さけるチーズというものがある。その名の通り、さくことのできるチーズで、食べる以外にもさくという説明できない楽しみを持ち合わせている。細かくさいては、よくわからない達成感を得てから食べるわけだ。食べるともちろん美味しい。
さけるチーズはもちろんスーパーに売っているけれど、自宅で作ることもできる。しかも、使うのは大まかには牛乳と酢だけ。簡単である。ぜひ作りたい。そしてさきたい。達成感がより得られるのではないだろうか。
さけるチーズはさける
スーパーに行くと多くのチーズが並んでいる。世界にはいろいろなチーズがあり、値段もさまざま。なんとなくチーズは海外で生まれたものという気がするけれど、日本で生まれたチーズもある。
さけるチーズは日本で生まれたチーズだ。美味しいだけではなく、さけるという新規軸の楽しみをもたらしてくれたチーズなのではないだろうか。
チーズでなくても、ここまで気持ちよくさけるものを探すとなると難しい。私としては世界一気持ちよくさけるのはチーズなのではないかと思っている。食べる前に楽しみがあり、その楽しみがチーズをより美味しくしているのだ、きっと。
ここまで気持ちよくさけるチーズを作るのは、難しいかもしれない。しかし、作りたい。さくことでチーズの美味しさが増している気がするので、自分でチーズを作り、さいて食べればより美味しいと思うのだ。
ノンホモ牛乳とホモ牛乳
手作りさけるチーズでは、モッツァレラチーズを作ることから始まる。モッツァレラは「さける」という意味ではなく、「ちぎる」という意味なのだけれど、上手く作ればさけるチーズのようにすることができる。
牛乳をざっくり分けると「ホモ牛乳」と「ノンホモ牛乳」になる。我々が日常的によく飲む牛乳が「ホモ牛乳」。一般社団法人日本乳業協会によると、
「低温殺菌牛乳の約1/3くらいがノンホモ牛乳で、平成25年度の殺菌温度別による数量から概算すると、ノンホモ牛乳は牛乳全体の約1%になります」
とのこと。ほぼホモ牛乳ということだ。
ホモ牛乳は、1952年に森永乳業が販売を始めた。乳脂肪やたんぱく質が均質化されているため消化吸収がよいとされている。均一化されていないと脂肪が浮いて、たとえば1リットルパックだとすると、上部の500ミリリットルと下部の500ミリリットルで味が異なる可能性がある。
ノンホモ牛乳は脂肪球を細かく砕いていないのでクリーム的なものが浮く。よく見ると確かに浮いている気がする。またよく見るとホモ牛乳と比べると、気持ち、本当に気持ち黄色い気もする。
乳脂肪分などが同じ、ホモ牛乳とノンホモ牛乳を飲み比べたけれど、後味はノンホモ牛乳の方がすっきりしている感じがした。ただ共に美味しいという感想だ。そして、私が牛乳の説明をしているのは、モッツァレラチーズはノンホモ牛乳で作るからだ。
ノンホモ牛乳は私の家の近所のスーパーでは売っていなかったけれど、私の家の近所のオーガニック・自然食品を売るお店では普通に売っていた。といっても、週に2回、しかも2本ずつしか入荷しないそうだ。あまり需要がないのかもしれない。
さけるチーズを作る
モッツァレラチーズを作るのに必要なのは、ノンホモ牛乳と酢と塩。塩は最後の最後に使うので、私の認識としては、ノンホモ牛乳と酢である。それに酢も塩も家にだいたいあるしね。ノンホモ牛乳さえ手に入ればすぐにできるわけだ。
チーズ作りでは温度が大切になる。63度までノンホモ牛乳の温度を上げる必要があるのだ。多少の誤差はいいけれど、沸騰したらダメだし、低くてもダメ。目安として63度前後まで上げる。それまでじっくりと待つ。
63度になったら火を止めて酢を入れる。酢の量は「1リットルで50ミリリットル」。多すぎてもダメだし、少なすぎてもダメ。ガラスの靴を扱うように、若干慎重に作る必要がある。若干ね。でも、なんとなくスイーツ作りまでの厳密さはない気がする。
白い液体だったのに、酢を入れてかき混ぜると固体が現れる。ちなみに残る液体がホエー。そして、固体がモッツァレラチーズとなる。初めて作った時は液体から固体が現れることに驚いた。
ゴム手袋をするのは、熱湯だから。熱湯に入れて伸ばしては畳み、伸ばしては畳み、少し硬くなればまた熱湯に入れて、伸ばしては畳みを繰り返す。ここで丸めると「モッツァレラチーズ」となり、長く引き伸ばすと「さけるチーズ」となる。
これがかなり楽しい。伸びるぞ、こいつ伸びるぞ、という挑戦。どこまで伸びるんだろと思うのだ。しかも、全体を通しても実は30分もかからずにできちゃう。キテレツ大百科を見ている間に、キテレツは発明をし、私はさけるチーズを完成させるわけだ。
ここで塩が登場する。お好みの塩辛さの塩水を作り、そこに作ったモッツァレラチーズやさけるチーズを入れてしばらく放置。そして、塩水から取り出し、ちょっと放置して水を切れば完成となる。本当に簡単なのだ。
ホモ牛乳でも作ろう
せっかくなので普通の牛乳(ホモ牛乳)からも、同じ方法でチーズを作ってみようと思う。使うものは同じ。牛乳と酢だけ。ちなみにできるチーズは「カッテージチーズ」となる。
カッテージチーズは酢の量がちょっと増える。「1リットルで60ミリリットル」ということになる。温度も63度ではなく、60度だけど、割と幅があって、もう少し上でも大丈夫という感じ。60度から65度くらいの間、という感じだ。
モッツァレラチーズとは違い、カッテージチーズは一塊になることはない。カッテージチーズはそれぞれが自由なのだ。ノンホモ牛乳とホモ牛乳の違いだ。
モッツァレラチーズでは、熱湯に入れていたけれど、カッテージチーズは一塊になっていないので、それはできない。サラシやガーゼなどに入れて絞ることになる。ちなみに同じように残った液体がホエーとなる。
手作りチーズを食べる
これで手作りさけるチーズ(モッツァレラチーズ)と、カッテージチーズが完成した。ともに、ほぼ30分で作ることができる。さけるチーズの形は、売っているさけるチーズとは大きく異なるけれど、手作りの部分が楽しかったので、よしとしよう。
売っているさけるチーズほど、気持ちよく、細かくさけるということはないのだけれど、さくことができる。発酵したパン生地のような雰囲気だ。味も申し分ない。オリーブオイルをかけるととても美味しい。
正直、とても正直に言えば、売っているモッツァレラチーズの方が美味しい。素人が作っているチーズだからね。しかし、作る楽しみがそこにはプラスされているので、結局売っているものと同じくらい美味しく感じる。
同じように作ったけれど、形が異なるカッテージチーズは、クラッカーに乗せて、蜂蜜をかけると美味。風味に嫌味がなくて美味しいのだ。自分で作れたという達成感もクラッカーに乗っている。
ホエーは飲んでみると遠くに、とても遠くに、九州から上京して九州は遠いな、と東京から思うくらいの感じで、飲むヨーグルトのような味がする。少量を飲むにはとても美味しく感じる。捨てるところがないのが、手作りチーズの良いところだ。
家がチーズ工場
ステイホームの時期にチーズ作りを始めた。そしたら、意外に簡単に作れるし、楽しいし、美味しいので、たまにやるようになった。楽に作れて達成感があるのがいいのだ。ホエーと甘酒を混ぜたりしても美味しいそうだ。それはやったことがないので、今後やってみようと思う。
著者プロフィール
地主恵亮
1985年福岡生まれ。基本的には運だけで生きているが取材日はだいたい雨になる。2014年より東京農業大学非常勤講師。著書に「妄想彼女」(鉄人社)、「インスタントリア充」(扶桑社)がある。
Twitter:@hitorimono
Source: ぐるなび みんなのごはん
材料は牛乳と酢(と塩)だけ! 手作り「さけるチーズ」が簡単で楽しくて美味しい