事なことは、慌てずにかき混ぜ、卵に油を吸わせること。この時、なるべく卵を焦がさないように注意してください。不安な方は一度、火を止めてかき混ぜてもOKです。
卵が硬いと、口の中でぼそぼそしちゃいますから、ふんわりと仕上げることが重要です。炒まったら、余分な油を切ってください。
次に他の具材と調味料を加えていきます。この時も火は消したままでいいので焦らないでくださいね。ナルト、チャーシュー、ごはん、塩胡椒、味の素、醤油。なお、醤油はご飯にかけると、ほぐれやすくなります。また、味付けは薄めにして、少しずつ調整していきましょう。
中華オタマのお尻の部分で、ご飯を叩いていきます。ゆっくりでいいので確実にダマを潰してください。チャーハンは、ご飯のダマがあると美味しくないんです。この時も不安な方は、火を止めて潰して大丈夫ですよ。
ダマがなくなったら、強火にして一気に炒めていきます。炒める際のコツとしては、鍋は前後させ、オタマは回すイメージです。
最後に炒めたチャーハンをオタマですくい、皿に盛りつければ完成です。
美味しい! こんなにシンプルなのに奥深い味というか。特にナルトがいい味を出していますね。
ナルトの出汁は甘みをアップさせますし、食感に変化を与えるアクセントとしてもポイントなんです。また、ラードを使うことで香ばしさも増しています。
なるほど。このあと我が家の中華鍋でもこのチャーハンを作りたいんですけど、コツはありますか?
チャーハンって中華鍋を持ち上げて煽るイメージだと思うんですけど、そこまでしなくていいです。重いので(笑)。中華鍋は前後に振り、オタマで回すイメージで十分ですよ。一番のポイントは、ご飯のダマを無くすことです。
そうなんですね。あと、中華って強火で一気に炒めるイメージだったんですけど、途中で火を止めてしまってもいいんですね……?
はい。どうしても中華ってスピード勝負のイメージですよね。でも、逆につけっぱなしだと、ご飯の水分が飛び、ボソボソ食感になってしまうこともあるんです。だから、自宅で調理する際はこまめに火を止めた方が美味しいと思いますよ。
他にアドバイスはありますか?
お米を少なめにすることですね。多いと時間もかかりますし、ご飯が埋もれて、べちゃべちゃになってしまいます。また、ダマを潰す際にほぐれているお米も叩いてしまい、団子になってしまう恐れがあります。うちでも一度に作るとしたら3人前が限界です。
なるほど。では、腕がない僕は1人前ずつ作ったほうがいいですね。
あとは、ご飯自体を硬めに炊いておくのも良いですね。若干硬めの方がパラパラになりやすく、美味しくできると思います。ちなみに自宅だと、冷ご飯で作る方が多いと思いますが、温かいご飯のほうが混ぜやすく、ダマにもならないのでオススメです。
わかりました。これでレシピはバッチリです!!
【取材協力】
一寸亭
果たして、家で本格チャーハンは作れたのか?
教えてもらった一流の技と道具を駆使し、さっそくチャーハンを作りたい。
だが、その前にまずは「空焚き」を行う。なお、最初から強火で空焼きすると、鍋が変形してしまう可能性があるため、中火~強火の順で火にかけると良いそう。
空焼きを続けると、青白く表面の色が変わってきた。これが錆止めを焼き切ったサインとのこと。同様に端部分も焼き切っていく。
その後、中華鍋の温度が下がったら、タワシやスポンジで洗い流していく。この時は中性洗剤を使ってもOK。
続いて、油ならしを行う。お玉一杯分のサラダ油を全体的に馴染ませ、中火で温める。
しっかりと馴染んだら、余分な油は戻し、くず野菜を投入していく(くず野菜がなかったので普通に野菜を炒めました)。
その後、鍋をお湯で洗い、キッチンペーパーなどで水気を取る。
これで中華鍋の準備は整った。いよいよチャーハンを炒めよう!
具材は一寸亭さんと同じ。調理工程もさっき教わったまんまなので省略する。
大事なのは焦らないこと。それだけを頭に入れ、ひたすらダマを潰しまくる。
中華鍋を前後に振り、オタマを回していく。頭でわかっていても実際にやるのは難しい。
そして、盛り付けもまた難しかった。綺麗なドーム型に盛り付けたかったが、見ての通り、失敗した。
でも、見た目は悪くない。
これが、プロ直伝のレシピ+プロ推薦の中華鍋で作ったチャーハンだ。
無事、卵は焦げ付くことなく、ふんわり食感に仕上がった。パラパラしているが、ラードに包まれたお米一粒一粒はしっとりとしている。
これは本当に、文句なく美味しい。紛うことなき、お店の味である。
こんなにハイレベルなチャーハンが、いつでも家で食べられるなんて最高すぎる。中華鍋を買って本当によかったし、一寸亭さんに教えていただいて大正解だった。飯田さん、大塚さん、本当にありがとうございました!
これからも中華鍋を育て上げ、鍋振りの技術を高め、さらにすごいチャーハンが作れるようになりたいと思う。
著者プロフィール
小野洋平(やじろべえ)
1991年生まれ。編集プロダクション「やじろべえ」所属。服飾大学を出るも服が作れず、ライター・編集者を志す。自身のサイト、小野便利屋も運営。
http://yajirobe.me/
Twitter:@onoberkon
Source: ぐるなび みんなのごはん
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