バウムクーヘンという食べ物がある。真ん中に穴が空いていて、木の年輪を模した焼き菓子だ。日本では一般的なお菓子で誰もが食べたことがあるのではないだろうか。お土産にバウムクーヘンを買うこともある。
またクリスマスに食べると言えば「シュトーレン」も有名だ。粉砂糖をたっぷりとまとった様子は雪景色のようで、クリスマスに向けて少しずつ食べていく。そんなバウムクーヘンとシュトーレンはドイツ発祥のもの。ぜひ本場の味と歴史を見てみようと思う。
バウムクーヘンの話
誰もが知っている「バウムクーヘン」。「バウム」が「木」を意味し、「クーヘン」は「ケーキ」ということになる。断面が木の年輪に見えることからこのような名前がつけられた。
バウムクーヘンは日本ではとても一般的な焼き菓子だ。羽田空港などに行くとお土産としても売られている。バウムクーヘンは東京で生まれたものではないけれど、人気の焼き菓子ということではないだろうか。
バウムクーヘンはドイツが発祥だ。ドイツの伝統的な祝い菓子なのだ。ドイツに残されている最も古いバウムクーヘンのレシピは1450年頃のもので、ハイデルベルクで書かれた。日本はその頃、室町時代後期。織田信長もまだ生まれていない。
15世紀のドイツではバウムクーヘンは上流階級の結婚式で振る舞われるものだった。現在のようなバウムクーヘンの作り方(回転する棒に生地をかけて焼き上げる方法)は、17世紀になってから生まれたものだ。
私はバウムクーヘンが好きだ。木なのに柔らかいという点が非常に気にいっている。私の弟はパティシエなのだけれど、バウムクーヘンは作っていない。作るためには専門の機械(くるくる回る機械)が必要で、大きく高額で個人のお店で作るのは難しいと言っていた。じゃ、本場のバウムクーヘンが食べたいとふと思った。
ドイツのバウムクーヘン
本場ドイツに来ればいくらでもバウムクーヘンを食べることができるだろうと思った。でも、結論から言えばそうではない。ドイツ人に聞いたのだけれど、あんまり食べないと言っていた。その理由はすぐに理解できた。
パティシエの弟の話と同じ理由だ。機械の導入などが大変なのだ。そんなに売っていない。ケーキ屋などをのぞいても売っていなかった。感覚的にだけれど、日本人の方が年間で考えればバウムクーヘンを食べているのではないだろうか。
ベルリンにあるバウムクーヘンのお店を訪ねた。もはや専門店でないとバウムクーヘンはないのかもしれない。ショーケースには私が求め、ドイツまで来た理由の一つであるバウムクーヘンが並んでいた。
食べてみると美味しかった。日本の多くのバウムクーヘンより少し硬く感じる。より木に近いイメージだ。あと日本のバウムクーヘンのレベルは高いとわかった。私の好みはジャパンのバウムクーヘンだ。バウムクーヘンを食べるなら日本かもしれない。
ドイツでのバウムクーヘンは地域性の高いお菓子で、ドイツ東部では見かけるけれど、西部では見かけないそうだ。そして、クリスマスに食べるお菓子でもある。そのため通年で出回るということは、先の専門店などでなければないようだ。
私が訪れた時期はちょうどクリスマスシーズンだったので、スーパーに行くとバウムクーヘンが売られていた。日本ではバウムクーヘンをクリスマスに食べる習慣はあまりないように感じるけれど、ドイツではバウムクーヘンはクリスマスなのだ。
スーパーのバウムクーヘン
多くのクリスマス商品の中にあるバウムクーヘン。日本ではまず見ない景色なので驚いた。日本のバウムクーヘンは、第一次世界大戦中に日本軍の捕虜となったドイツ人菓子職人「カール・ユーハイム」によって伝えられたものだ。
ユーハイムは広島で日本最初のバウムクーヘンを焼いた。日本のバウムクーヘンも本場ドイツの流れなのだ。ユーハイムは会社となり今もバウムクーヘンを作っている。ちなみに今年(2022年)はユーハイム100周年。日本でバウムクーヘンが一般的なはずだ。100年だもの。
日本のバウムクーヘンがチョコでコーティングされていることはあまりないように思える。しかし、ドイツのスーパーで見かけたものはどれもコーティングされていて、同じメーカーでもコーティングするチョコにバリエーションがあったりする。こだわりを感じる。
食べる前からわかっていたけれど、バウムクーヘンとチョコの相性はとてもよく美味しかった。どこまでも甘いのだ。甘い海を泳いでいる感じ。苦いコーヒーが欲しくなった。そういえば、ドイツはコーヒーの消費量が多いから、そういうことなのかもしれない。
シュトーレンの話
クリスマスの食べ物と言えば「シュトーレン」もそうだ。最近でもないけれど、日本でも一般化したと思う。日本ではバウムクーヘンより確実にクリスマスと言えば「シュトーレン」だ。
シュトーレンもまたドイツ発祥のお菓子だ。「柱」や「支柱」という意味があるそうだ。シュトーレンに関する一番古い記述は1329年。あるドイツの街の主教がパン職人らに税金を払い、クリスマスにシュトーレンを貢ぐことを約束させた。
最初の頃のシュトーレンは、小麦粉、酵母、水だけで味はあまり期待できるものではなかった。贅沢品であるバターを使うことも許されなかった。やがてバターなど他のものを使うことが許されるようになり、今日のシュトーレンとなっていく。
シュトーレンの本場はドイツのドレスデンだ。ドレスデンのシュトーレンにはバター以外の油脂や人工香料を使ってはならないとあり、焼く際に型を使用しないなどの規定もある。それはそれとして、この時期にドイツに行くと日本で食パンを買う感じでいろいろなシュトーレンを見ることができる。
パティシエの弟に聞けば、シュトーレンの王道はマジパンを使ったものと言っていた。そこにたくさんのドライフルーツを入れる。レーズンが基本で、アプリコットやパイナップル、プルーンなどを入れるそうだ。
作るのは大変でドライフルーツをラム酒につけるところから始めるので、1ヶ月かかると言っていた。また焼き上がってもすぐには棚に並ばない。その時は硬く、バターやドライフルーツの水分が行き渡ってから完成となる。
シュトーレンはクリスマスまでに毎日少しずつ食べる。なぜそんなに日持ちするのかと言えば、弟曰く「水分量が圧倒的に少ないから」と言っていた。味も日々変わるそうだ。そのような変化を楽しめるのもシュトーレンの魅力だ。
ドイツにはいろいろな種類のシュトーレンがあった。同じメーカーから味違いが出ている。また商品によってはレーズンの含有率が書かれていて、シュトーレンとレーズンの関わりへのこだわりを感じる。
シュトーレンは総じて高いけれど、ドイツのスーパーに売っているものは高くはなかった。弟のお店では3,000円で売っていると言っていた。ドライフルーツがとにかく高いそうだ。マジパンも高いらしい。作るのも大変でクリスマスは大変と、私の半年分くらいの「大変」を連呼していた。
もうすぐクリスマス!
クリスマスはもう近い。バウムクーヘンを食べてもいいし、シュトーレンを食べてもいいし、両方を食べてもいい。ドイツは素晴らしくクリスマスで、それぞれに種類があって面白かったし、美味しかった。クリスマスは甘いのだ、いろいろな意味で。メリークリスマス。
参考文献
「ドイツ菓子図鑑 お菓子の由来と作り方: 伝統からモダンまで、知っておきたいドイツ菓子102選」森本智子 誠文堂新光社 2018
「たべもの起源事典世界編」岡田哲 筑摩書房 2014
著者 地主恵亮
1985年福岡生まれ。基本的には運だけで生きているが取材日はだいたい雨になる。2014年より東京農業大学非常勤講師。著書に「妄想彼女」(鉄人社)、「インスタントリア充」(扶桑社)がある。
Twitter:@hitorimono
Source: ぐるなび みんなのごはん
メリークリスマス! バウムクーヘンとシュトーレンを発祥の国で食べる