最近になって「ファラフェル」という料理を聞くようになった。なんでも中東発祥の伝統料理で、アメリカやヨーロッパでは数十年前から馴染みのファストフードなのだとか。ネットで調べてみたところ、日本でも数年前からじわじわとブームのきざしはあり、東京都内にも専門店がいくつか存在していることがわかった。
もしかしたら、ファラフェルもケバブのように身近な食べ物になっていくのかもしれない。というわけで、ブレイク寸前(?)のファラフェルを予習しておくために専門店を巡り、タイプの異なる3つを食べ比べてみた。
※各店舗は新型コロナウイルス感染症対策を実施しており、取材も対策を講じた上で実施しました。
パリ風のファラフェルサンドを日本人向けにアレンジ
はじめに訪れたのは、中目黒のファラフェル店「Ballon」。外観はパリのファラフェル専門店をイメージしたのだそう。
パリ? 中東の料理じゃなかったっけ? この疑問は一旦置いといて、ファラフェルをオーダーした。
こちらが噂のファラフェルである。揚げたこ焼きのような見た目とサイズ感で、思ったよりも小ぶりだ。
そして、気になるお味はスパイシーなコロッケといった感じ。外はカリッ、中はホクホクした食感。芋ではないことはわかるが、一体中身はなんなのだろうか?
――ファラフェルの中身ってなんですか?
田中さん:当店のファラフェルは「ひよこ豆」を使っています。
――ひよこ豆??
田中さん:一般的なファラフェルは、水で戻し、すり潰したひよこ豆がベースになるんです……そこにスパイスや、うちでは入れていませんがハーブを一緒に混ぜ、丸めて揚げています。
――ひよこ豆、あまり食べ慣れない食材ですが美味しいです。
田中さん:ありがとうございます。そのままでも十分美味しいですが、ピタパンに挟み、ファラフェルサンドとして食べるのが主流ですよ。
――さらに食べ応えが増しましたね。なにが入っているんですか?
田中さん:具材はファラフェル、紫キャベツ、にんじんマリネ、揚げなす、グリル舞茸、マッシュポテトなどオーガニック野菜を詰め込んでいます。
――豪華だけどヘルシーでいいですね。それでいて、しっかりボリュームもある。あと、ソースも好きです。
田中さん:白いゴマのソース「タヒニソース」と唐辛子のソース「アリッサ」を使っています。ちなみに、ピタパンにはジャガイモを練りこんでいるため、1つ食べればお腹いっぱいになれると思いますよ。
――本場の中東も同じような味なんですか?
田中さん:違うと思います。ピタパンにファラフェルや野菜を詰め込むまでは同じですが、当店は隠し味に醤油を使ったり、舞茸や揚げナスといった日本の食材を入れるなど、日本人向けにアレンジしていますから。
田中さん:ちなみに、アメリカやヨーロッパ諸国では数十年前からブームだったようです。当店のオーナーもパリでファラフェルに出会いました。パリのマレ地区には「ファラフェルサンドストリート」という通りがあり、たくさんのお店が並んでいるそうです。
――だから、このお店もパリのファラフェル専門店をイメージしたんですね。ただ、そこまで注目の料理だったとは知らなかったなあ……。
田中さん:当店をオープンしたのは2017年ですが、当時も日本ではあまりメジャーではなかったですから。最近になって脚光を浴びているのは、おそらく近年のヴィーガン料理に対する注目度の高まりが影響していると思います。
――なるほど。まとめるとファラフェルとは「中東発祥」で「ひよこ豆をベースに使った揚げ物料理」ということですね……。
田中さん:ただ、正確な発祥まではわからないんです。お客様には「イスラエルの料理ですよね?」と聞かれることが多いのですが、定かではありません……。また、エジプトではひよこ豆ではなく、違う豆を使うなど、地域によっても微妙に違いがあるようです。
――へえ! いいこと聞いた。せっかくなので、違うタイプのファラフェルも食べ比べてみます。
紹介したお店「Ballon」
※本記事に掲載された情報は、取材日時点のものです
※電話番号、営業時間、定休日、メニュー、価格など店舗情報については変更する場合がございますので、店舗にご確認ください
「そら豆」をつかった、エジプト流のファラフェルサンド
次に訪れたのは、東北沢駅からすぐの住宅街にある「Deli Shop うちむら」。看板にある通り、エジプト料理が食べられるお店だ。
先ほどの「エジプトのファラフェルはひよこ豆ではない」という情報を手がかりに訪れてみた。
こちらがエジプトのファラフェルとファラフェルサンド。見た目やサイズ感はBallonと似ているが、味が全然違った。これは豆が違うのだろうか。それとも味付け?
――ファラフェルの中身ってなんですか?
内村さん:当店のファラフェルは「そら豆」を使っています。中東や欧米では、ひよこ豆のファラフェルが主流ですが、エジプトではそら豆を使うことが多いんですよ。
――あ、やっぱり。ベースの食材が違っても、料理名はファラフェルなんですね。
内村さん:ファラフェルですね。ただ、エジプトでは地域によって「ターメイヤ」とも呼ばれています。
――なるほど。そら豆を使うこと以外に違いはあるんですか?
内村さん:つくる人や地域によって混ぜ合わせる野菜、スパイス、ハーブを変えるくらいで、そこまで大きな違いはないと思います。一般的にパセリやパクチー、生のニンニクなどを入れることが多いですね。当店もパセリを使っているため、断面は緑色です。
――初めて食べる味ですけど美味しいです。ファラフェルサンドの具には何が入っていますか?
内村さん:キャベツ、ピクルス、トマトを入れ、白いゴマのソース「タヒーニ」をかけています。ちなみにゴマソースは日本だけでなく、エジプトでもポピュラーなんですよ。
――そういえば、さっきのお店のソースも「タヒニ」でした。ファラフェルの定番ソースなんですね。具はけっこうシンプルですけど、これはエジプト流?
内村さん:いや、具はお好みですね。ホンモス(ひよこ豆のペースト、フムスという表記も)やムサッアー(ナス料理)、ヨーグルトサラダ、モロヘイヤなど、それぞれがピタパンの中に好きな食材を入れて食べます。また、挟むだけでなく、ピタパンをちぎって、ディップしながら食べることも多いですよ。
――日本でいう、手巻き寿司のようなスタイルですね。
内村さん:近いですね。うちでは成人男性ならピタパン4~5枚はお召し上がりになります。なかにはピタパン10枚とファラフェル10個を買われるお客様もいらっしゃいますね。
――10個も! ファラフェルパーティーだ。エジプトでもファストフード感覚でテイクアウトする人が多いんですか?
内村さん:そうですね。もともとは家庭料理なので家でもつくりますが、とても手間がかかる料理なので大変なんですよね。そのため、お店で買う人も多いです。日本でいう、子どもがコロッケを買いにいく感じに似ていると思います。
――ちなみに、さっきのお店でも聞いたんですけど、発祥はどこなんですかね?
内村さん:諸説あるため、どこの国というのは言い切れないですね。クレオパトラの時代にモロヘイヤが高貴の人々の食べ物だったという話があるように、ファラーフェルもかなり古くから食べられていたという説も。いずれにせよ、昔から中東全域で広く愛され、そこから海外へ渡った移民によってアメリカやヨーロッパへと広まっていったのだと思います。
紹介したお店「Deli Shop うちむら」
※本記事に掲載された情報は、取材日時点のものです
※電話番号、営業時間、定休日、メニュー、価格など店舗情報については変更する場合がございますので、店舗にご確認ください
現地の味を再現した、イスラエルのファラフェルサンド
最後はやはりルーツとの説があるイスラエルのファラフェルを食べてみたい。というわけで、江古田にあるイスラエル料理店「シャマイム」を訪れた。“本場”の伝統的なファラフェルは一体どんなものなのだろうか。
こちらがシャマイムのファラフェルである。今日3つ目のファラフェルだが、これまた違った味わいで美味しい。ただ、何が違うのかはわからない。……聞いてみよう。
北岡さん:イスラエルのファラフェルは、ひよこ豆をベースにスパイスやハーブのほか、たっぷりの野菜を入れるのが特徴です。砂漠を農地に変え、野菜の栽培に成功したイスラエルらしいファラフェルだと思いますよ。
――ちなみに、どんな野菜を混ぜ合わせていますか?
北岡さん:人によって分量や種類は違いますが、基本的にはたまねぎ、ニンニク、イタリアンパセリ、パクチーなどが入っています。
――北岡さんはどういう食べ方が好きですか?
北岡さん:レストランに行くと、サイドディッシュとして単体で食べます。あとはファストフード感覚で、ピタパンに挟んで食べることも多かったですね。小学生のころから、身近なおやつという感じでしたよ。
――思い出の味なんですね。
北岡さん:そうですね。日本の子どもがお小遣いを持って、駄菓子屋に行くのと同じだと思います。ちなみに、私の地元はファラフェル専門店が多く、激選区だったんですよね。そのなかで、私が一番好きなお店のファラフェルをシャマイムでも再現しているつもりです。
――ということは、本場中の本場のファラフェル食べられるってことですねが。ちなみに、北岡さんのファラフェルの美味しい基準って?
北岡さん:私の場合は、パサパサなファラフェルが嫌いです。あと「豆」の感じが伝わるのも苦手ですね。ひよこ豆ってもともとが酸っぱい豆なので、豆の味が強いと酸味が出てくるんですよ。もちろん、そういうファラフェルが好きな方もいますが。
――じゃあ、北岡さんはしっとりとしたファラフェルがお好きなんですか?
北岡さん:そうですね。あとは、野菜、ハーブ、スパイスがたっぷり入ったのが好きです。
メニューにファラフェルサンドはなく、コース料理で提供しているそう。せっかくなので、北岡さんオススメの食べ方を伝授していただいた。
北岡さん:最近は「ヴィーガンでも大丈夫ですか?」というお問い合わせが、日本人のお客様からも増えてきました。まだまだ食べたことがない方も多いと思うので、みなさんにもお気に入りのファラフェルをぜひ見つけてもらいたいです。
紹介したお店「SHAMAIM」
※本記事に掲載された情報は、取材日時点のものです
※電話番号、営業時間、定休日、メニュー、価格など店舗情報については変更する場合がございますので、店舗にご確認ください
※お酒の提供については、現在、国や自治体の要請に準じています
完全に他のタイプもいろいろ食べたくなってしまった
パリ、エジプト、イスラエル、タイプの違う3つのファラフェルを食べ比べてみた。豆がベース、スパイス、ピタパンに挟んで食べる、白ゴマのソース「タヒニ」など、基本的なフォーマットはあるものの、かなり自由で懐の深いメニューであることが分かった。土地やお店によって、さまざまなアレンジが加わるファラフェル。もっといろんなタイプを食べてみたいので、日本でも大ブームになって欲しい!
撮影:藤本和成
著者プロフィール
小野洋平(やじろべえ)
1991年生まれ。編集プロダクション「やじろべえ」所属。服飾大学を出るも服が作れず、ライター・編集者を志す。自身のサイト、小野便利屋も運営。
http://yajirobe.me/
Twitter:@onoberkon
Source: ぐるなび みんなのごはん
パリ風、エジプト流、イスラエル味。噂の「ファラフェル」を知りたくて都内専門店を食べ歩いてみた