みなさん、「イトメンのチャンポンめん」をご存知でしょうか?
少し前に「世界で2番目に即席麺を発売したにもかかわらず、チキンラーメンに知名度を全部持っていかれた残念な会社」として話題になった、あの麺です。
公式HPでも「残念なイトメン応援キャンペーン」「社長はストレスもないのにハゲている」など自虐ネタ満載。そこはかとないギャグセンスを感じるこの会社…ぜひお近づきになりたいと思い、「御社が残念な会社だということでお話を伺いたく」と至極失礼な取材依頼をしたところ、「残念ながらうち、もう残念な会社やないんです…」と逆説の返事が。これを挑戦状と受け取った猫田、さっそく本社を訪れました。
本社は、素麺と醤油の一大産地「兵庫県たつの市」にある
揖保川の水運に恵まれたたつの市は『揖保乃糸』の本拠地であり、ヒガシマル醤油など醤油の生産でも有名です。イトメンがあるのは、JR本竜野駅から歩いて30分ほどのところ(普通歩かない)。雨の中ようやく辿り着くと、思った以上にデカい本社!
そもそも「イトメンのチャンポンめん」とは?
そうそう、まずはイトメンのチャンポンめんについて説明しなきゃ。昭和33年に登場、兵庫県を中心に北陸地方のスーパーなどで販売されている、いわゆるご当地インスタントラーメンです。鍋で麺を茹でて、付属のかやくを入れ、粉末スープを溶かすだけ。エビと椎茸の出汁が効いて、塩味のあっさりしたスープの味わいも絶妙です。
昭和30年代にインスタント麺の原型をすでに開発していた
応対してくださったのは五代目社長の伊藤充弘さん。会社設立は昭和25年ですが、終戦後アメリカから配給された小麦粉を原料に、水車小屋で製粉を始めたところからスタートしたそうです。昭和33年から麺づくりのノウハウを生かして中華麺の製造を始めました。
当時は冷蔵流通ではないので一旦蒸しあげた麺を熱風乾燥させ、常温でも搬送できるよう工夫。いわゆる現在のインスタント麺の原型です。これを昭和30年代にすでに開発していたというからまさに麺業界のパイオニアではありませんか。なぜ日本で2番目になってしまったのか…。
ファンが自発的にイトメンの宣伝活動をしてくれる
早速チャンポンめんの誕生秘話など、いろいろお話を伺いしてみました。
社長 猫田さん、どちらの出身なん?
猫田 北海道です。
社長 ほーっかーいどぉ〜! ほなウチの麺食べたことないでしょ!
猫田 いや、あるんです。兵庫出身の人が「これ食べ!」ってくれたんです。
社長 そうなんですよ、なぜかウチの商品、ファンの人が他県の人にあげたがるんです。
猫田 ファンが営業活動してくれるんですねー。ところでチャンポンめんの歴史についてですが、チキンラーメンの発売は昭和33年8月25日。イトメンの即席麺はその約2ヶ月後なんですね。
社長 いや、ウチが開発からモドモドやってたから発表が遅れただけで、もしかしたら発明自体はウチが先かも…
猫田 それはもったいない。あれ? でも、チキンラーメンってお湯かけるだけで食べられるけれど、イトメンの即席麺はお湯で茹でるんですよね。
社長 そうです。麺自体にスープを浸透させた〈調理・味付不要〉の麺を即席麺と呼びますが、チキンラーメンはお湯をかけるだけ、ウチのは茹でる必要があります。チャンポンめんの前身となるスープ付き即席麺「トンボラーメン」は昭和33年、それにかやくが付いた「ヤンマーラーメン」を翌年発売。しかもこれらはノンフライ麺でした。
猫田 今でこそノンフライが脚光浴びていますが、つまりイトメンはノンフライの即席麺としては世界初だったんじゃないですか。
社長 しかし当時は、油で揚げた麺の方が美味しいと言われて。そうしてフライ麺のチャンポンめんが昭和38年に誕生したんです。
猫田 通常はフライ麺→ノンフライ麺、なのに最初からノンフライ麺だったんですね。時代先取ってますね!
先見の明がありすぎて失敗したことも
社長 時代先取りしすぎてアカンかったこともあります。20年ほど前に「スナックめん 油そば」いうのを発売したんですよ。当時、名古屋の油そばがブームになり始めていた頃。発売当初はバカ売れしたけど、定着せずにすぐ売れんようなって…
猫田 早すぎたんですね! 今もう一回出したら売れそう。他に、何か尖った商品は会ったんですか?
社長 1994年には関西肉うどん、98年にはスナックめんのぶっかけおろしうどんとそばなんかも出しました。
猫田 当時それを開発するとは、相当時代読んでますねえ。
実はそばつゆ付きの二八そばが旨かったりする
猫田 チャンポンめんに次ぐロングセラーは?
社長 二八そばってのが人気です。この二八って、そば粉と小麦粉の割合やないんです。「時そば」という落語の、蕎麦の値段が16文(2×8)にちなんでいるんですが、これを知らない人が多くて、「なんで蕎麦粉8割やないねん」って言われるんです…
猫田 つゆ付きなんですね!珍しい。
社長 このつゆが旨いんですよ。昭和51年の発売当初、関西人はまだうどん文化で蕎麦を食べ慣れていなかった。東京で蕎麦屋に行くと、あの辛いつゆにじゃばじゃばつけて「それ違う!」て言われましたもん。
猫田 私も東京の蕎麦屋でいつもしょっぺえ!ってなります。
社長 それじゃばじゃばしすぎ! そう、地元でも素麺のつゆはあったけど蕎麦つゆがなかったんで、じゃばじゃばしても辛くならない、ちょっと甘めに仕上げたんです。
猫田 醤油の町だからつゆ作りにも好環境ってわけですね。
社長 自慢やないけど、このつゆが美味しすぎて、めんつゆ屋さんから「このつゆだけスーパーで売られたらかなわんわ」って言われました。
日本一高い!? 超ハイスペックな素麺も
ちなみにイトメン、素麺の産地にあるということを忘れてはいけません。チャンポン屋ではないんです。1978年から手延そうめんも製造しており、専用粉で作る「月の輪」や、紫黒米を練りこんだ「むらさきの舞」などこだわりの製品も販売しています。
中でも、手延べ和麺「小神」は会社の全精力を注いで作ったと言えるぐらいのプレミアムな素麺。社長によると「素麺作りにとって良いことは全部やりました」というぐらい、職人魂と技術とノウハウを集大成させた商品だそうです。
最新の製粉技術を駆使して小麦粉を限界まで細かく粉砕し、歯応えを最高レベルに。さらに 多加水麺製法で麺を伸びにくくし、塩は天然にがりを含むミネラルたっぷりの高級塩を使用。4時間寝かせてグルテンを熟成させ、オリーブオイルで油返しした挙句、1年間熟成…。素麺作りが分からなくても、旨いことは伝わってきますね。
しかも素麺は茹で方の決まりをきっちり守るのがミソ。ということでイトメンでは、「小神」購入者のために「茹で方講習会」を無料で実施しています。すごい気合の入れようです!
猫田も実際に食べてみたところ、確かに、香り・喉越し・旨みが格段に違います。普段スーパーで買っている10束200円ぐらいの素麺は何だったんだ…。しかし日本一高いというから何万円するんだと思ったら、10束入りつゆ付きで2,063円。もっと高くても良いのに、強気になれないイトメン…。
尖りまくり、やりたい放題のキャンペーンを次から次へと
ここまで読んでいると「イトメンって真面目に製品作りしている、控え目な会社なんだなー」と思われてしまいそうですね! 危ない危ない。
そのやんちゃぶりを分かってもらうべく、広報担当の伊藤しげりさんにご登場いただき、数々のぶっ飛んだキャペーンを暴露してもらいましたよ!
まず2016年のハゲキャンペーン。FBに「ハゲは黙ってイトメンチャンポンめん!」と書いて自身か家族のハゲ写真を投稿し、社長が「おお、同志や」と認めた3名に5,000円相当の商品をプレゼント。これで知名度が一気に上がりました。
また翌年には、チャンポンめん5食パック×10個分の応募シールで、なんと全員に「特製調味料セット」をプレゼントしました。
中身は、「スープの素」「かやく」「山下調味料」のセット。えっ、山下調味料って何?と思いますよね。それはコチラ…
品質管理室の室長であり、イトメンの味を支えている「山下さん」が独自に調合した謎の調味料なのです。味は非公開とされ、「社長困惑。語らぬ山下」とHPに書かれていました。
その後も、チャンポンめん発売55周年記念として「チャンポンめんブラック」を発売した時のふざけたPR動画といい、おかんのメッセージ付き「仕送りセット」プレゼントといい、やりたい放題のイトメン(笑)!
ちなみに現在は、2023年に迎える発売60周年を記念し「もう残念はイヤだ…。オレは頑張るキャンペーン」として専務の伊藤さんが背負子にめんを入れてサンプリングしながら北陸まで歩くというテイでシリーズ連載をしています。
好きすぎるファンからお叱りの電話がかかってくる
チャンポンめんの話に戻りますが、どう考えてももう「知名度がない」とか言ってられない強烈な存在感。しかもイトメンファン、チャンポンめんへの愛が深すぎて、たまにこんな電話をかけてくるとか…。
社長 チャンポンめんはカップもあるんですが、「袋麺と味が違う」とたまにご意見のお電話があります。中には結構な剣幕の方も。そんなに力入れて怒らんでも…と思いますが有難いことです。
猫田 愛するがゆえのエールですね!
社長 ある時なんか、「ワシは1週間に5食入りのチャンポンめんを1パック必ず食べとんじゃ! ほんでカップ麺食べてみたら味ちゃうやんけ」というお電話が。毎日食べていただいているのは大変有難いんですが、「ご健康も心配ですので、野菜などトッピングされてますか」とつい申し上げてしまいました。
確かに毎日チャポンめんを必ず食べる食習慣、なかなか個性的ですよね。でもそれだけ食べ続けても飽きない味ってことなんです。
食堂には無料の食べ放題ラーメンがストックされている
ところでこれだけ毎日ラーメンを作っていたら、もう見るのも嫌になるんじゃないでしょうか。と思って聞いてみましたら、意外な事実をスクープしましたよ!
猫田 商品もいろいろ開発されていますが、試食も大変そうですね。ひょっとして昼もラーメンですか。
社長 食堂に無料の食べ放題麺があるからね。
む、無料で食べ放題…!? それは聞き捨てならない!
というわけで見せてもらったのが食堂に置かれた箱。ここには、規格外や重量不足など商品にはならないラーメンがストックされており、社員は無料で食べられるんですって!すごい幸せ!
社長 ただね、重量不足ってことはスープが入ってないってこと。その場合スープ置き場から適当に持ってきて入れるんやけど、本来の麺に合わせたスープじゃないんで、組み合わせビミョ~ってこともあります。
猫田 あさりだしラーメンに山菜そばのスープとかになっちゃうと、ちょっと悲しいですね。この中でも社員に人気の商品ってあるんですか。
社長 う~ん、売れた商品はすぐなくなる。最後まで残るのは売り出しても不人気だった商品。やっぱりこれは売れへんわな、社員が手えつけへんもんな。って勉強になります。
ほほー、これも商品づくりのマーケティングの一環になるんですね!ちなみに「売れなかった商品は何ですか」と聞きましたが「言えません」とのお答えでした!
「麺が好きで良かった」
ここまでお話いただき、最後にこんな社長の一言。「やはり思うのは、麺が好きで良かった~ってことですね。好きやなかったらしんどい」。そうですよね!社員の皆様も麺好きなんですね!と聞きましたら「まあそうやろな。中には仮面麺好きもおるかもしれんけど(笑)。かなり前に、インスタント麺食べたことない若い子入ってきたけどな。なんでウチの会社受けたんやろ…って謎やったわ」とのこと。
そんな子も採用しちゃうイトメン、懐が深いですね!
直売所は「近くにあったら良いのに…」と思わずにいられない
最後に、本社隣の直売所についてどうしても触れておきたいと思います。ここではさまざまな麺が業務用価格で買えます!プロの飲食店用としか思えない3kgとか、規格外の商品とか…。撮影はNGでしたがさらに値下げされた賞味期限間近の激安商品も。
「かなりお客様が来られるんでしょうね!」としげりさんに言いましたら「いや、それほどでも…」とまたもや控え目な返事。皆さんこの存在を知らないんでしょうかねえ。家が近かったら絶対通うのに。
とりとめもなくイトメンの話をしましたが、結果、やっぱり全然残念じゃありませんでした。ファンに支えられているし、着々と全国制覇目指してるし、伊藤さん同士で仲良さそうだし。
現在は兵庫県周辺以外でも関東の一部などでチャンポンめんは販売され、ネットでも買えます。まずは一度、公式HPを覗いてみてください(就業時間を避けて)。
紹介したイトメン
著者プロフィール
Source: ぐるなび みんなのごはん
決して残念ではない兵庫のご当地即席麺「イトメンのチャンポンめん」を君は知っているか