イチゴというものがある。赤く甘い野菜で、ショートケーキの上に乗っていたり、アイスにイチゴ味があったりなど、1年を通してよく見かける。ただし東京市場におけるイチゴの取扱数を見れば、3月がピークということになる。
イチゴは美味しい。イチゴ狩りなんて美味しくて、楽しくて最高のレジャーだ。ということで、イチゴについて学ぼうと思う。いつから育てられているのか、どこが原産国なのかなど、イチゴについて知らないことはたくさんあるのだ。
イチゴとはなんなのか?
毎年12月頃からイチゴがスーパーなどに並び始める。12月のイチゴは価格が高く、やがて値段は落ち始め、5月頃まで並んでいることが多い。先にも書いたように東京市場におけるイチゴの取扱数は3月がピークだ。
そもそもイチゴは野菜なのか、果物なのか、という問題がある。園芸学では、木本性(もくほんせい)を果物と言い、草本性(そうほんせい)を野菜と分類する。リンゴやブドウは果物で、イチゴやスイカは野菜ということになるわけだ。
見慣れたイチゴではあるけれど、現在栽培されているイチゴはその誕生から300年も経っていない。他の重要経済作物と比べれば歴史は浅く、日本には江戸時代末期にオランダ人によって導入された。
イチゴ属の栽培は紀元前のローマでも行われていたけれど、野生種を栽培したもので、現在我々が食べているイチゴとは異なるものだった。
我々の知るイチゴはアメリカ東部原産の果実は小さいけれど香りが強いバージニアイチゴと、アメリカやカナダの西海岸からチリが原産の大きな果実をつけるチリイチゴをヨーロッパで交配し、選抜したものだ。18世紀のお話だ。
日本書紀や和名類聚抄にも「伊知古」などの記述でイチゴは登場している。ただ先のも書いたように現在のイチゴは江戸時代末期に日本にやってくるので、今とは別のものだ。ちなみに栽培が始まるのは明治時代になってからだ。
イチゴの名産地
日本のイチゴの生産量は1950年代に急激に増加して、1988年には約22万トンに達する。その後は減少傾向となり、2014年には約16万トンとなっている。注目すべき点は、生産量は落ちているけれど、単収は増加していることだ。品種改良や栽培方法により効率良く生産できるようになったわけだ。
生産量の約70%は太平洋に面した10県で生産されている。都道府県別に見ると栃木、福岡、熊本となっており、単収では栃木、佐賀、長崎の順番になる。ちなみに世界では中国、アメリカ、メキシコがイチゴ生産の上位3つ。さらにちなみに単収はアメリカが1位だ。
現在日本で栽培されるイチゴは、促成栽培、半促成栽培、早熟栽培、露地栽培などである。1964年は露地栽培が62%で半促成栽培が34%、促成栽培が4%ほどだった。しかし、2004年になると促成栽培が89%、それ以外が11%となっている。つまりほぼ促成栽培というわけだ。
促成栽培は初秋から施設を利用して暖房を設備し、長期間果実を収穫する方法だ。日本における最初のイチゴの品種「福羽」を選抜した福羽逸人もフランスやドイツで施設栽培の最先端を学び、促進栽培の重要性を記している。
日本での促成栽培の原型はフレーム栽培と呼ばれる栽培方法だ。南向きになるように傾斜を作り、ガラス障子などで覆い暖房する方法である。南向きにイチゴを植えることで、冬場でも日射量と温度を確保することができるわけだ。同じ原理を使った栽培方法で今もイチゴを栽培している地域が存在する。
石垣イチゴを食べる
船津伝次平をご存知だろうか。群馬の方なら知っている方も多いと思う。上毛かるたにもなっている。明治の三老農の1人で、農業の改良、寺子屋の教育、赤城山の植林などに尽力した偉人だ。
ある日、船津伝次平は赤城山に草刈りに行き、1ヶ所だけ草が大きく育っているのを発見する。その近くに大きな石があり、触ってみると温かいことに気がつく。これを利用して石と石の間にナスを植えると立派なナスが育ったという。これを石苗間と言う。
比熱の高い石垣を組んでイチゴを育てる。これを「石垣イチゴ」と言う。先にも書いたように促成栽培の原型のひとつだ。静岡県静岡市久能では今も行われており、その辺りに行くと斜面にビニールハウスが並んでいる光景を見ることができる。
この辺りのイチゴ栽培の歴史は、久能山東照宮の宮司にイチゴの苗を託され、玉石の間に植えた1896年に始まる。海の近くということもあり、昔は海で石を拾ってきて石垣を作りイチゴを植えていたそうだ。1923年にコンクリート板が考案され、今はコンクリートで石垣が作られている。
石垣と石垣の間にちょっとだけ土が露出しており、そこにイチゴが植えられている。ビニールハウスに覆われてはいるけれど、暖房器具などはなく、ただ覆っているだけ。通常は加熱する必要があり、暖房機が使われているけれど、ここにはないのだ。ただ石垣ですから、触ってみると石垣は温かいし、ハウス内も暖かかった。
今回伺ったストロベリーフィールドさんでは昔は今よりも倍の広さで石垣イチゴを育てていたそうだ。今のようなハウスは戦後に始まったと言う。植えるのは全て手作業で、肥料も土に穴をあけてからあげないといけないので大変とお話していた。
最近は作業者が腰をかがめなくていいように、高設栽培を行うところも多い。平床栽培と比べて収量が増えるということはないのだけれど、地温の影響を受けにくいことや、作業のしやすさが挙げられる。ただ石垣イチゴはそれがないので、より大変な気がする。
この辺りで育てられる品種は古くは「福羽」であり、現在は「章姫」や「紅ほっぺ」が多い。ストロベリーフィールドさんで紅ほっぺを買って食べてみたら驚くほど甘かった。サイズも大きかったけれど、これは採れ始めは大きく、だんだんと小さくなるため。とにかく甘いのが印象的で、石垣すごい、と感動した。味が濃いのだ。
イチゴの品種
イチゴの生産量は減少しているけれど、品種は増えている。特定の品種が大きなシェアを確保することは難しいのが現状だ。スーパーに行き、イチゴ売り場を見るとわかるけれど、とにかくいろいろな品種のイチゴが並んでいる。
育生地は福岡、登録年は2005年の「あまおう」。糖度は高く酸味は中程度で赤色が濃いのが特徴だ。香りも強くやわらかくジューシーと言える。久留米53号と育成系統を交配した品種だ。とにかく甘い、という感想を持つ。あと赤が濃いので見ていて惚れ惚れする。
育生地は佐賀で、2018年に登場した佐賀ではさがほのか以来20年ぶりのブランドとなる「いちごさん」。正式な品種名は「佐賀i9号」となる。形が美しく、甘さは優しく、ジューシーな味わいだ。さっぱりとしているのが特徴ではないだろうか。7年もの開発期間を経て完成した。
育生地は熊本で2017年に登録された「ゆうべに」。色が赤というよりは夕べに色と言えばいいのだろうか、赤が濃いという感じではない。硬派な甘味を持ち身は硬めな感じだ。酸味が控えめなので、甘さは際立つ。
育生地は栃木県で登録年は2014年の「スカイベリー」。円錐で縦長の形は、イチゴと言われて思い浮かべる形に近い気がする。外側が甘く、中に行くほどに心地よい酸味を感じる。光の関係なのか、輝きが強く感じた。
育生地は栃木県、登録されたのは1996年の「とちおとめ」。甘みが強く、酸味はほどほど。イメージするイチゴの味と言えばいいのだろうか、お手本のようなイチゴ味だ。比較的日持し、東日本で一番育てられている品種でもある。
育生地は栃木県、登録年は2019年の「とちあいか」。最大の特徴は半分に切った時に現れるハートの形ではないだろうか。香りがよく、爽やかな甘みを感じた。その形から、そのまま食べるのもいいけれど、スイーツに添えるとより映える気がする。
育生地は静岡県、登録年は2002年の「紅ほっぺ」。章姫とさちのかを組み合わせた品種だ。断面まで赤いのも特徴の一つ。甘味は強く、酸味はそこそこなので、甘みが際立つ感じだ。断面まで赤いので、見た目も手伝い、甘みを強く感じる。
育生地は鹿児島、2013年に登録されたさがほのかの変異株「淡雪」。とにかく白い。イチゴと言えば赤いのだけれど、とにかく白いことに目がいく。果肉がほろほろと崩れる感じで、他のイチゴとは食感も異なる。甘味は強く南国の味わいもあわせもつ。
これからちょっと安くなる
先にも書いたけれど、東京市場でイチゴが一番取り扱いされるのが3月。そして、価格が一番安くなるのが5月だ。6月からは価格が上がり、実は9月が価格的にはピークを迎える。イチゴをたらふく食べたいと思ったらこれからの季節なのだ。品種ごとに味に違いがあるので面白い。ちなみに、イチゴに含まれるビタミンCはバナナやりんご、ぶどうなどよりかなり高いので健康にもいいです。
参考文献
『まるごとわかるイチゴ』西澤隆 誠文堂新光社 2017
『農業技術大系 野菜編』農文協 農山漁村文化協会 2009
『老農船津伝次平』柳井久雄 上毛新聞社 1989
著者 地主恵亮
1985年福岡生まれ。基本的には運だけで生きているが取材日はだいたい雨になる。2014年より東京農業大学非常勤講師。著書に「妄想彼女」(鉄人社)、「インスタントリア充」(扶桑社)がある。
Twitter:@hitorimono
Source: ぐるなび みんなのごはん
イチゴとはなんなのか…? 流通のピークに合わせていろいろな品種のイチゴを食べ比べてみる